最も危険な輸送①
登場生物紹介
弓月 明 :<スペースマン>リーダー。約500年の冷凍睡眠から目覚める。
流 美理 :真理之花女学園高等部二年生。地球人と異星人の混血。
ボッケン :シェプーラ星の馬型高等生物。刀の達人(馬)。
ピンニョ :DNA改造された元実験動物(鳥)。ステルス能力。
ヨキ :時間制限付エスパー。チビ。元ベムハンター。
マーチン :メカニックのプロ。大食漢。デブ。帯電体質。
シャーロット :コンピュータープログラマー。啓作の恋人。
流 啓作 :美理の兄。医師。出生不明の異星人。チームのブレイン。
山岡 麗子 :美理の親友。天才美少女。
グレイ :自称銀河一の情報屋。
流 啓三 :啓作と美理の父。<地球連邦>軍人。現在消息不明。
弓月 丈太郎 :通称ドクターQ。啓作の指導医。現在消息不明。
ドレイク :宇宙海賊団の団長。その正体は謎。
ジャック :ドレイク海賊団の一人。
デス :同上
フィリップ :同上
レオナルド=アダムス:大富豪。豪華宇宙客船<エンゼル=ヘア>のオーナー。
ガルーダ :ピンニョと同じくDNA改造された元実験動物(鳥)。
第1章 最も危険な輸送
―宇宙暦498年―
旧暦末に地球に落下した巨大隕石により、地球は氷河期に突入していた。
人類はワープ航法を発明し、銀河の星々に進出、地球とその移民星から成る<地球連邦>はほぼオリオン腕をその勢力圏に治めていた。
自由貿易宇宙船<フロンティア号>を駆るチーム<スペースマン>の仕事は「運び屋」。
メンバーは明、ボッケン、ピンニョ、ヨキ、マーチン、シャーロット、啓作の7人(正確には5人と1頭と1羽)。合法の範囲内で物資を超特急で運搬するのが売り。麻薬と兵器は運ばない。チーム名の<スペースマン>とは本来宇宙飛行士の事だが、宇宙旅行が当たり前となったこの時代、自由貿易者や冒険者の意味もある。
明はその門の前に立っていた。
移民星ルリウス・真理之花女学園の校門。流啓作の妹・美理が通う名門女子校。
かつて明はこの門の中でどえらい目に遭っていた。
唾を飲み込んで一歩を踏み出す。
「この一歩は人類にとってはどうでもいい一歩だが、俺にとっては偉大な躍進だ」
・・・何も起こらない。あの執拗な男性撃退レーザーが襲って来ない。
「おお」思わず顔がにやける。「俺は今モーレツに感動している!」
「何やってる。行くぞ」啓作が催促する。
今日は学園の文化祭。生徒からの招待状があれば、大手を振って入る事が出来るのだ。
中高一貫、各学年約100名・計600名の女の園。海を見下ろす丘の上に、西洋中世の城の様な外観の本館と3階建ての校舎三つと体育館。すれ違う生徒は礼儀正しく、皆「ごきげんよう」と挨拶してくれる。制服は古風なセーラー服。しかも白い夏服♡。
明・啓作・ヨキ・マーチン・シャーロットの5人は、模擬店の並ぶ中庭を抜ける。
ボッケンは残念ながらお留守番。皆スペーススーツではなく普通の洋服を着ている。勿論銃は持っていない。
途中マーチンが消える。アメリカンドッグ・たこ焼き・おでん・・・いつの間にか行列に並んでいる。食いしん坊ゆえ無理もない。
「兄さーん」
模擬店の店員をしている美理が声をかける。
啓作は手を上げて答える。
「ごきげんよう。来てくれてありがとう。クレープ食べてって~。いろんな味あるのよ、どれにする?」
美理は屈託なく笑う。ヒヨコ柄のエプロンが可愛い。
一か月前、明たちは彼女を星間犯罪結社<パラドックス>の手から守った。その笑顔を失わせないでよかったと思う。
“ろしあんクレープ当たり付き”なるものを注文。何が入っているかわからない奴。
「!・・何だ?これ」
「あ、それ当たり。激辛めんたいわさびカルボナーラ味粒あん入り」何だそれは。
明がお口直しにジュースを飲んでいると、生徒同士の会話が聞こえてきた。
「ねえ、見た?」
「見た見た」
「私も。見たら幸せになれる“幸せの黄色い小鳥”。彼氏できるかな?」
「・・・・」
「・・やっぱあいつ?」
明たちは顔を見合わせる。ボディガードとして美理に付けたピンニョの事?
ステルス化したピンニョが明の頭にとまる。
「ごめん。見られちゃって学園七不思議の一つになっちゃった。あははは。それからあの子に正体ばれちゃった」
見えない羽根で指す先に一人の生徒がいた。
すらっとした長身に短い黒髪。制服の上からもスタイルの良さが分かる。道ですれ違ったら絶対振り返って見ると思う。清楚な美少女は制服の上に“ミス真理女”と書かれたたすきをかけていた。山岡麗子。美理のルームメイト。
(回想)
真理之花女学園・女子寮。美理と麗子の部屋。
「ありがとね、麗子。もうちょっとノート貸しといてね」書き写している。
「構わないよ。睡眠学習しないの?」
眠っている間に学習できる魔法の勉強法だ。
「時間かかるけどこれ位なら・・地球圏コロニー独立戦争っていつだっけ?」
「79年」
「ありがと。ホント人間って戦争ばっかしてるよね。・・ねえ、あのアリバイ無理過ぎない?」
パラドックスの事件。美理は遠い恒星系の法事に行って、そこで遺産相続殺人事件に巻き込まれて、解決して出発しようとしたら、大規模な恒星嵐で足止めになった・・・事になっていた。
「何言ってんのよ。いつ帰るか分からないから、どんどん長くなったんじゃない」
「そうでした。あ、ワープ航法の発明は?」
「199年。ここヤマだよ。ねえ、通信の時に一緒だった男の人、カッコよくなかった?」
麗子は喋りながらイスを傾ける。お嬢様らしからぬ行為である。
「まだまだ男見る目ないね」ピンニョの声。
「?」
麗子はあたりを見まわすが、ピンニョはステルス化していて見えない。美理と目が合う。
「いま声がしなかった?」
「え?・・何のことかな?」しらばくれる。
「空耳?えーと、何の話してたっけ。あ、あの男の人」
「明さん?優しかったよ」
「スケベなだけ」
また天の声?麗子は天井を見上げる。
「そんな事ない!」
「わ」
美理が大声を出したので、ピンニョは驚いて姿を現してしまった。
「きゃあ!」ずで~ん。
突然現れた小鳥に驚き、麗子は傾けたイスごと後ろへ転倒する。
「だだだだだ・・・だれ?ななななな・・なに?」動揺している。
「ばれちゃったよう」
「ごめん。でも明さん命がけで守ってくれたんだよ。命の恩人だもの」
(それは事実だが、風呂を覗かれかけた事を彼女は知らない)
「・・こんにちは」気まずい“幸せの黄色い小鳥”。
「・・ご、ごきげんよう。喋れるの?」
「説明するね・・・」
美理は法事として欠席していた時に何があったのかを説明した。
麗子は親友だ。でも自分の母と兄が異星人で、自分にも半分その血が流れているという事はまだ言えなかった。
「すごい経験したのね。 私は山岡麗子。よろしくね」
「ピンニョです。こちらこそ」
ふたりは握手する。
「内緒にしてくれる?」
「勿論」麗子がウインクする。
ホッとする美理とピンニョ。
(回想終わり)
明たちに気付いた麗子はペコリとお辞儀をする。
「美理ちゃんと通信していた子だ。・・ミス真理女?」
「すごいでしょ。綺麗なだけじゃダメ、成績とか礼儀作法とかも含めて決まるの。一次審査は先生による書類審査で、今日の午前中に水着審査と最終審査があって・・」
「なにぃ?水着?」
「スクール水着だけどね」
「なんという事だ」
見損ねて残念がる明とヨキ。膝を落とし落ち込む。
「・・・」
美理が呆れていると、シャーロットがクレープを食べながら尋ねる。
「美理ちゃんも出たの?」
「一次審査で落ちました」中間テスト散々だったから(涙)。
歓声が上がる。
その方を見ると、ミス真理女が壇上に立っていた。
「ごきげんよう、皆様。今日は真理女祭にご参加くださりありがとうございます。お祭りもあと数時間、次はチャリティダンスパーティーです。」
「麗子はスポーツ万能だから、一応放送部だけど色んな部に助っ人してるの。本人はダンスと弓道が好きだって」美理が説明する。
「(綺麗だ。でも俺より背高くないか?)ん?」
来賓席の男性が麗子を見つめている。
ぷっくりと出たお腹、スキンヘッド、50代半ばの中年だが、明はその鋭い視線が気になった。舐めるように麗子を見ている。まあ明も同じなのだが。この男、どこかで見た気がする。
「レオナルド=アダムス。財閥アダムスグループの総帥だ。この学校に多額の寄付を行っている、まあスポンサーだな」
いつの間にか明の隣にグレイが立っていた。
自称“銀河一の情報屋”。金髪のイケメンだ。周りの女生徒達が騒いでいる。
「何でお前が?招待状は?」イケメンは男の敵だ。
「そこはそこ。俺に不可能はない」グレイは来賓席を見続けている。
「そおいえばマーチンは?」ヨキがクレープを食べながら尋ねる。
「さっき茶道部の喫茶で正座してお茶飲んでたぞ」さすが情報屋。
アダムスが舌なめずりするのを、明は見過ごさなかった。
啓作の通信機兼腕時計に<フロンティア号>で待機中のボッケンから連絡が入る。
『啓作、ユバ星のディラノイ教授って知ってる?急ぎの仕事依頼が来た』
「分かった、すぐに戻る。明!」
「え?ダンパは?」踊る気満々・・