脱出!ブラックホール!!⑤
<フロンティア号>ではその異変をキャッチしていた。
「くそっ、マネしたな!」ヨキが怒る。
「先にまわりこんで反重力ミサイルだ!」
危険な行為なのは分かっていた。だが他にこの状況を打破できる術を思いつかなかった。
「それしかないな」啓作も明と同意見だ。
「宇宙最大クラスの重力よ。覚悟してね。ホワイトホール化するかも」
シャーロットの警告を聞き、美理は息をのむ。
<フロンティア号>はX-1に向かう。
瞬く間に<エンゼル=ヘア>ら宇宙船群が迫る。
下部格納庫が開く。中にあるのは<フロンティア号>の1/3程もある大型ミサイルが二つ。
「発射!」
ピンニョが発射ボタンを踏む。軽い衝撃。
「もどるぞ!」
啓作は<フロンティア号>は反転させる。
放たれた反重力ミサイルは、<エンゼル=ヘア>ら宇宙船群を追い抜いてX-1へ・・・
光!
重力が反重力に変わり、後ろから押される形で<フロンティア号>は猛加速した。
宇宙船や星間物質が凄まじい速度でブラックホールから吹き飛ばされて行く。
海賊が落とした大遊星も例外ではない。上昇し・・・
「な、何をしたんだ!?」ドレイクが驚く。
海賊の要塞は偶然重力と反重力の境界線にいた。両者の力が拮抗し動けない。
そこへ上昇して来た大遊星が衝突した。
「わあつ!」衝撃が要塞を襲う。
要塞は大小二つの球体が繋がった鉄アレイ型をしているが、真っ二つに割れる。
<エンゼル=ヘア>の中ではマーチンが衝撃で目覚めていた。乗員も。女子高生たちも。
銀河パトロールも、マスコミも同様だ。
『このままではブラックホールに落ちます。直ちに脱出してください』
Gに耐えながらピンニョがマイクに向かって叫ぶ。
やがて光は消え・・・反重力は重力に戻る。
「はあはあ・・やった」
明が成功を喜ぶ。後ろの美理たちを見る。
美理と麗子は気を失っていた。すぐに気づくだろうが。ちょっとスカートがめくれている。ラッキー♡。明がチラチラ見てたら、ピンニョの羽根手裏剣が鼻先をかすめた。懲りない奴。
「使用可能な全てのエンジンを噴射!」
<エンゼル=ヘア>は中央船体だけでなく五つの船体全てのエンジンを噴射。X-1より脱出する。銀河パトロールやマスコミの船も続く。
一方、二つに割れた海賊の要塞のうち、メインエンジンのある大きい球体は辛うじて脱出可能だったが、小さい球体は推進力が足りず、X-1に落ち始めていた。ブリッジはその中にあった。壁や床は割れ、至る所で炎が上がっている。海賊達は我先にと逃げ惑う。その中でドレイクは睡眠音波のスイッチを押した。
「逃がしてたまるか。地獄へ落ちろ」
だが催眠音波の放射装置は破壊されていて動かなかった。
<エンゼル=ヘア>ブリッジではマーチンらの復旧作業が続いていた。
「だめだ!出力が足りない!被弾した第3エンジンからエネルギーが漏れている」
「自動修復装置が動かない。このままでは・・」焦る船長。
「伝導管に開いた穴を外から塞ぐ事が出来れば・・」
『わかった。俺がする!』
通信を傍受したグレイが名乗り出る。機関室の近くにいたのだ。
特殊作業服を着て船外に出る。重金属ファイバー製の命綱を付け、濃密な星間物質の中を第3エンジンまで歩く。行きはGが追い風の様になるので少し楽だ。
ドアロックの近くでボッケンが見守る。
巨大な伝導管が目前に。グレイは持って来たバズーカ砲の様な溶接機を構えた。
バシュ。伝導管にトリモチの様な液体が命中、すぐに固まり、開いた穴を塞ぐ。
「作業完了」
「エンジン始動!」船長が命令する。
「まだ早い!」マーチンが叫ぶ。
遅かった。
「!!!」
グレイはエンジンの噴射によって吹き飛ばされる。命綱が切れる。
「グレイー!!」
ボッケンが叫ぶが、グレイはその声が届かないはるか彼方まで飛ばされていた。
考えるより先に身体が反応していた。
「啓作!あとを頼む!」
その様子を見ていた明は、<フロンティア号>のコクピットを飛び出していく。
「明さん!」
美理に呼び止められ、立ち止まる。
「・・気をつけて」
明は親指を立てて合図、走り出しつつ指示を出す。
「小型艇で行く!反重力ミサイルを用意してくれ!あと一個あるだろ?」
明は特殊装甲宇宙服に着替え、小型艇に乗り込む。二人乗りの作業用だ。
ハッチが開く。星間物質が格納庫内に満ちる。流入が収まるのを待ち、発進。
目の前に広がるのは闇。闇そのもの。
明は小型艇のマニュピレーターを操作し、巨大なミサイルとドッキング。すぐにエンジン噴射。全速力でブラックホールX-1へ向かう。
美理は危険な救助に向かう明を止めたかった。でも出来なかった。友を助けたい明の気持ちが分かったから。
「くやしいね。何も出来ないなんて」
麗子が呟く。麗子も美理の気持ちを理解していた。何か手伝いたいが、素人の自分たちでは迷惑になるだけだ。
「無事に帰って来て」
美理は遠ざかって行く小型艇を見守る。今は祈るしかない。
「援護するぞ!」啓作が操縦桿を傾ける。
<フロンティア号>は再び海賊船との交戦に備える。
だが要塞に大打撃をうけた海賊達は戦意を喪失、散り散りに逃げ出していた。
要塞からも多数の艦艇・カプセルが脱出。海賊船だけでなく、銀河パトロール艦隊もその救助に当たったが、その多くはブラックホールの重力に負け、引き込まれて行った。
半壊した要塞のブリッジではドレイク(=アダムス)が一人呆然と立ちすくんでいた。
初めはプライドが邪魔して逃げ出せないでいたが、X-1に近づくにつれ、正気を失っていった。
「はは・・はははははは・・・・」
狂気の笑い声がブリッジに響き渡る。




