脱出!ブラックホール!!⑥
ブラックホール。それは光すら脱出できない重力の星。
グレイは奈落の底に落ちて行く。
特殊作業服でなければエンジン噴射の熱と衝撃で死んでいただろう。
今は放射線の嵐。星間物質の圧がかかる。激しいGで意識が薄れていく。
「・・・どうだ?おにいちゃん、がんばっただろ?」
「うん。よくやった。おにいちゃんにしてはね」
妹の声。幻聴でも何でもいい。涙が溢れる。
「ずっと・・後悔していた・・お前を・・助けられなかったこと・・」
「すぐ泣く。泣き虫おにいちゃん。・・ありがとう・・さよなら」
「もうすぐ会えるさ・・」
「まだだよ。生きてね。あたしの分まで・・バイバイ・・」
「・・・・・」
「・・レ・イ・」声?空耳?
「グレ~イ!」
グレイは目を開ける。ブラックアウトでよく見えない。目を凝らす。
見えたのは・・・宇宙船。
コクピットが開き、明が手を伸ばす。
「妹が死んだ時、俺は全ての人間を憎んだ。誰も信じられなかったんだ。
三年間、復讐の事しか頭になかった。復讐のためだけに生きてきた。
・・・だが、そんな俺に優しく接してくれる奴らがいた。
・・・俺は・・もう一度、人を信じてみようと思う」
手と手が繋がる。
小型艇反転。反重力ミサイルをブースター代わりに噴射させ、X-1から脱出を図る。
Gに耐える明とグレイ。
明は操縦に必死で気付かなかったが、後席のグレイにははっきりと見えた。
ブラックホールに落ちて行く宇宙要塞が。そのブリッジのドレイクらしき姿が。
「・・・」
グレイは目を閉じてため息をつく。
「終わった。終わったんだ」
涙が溢れる。
前席の明はグレイが泣いているのに気付いたが、何も尋ねなかった。
エネルギーが切れ、反重力ミサイルの噴射が止まる。
ミサイル分離。
みるみる後方へ消えて行く。ミサイルは分離後5秒で爆発するようセットされていた。
爆発。
無限大の重力が反重力に変わる瞬間。爆発がもう少し近ければ小型艇は粉々になっていただろう。それでも凄まじいG(反重力)がふたりを襲う。
小型艇はX-1からの脱出に成功した。
その前方に<フロンティア号>が迎えに来ていた。
ヨキとシャーロットが抱き合って喜ぶ。美理の顔に笑みが戻る。その横で麗子も安堵のため息をつく。操縦桿を握る啓作も嬉しそう。
小型艇は無線アンカーを発射し、<フロンティア号>に曳航される。
安全圏に到達後、小型艇を収容、<フロンティア号>はさらに速度を上げ、X-1から遠ざかる。
海賊の要塞はどんどん速度を増し、重力の底へ落ちて行く。
要塞の表面は数万度の高熱ガスに焼かれ、ブラックホールの重力だけでなく星間物質の圧力でボコッと穴が幾つも開き、へしゃげる。圧潰。やがて全体に亀裂が入り、粉々に砕けた。爆発の光も煙も全てがブラックホールに飲み込まれていった。
<エンゼル=ヘア>と<フロンティア号>と銀河パトロール艦隊は、X-1から離れ、並行して航行していた。マスコミの宇宙船が周りを航行。
修学旅行は中止。生徒たちは銀河パトロールの船でルリウス星に帰還する事となった。
<エンゼル=ヘア>から12体、海賊の要塞からは56体の精神移植用に眠らされた人々が発見・救助された。違法クローンもいたが、その多くは行方不明になっていた人達だった。彼らは自由になった。銀河パトロールは“クライアント“と呼ばれる精神移植目的の客のリストを入手、近々大規模な一斉摘発を行う予定である。
銀河パトロール艦隊旗艦。
明たちとグレイは事情聴取を受けていた。
先に終わった明たちが出て行く。美理と麗子は<フロンティア号>で帰る事になった。
休憩中のグレイは親指を立て合図した。
麗子は途中で引き返し、グレイに話しかける。
「あの・・お礼を言っていませんでした。助けていただき、ありがとうございました」
「助けたのは俺じゃない」
「いいえ。一番初めに助けてくれたのは貴方です(あ、違うわ。美理だ。ま・いっか)」
「・・・」
「またお会いできますか?」
「・・いつかどこかで」
お辞儀をして麗子は明たちのもとへ。顔が真っ赤だ。美理が迎える。明が手を振る。
グレイも手を振り、微笑む。その口元が動く。
“ありがとう“と。




