エンゼル=ヘア②
巨大な何かが姿を現す。
次第に形がはっきりして来る。
いびつな小惑星だ。大小二つの球体が繋がった様な形状をしている。表面にあるクレーターから光が漏れる。天体ではなく小惑星を改造した移動可能な人工物、宇宙要塞だ。全長20kmはある。
「!!」
「ステルス?いや亜空間に隠れていたのか?しかしそのためには莫大なエネルギーが必要なはず・・そうか、それでブラックホールか」ようやく啓作らしくなった。
「あの形、ダルマだな」 「ひょうたんでしょ」 「殻付きピーナッツ」
どーでもいいが意見が合わない。
「どうする?」
ヨキが尋ねるが、答えはすでにわかっていた。
「決まっている。<エンゼル=ヘア>はあの中だ」明が答える。「・・多分」少し自信ない。
「水中戦に準じた戦闘態勢をとる」
<フロンティア号>は巨大要塞へ向かった。
病院。グレイは少女の手を握る。
「おにいちゃん・・」
目を開ける少女。グレイと同じ青い瞳。
「グレイ!起きて!グレイ!」ピンニョの声。
グレイが目を開ける。涙が溢れている。泣いていたのか。
「・・・ここは・・そうか、やりやがったな。ドレイク!」
「?」ピンニョは訳が分からない。
「人身売買だよ。“精神移植”目的の。その為に<エンゼル=ヘア>を拿捕したんだ」
「何それ?」
その時、軽い衝撃が船体に伝わった。
「!」
美理もそれに気付いた。ワープに似た衝撃だ。
倒れている同級生達が目覚める気配はない。謎の男達は美理の近くで立ったままだ。
「ドレイク様!大変です!攻撃を受け、通常空間に戻ってしまいました」
「攻撃だと?我々の位置をどうやって突き止めたのだ?・・分かった。要塞に戻るぞ」
「いえ、我々にお任せください。そろそろ娘が目覚める頃です」
「そうか」
男達が立ち去る。
美理は早く動きたいのを我慢し、少し待ち、
「朋ちゃん、これ借りるよ」
“ステルスかっぱ“をかぶり、ドレイクという男の後をつける。
姿を現わした巨大な宇宙要塞に、銀河パトロールは即座に反応していた。
「正体不明の宇宙要塞に告ぐ。我々は銀河パトロールである。君達は完全に包囲されている。速やかに武器を捨てて・・」
「やっかましい!」ヨキが耳を塞ぐ。「・・あれ?(聞こえている)」
通信ではない。直接の音声だ。
「ブラックホールの重力のため、この周辺は水中並に星間物質が濃密だ。(真空じゃないから)音も伝わる。勿論かなり遅れてだが」ちなみにここの音速は秒速約2000m。
啓作の解説が終わらない中に、要塞に動きがあった。
クレーターが割れ宇宙高射砲が迫り出す。別のクレーターから宇宙船が発進(出撃)する。
すぐさまシャーロットは解析を開始。
「識別・・海賊船よ!カスタマイズされた特別製。確認されているのは・・宇宙海賊ドレイク!20・30・・40隻はいる」
「また海賊が相手か」
ボッケンと交代しマーチンは再び副戦闘席へ。
「大物だ。この間の雑魚とは違うぞ」海賊界では有名人らしい。
「ボスのキャプテンドレイクは正体不明。大男らしいけど、美女って報告も。他に情報では部下に巨漢・ガンマン・美人の三人の幹部がいるって」
「相手するなら美人がいい」 「おいらも」
「他に“茶色い三騎士”という凄腕のパイロットもいるみたい」
「なぜ茶色?」 「さあ?」
銀河パトロールも散開し、海賊軍に対抗。
対峙する両陣営。宇宙戦が始まる。
先に動いたのは海賊船。一斉にビーム・ミサイルを発射。
銀河パトロールも応戦する。
ブラックホールの影響で双方共あまり命中しない。
明は要塞を見つめていた。その手は微かに震えていた。武者震い?いや違う。気付いたのは啓作だけだった。
「明、大丈夫だ。俺たちならやれる。<ネオ=マルス>に比べれば、あんなの屁でもない」
「了解。行くぞ!」
「待って。敵機急速接近!数は・・3!」
「このGの中を?」
「例の三騎士か」
<フロンティア号>よりも小型の流線形の茶色い機体。重力や星間物質の影響が無いかのような速度で迫る。通常の三倍弱。
発砲。一撃離脱。
明が素早く避けたのでビームは当たっていない。
旋回して再度襲来する。
「はやっ!なんて旋回性能だ」
水中に近い密度空間の中、三機は<フロンティア号>のホーミングレーザーを掻い潜る。
「避けた・・まるでゴキ〇〇」
「だめ。生理的に受け付けられない」
「何であんなGに耐えられる?啓作!」
「この電磁波だらけの宙域でリモコンは考えにくい。無人機かプロのスペースレーサー?でなければコクピットが耐G化された、“シンクロ”機だ。操縦しているんじゃなく、機体と直結・同調してる奴」
“シンクロ”とは操縦者と機械が一体化して意のままに操る操縦法だ。この技術を使えば初心者でもレーサーと張り合える。明たちは嫌いだから使わない。その理由の一つはパイロットとしてのプライド、もう一つは“フィードバック”という弱点だ。一体化のため、機体がダメージを受けると操縦者にもある程度ダメージが及ぶのだ。
防御レーザー発射。追いつけない。
明も負けていない。敵のビームも外れる。
「来る時は逆三角編隊で、去る時は三角編隊。つまり・・」
「頂点の一機が要。多分シンクロした有人、後は弾避け・無人機だ」
三度迫る。
「攻撃を要の一機に集中!」
プロトン砲発射。
三騎士がかわす。
そこへ回避運動を読んだビームが向かう。要の隊長機へ。
無人機体が庇う。命中。爆発。
なにはともあれ牙城は崩した。残り2機。
<フロンティア号>もサブコクピットに被弾した。相撃ちだ。
旋回する。それより早く茶騎士が迫る。
ビームが来る。
姿勢制御ノズル噴射。Gがかかる。
紙一重でかわす。そのまま回転し、
「てえ!」
プロトン砲発射。
また無人機体が庇う。だがプロトン砲のビームは無人機を貫き、隊長機に命中。
致命傷ではない。だが敵機は動かない。“フィードバック”により航行不能に陥っていた。
無人機が爆発。それに巻き込まれ、隊長機も爆発、四散した。
「・・・」
敵とはいえ、命を奪うのは心が痛む。




