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鏡に映る花、水面に浮かぶ月  作者: 魚田 太子
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「桜が呼んでる」(2)

自信なさそうな弱弱しくやっと聞き取れるような小さな声しか出なかったが、佐野崎がみんなよろしくね、といったことで、自己紹介は終了された。

ホッと一息ついて着席すると、改めて佐野崎がファイルのことについて説明を始める。


「このファイルには依頼人からの依頼書と、報告書がまとめてあります。みんなもだいたい察しがついてると思うけれど、この部は所謂“怪奇現象”の類、妖怪とか幽霊とかに関係する依頼が持ち込まれていて、僕たちはそれを調査、または解決することを活動内容にしています。」


ファイルの見開きには真新しい紙が入っており、依頼人の名前と依頼した日付、依頼内容を書く欄があり、紙の一番上には依頼書“調査依頼”とやや大きめにプリントされている。

その依頼書のページの上部には付箋が貼ってあり“依頼”とだけ書かれていた。


「こういうの遊び半分でやると怖い目に遭うっていうし、先輩の中にも危ない目に遭ってお祓いした、何て例もあるから…一見馬鹿馬鹿しいような依頼でも真剣に取り組もうね」


そう言った佐野崎の様子は、明らかにそれらの類を信じ怯えているような様子だ。

そして八の字眉をそのままに、今年初の依頼の内容を説明し始める。

目の前の殿井に至っては平然とした顔をしていて、寧ろそんなことを言うならなぜ部活が存続しているのか疑問だ、とでも考えているような少し呆れた顔をしている。

無論、要も同じようなことを考えていたからだ。

しかし、それを口にしてしまえばさらに部活動説明は長引くだろう、そう考えると何も言いだすことはできず、ただただ佐野崎の話に耳を傾ける他ない。


「今回の依頼は、僕と同学年、二年生の佐伯(さえき) 真奈美(まなみ)さんからの依頼です」


佐伯さんという女生徒は、世に言う“桜の木の下には死体が埋まっている”というだいぶ前の小説の一文は本当なのではないか、ということで今回依頼を持ち込んできたそうだ。

その根拠はというと、学園裏の道をずっと奥へ進んでいくと山が見えるのだが。

その山というのは学園の所有地で、校外学習やなにかで使っている山なのだが、その山の入り口に大きな桜の木が立っている。

本当に大きな桜の木で、普通の民家の二階部分に達するくらいの大きさは優にある。

大きく立派な木は地元では有名で、勿論そのことは要も知っていた。

けれども数年前、その桜の木は何年も花が咲かない年が続き、枯れてしまったのではないかという噂が流れた。

枯れてしまった木をそのままにしておくのも、いつ幹が折れて倒れてくるともわからない、切り倒してしまおうかという話が上がったそうだ。

しかし、その年の春、桜は今まで以上に見ごとに咲いた。

それがほんの二年ほど前で、桜が咲いたと聞いた時は要も見に行ったが、本当に見事な咲きっぷりだったが、どうしても近づきがたい印象を受けた。

そういうこともあり、もしかしたら死体か何かが埋められて、その養分を吸って見事に咲き誇ったのではないか、そう佐伯さんは考えたのだという。


「依頼を受けるとして、どうやってそれを確かめるんですか?いくら学校の敷地内といえども、そう簡単に木の下を掘る許可なんて取れないでしょう」


そう言ったのは殿井だった。

殿井の言う通りである。

許可を得ることもできないのに依頼を引き受け、結果的に何もできませんでしたでは話にならない。

殿井の言葉に部長は苦笑いを浮かべた。

そしてファイルからもう一枚何かの紙を取り出すと、テーブルの上に置いた。


「理事長先生がね、許可…もう出しちゃってるからさ…やらないわけにもいかないんだよね」


佐野崎がテーブルに置いた紙、そこには確かに“許可証”と大きく手書きされ、桜の木の根元を掘る許可を出すという旨が書かれ、理事長の名前と印鑑まで押してあるのだ。


「みんな担任の先生に聞いてない?うちの部の顧問、鷹野理事長なんだよね」


佐野崎は苦笑いを浮かべたまま更に続ける。


「うちの部では、部に依頼の申請を出してもらって、理事長の許可が出てから依頼主に話を聞くことになってるんだ。だから、依頼を受けるってことはもう理事長から許可が出てるってことなんだよね」


そう言えば、と要は部室の入り口のことを思い出していた。

入り口の脇に机が出してあり、ポストのような箱と、用紙のようなもの、鉛筆と消しゴムが出してあったように思われる。

そして部が少人数でも存続している理由、理事長の肝煎りともなれば、そう簡単に廃部にもできないというわけなのだろう。


「ということで、今日はまず現場の下見に行こうと思います。下見が終わったらそのまま各自下校、なのでみんな荷物を持って移動してください。」


佐野崎はそう言ってファイルに許可証を入れ直すと、椅子から立ち上がり荷物をまとめ始めた。

要達もそれに倣い、席を立ち荷物をまとめる。

部室のカーテンを閉め、軽く掃き掃除をして部室を出ると、佐野崎は部室に鍵をかけた。


「それじゃあ僕は職員室に鍵返しに行ってくるから、校門前で。」


そこで佐野崎と別れ、要達は階段を下り昇降口へ向かった。

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