一大決心を実行した
投稿後も時々、手直しが入るかもです。
今の所は極端に大きくはならないと思いますが・・・
本文、少々追加しました。
いつもじゃない昼間、いつもじゃない通り、いつもじゃない喧騒。
俺はなにげないフリをして、歩いている。
とある目的をもって歩いている。
そぅ一大決心を実行に移すべく。
こつこつ貯めた貯金が目標額になった。
贅沢もせず、散在もせず、いけない本も買わず。
そして、副業のゴーレム・彫刻像もいい金になった。
とにかく、やっと金が貯まったんだ。
何に金を使うかだって?
「 ふ 」
あれさ、あれに決まっている。
もぅ俺には、あれ、しかない。
あれしか方法が残っていないんだ。
そして、俺はとある商会の裏口の前で足を止めた。
転生冒険者なら、最初に来る場所であり。
転生冒険者なら、いずれ必ず訪れる場所でもある。
転生冒険者なら、あこがれの夢と希望の場所だと言い切れる。
俺は、ごくりと唾を飲み込みー
裏口の扉をくぐった。
一見地味だが、よく見ると金の掛かった内装の部屋に俺は居る。
「一人で裏口から、堂々と入ってくるお客さんも珍しいですな」
恰幅のいい、おっちゃんが呆れたように俺を見て言う。この商会の主人だ。
その後ろに警備役なのだろう、冒険者風の男が二人控えている。
「目的のためなら手段を選ばない、それが冒険者だ」
うむ、いい事言った。
おっちゃんは苦笑しつつ、商売モードに入った。
「初めての御購入のようですので、説明からまいりましょうか」
そぅ、ここは。
ここはー
奴隷商だ。
美女も美少女も、美男も美少年(俺は買わないが)も、
望むなら、ナイス・ミドルもムキムキのおっさん(俺は買わないが)も、
より取り見取りのー
金さえ有れば、この世の天国、奴隷商。
バィン・バィンのお姉さんや、エロフだっているはずっ。
場合によっちゃ、髭ドワーフ(俺は買わないが)だって転がってるかも?
「聞いておりますかな?」
つい先走ちっまった妄想を打ち破って、おっちゃんの声がする。
「もう一度、最初から始めますから、良く聞いていて下さい」
営業スマイルのおっちゃんだ。
「お、おぅ、悪かった、すまない」
俺が悪い、こう時はすなおにあやまるのが俺だ。
「ふむ、では、もう一度。必要で大切な事柄なのです」
ニコと笑って、おっちゃんが再度、説明に入る。
おっちゃんの説明によるとー、奴隷と言っても色々あるらしい。
<重犯罪者奴隷> 主に鉱山とかの重労働、命使い捨ての奴隷だ。
<借金奴隷> 文字通り借金が払えなくなって奴隷になってしまった奴隷だ。
<食い詰め奴隷> どうにも食っていけなくなり、餓死、死ぬよりはましと自分で奴隷になった人達。
<戦争奴隷> 戦争で捕虜になったヤツラが奴隷になっちまったパターン。
借金奴隷と、食い詰め奴隷の場合、自分で自分を買い戻して自由になれるらしい。
奴隷の労働職種で、お国が目安賃金を決めていて、購入主側が支払い義務が存在すると。
おっちゃんの後ろに控えている、警備の二人も奴隷なんだそうだ。
で、奴隷だからと言って、購入者が無茶な使い方&殺す、とかは逆に犯罪になる。
重犯罪者奴隷とかを除けば、奴隷にも人権らしきものが存在する。
戦争奴隷にも一定の保護らしきものが有るんだそうだ。
知らなかったぞ・・・
こんな世界だが、命の無駄使いはしない、できない、嫌うシステムになっているんだ。
感動してしまった。
ーて、奴隷はでかく見るとお国の財産だから、財産の一種使い込みは資源の浪費なので、
こんなシステムになったんだとー
おっちゃんよぅ、俺の感動を返せ・・・
ついでに聞いてみたが、良く話しとかで聞く、人攫いの奴隷ってのは存在しないらしい。
入手のはっきりとしない、あいまいな人間を奴隷になんて有り得ないとー
領民がキチンと存在しないと経済に障害を起こす、ふむふむ、なるほどなぁ・・・
奴隷商ってのは、必要にして必然。
特殊ではあるが職業斡旋所みたいなものだと、おっちゃんが力説する。
奴隷商が無かったらと仮定すると、死ぬ人間がどれだけ存在してしまうかー
奴隷商は、むやみやたらと、何も考えず奴隷を売る守銭奴ではないとー
奴隷商も商売、奴隷商も満足・売られる奴隷も満足・世間も満足、それが商売基本とー
奴隷商を始めるには、お国の査定と認可、免許が必要で、不意打ち査察も入るんだそうだ。
俺、奴隷について、奴隷商売について、何も考えていませんでした・・・
おっちゃん、あんた偉いよ、すごいよ、たいしたもんだ。
思わず、おっちゃんと話し込んでしまった俺だった。
で、いい事、いけない事、危ない?事、色々できる性奴隷なんだがー
おっちゃんによると、普通奴隷?が奴隷になる時に自己選択で決めるんだそうだ。
その方が借金を早く返して自由になれると、その速さが全然違うのだそうだ。
場合によっては、借金が残っていても解放されてー
愛人や、第二夫人とか、子供を産んで正式な妻の座になる事も有るらしい。
女って、たくましい・・・
ちなみに、おっちやんの奥さん三人も元奴隷だとぉー おっちゃん、ずるい。
で、おっちゃんの第一夫人はエロフで、第二夫人はダークエロフで、第三夫人は獣耳なんだって・・・
おっちゃん、あんた、趣味と実益、男の理想を実現しちまってるじゃないかぁー
男だ、男が居る、尊敬するぜ。
うらやましい・・・
あ゛、え゛、うぞ。
おっちゃんの女版の奴隷商が居るってぇぇぇ。
美少年・ショタ、ショタ外観が成人の種族もいるのか。
美青年・イケメン、種族によっては若い姿が寿命近くまで続くってのも居るんだ。
ナイスミドルの出来過ぎ執事、種族によっては、加齢からの外観を固定・ストップもできるってぇー
でもって、元戦争奴隷で闘技場チャンプ、凄腕剣士の護衛、夜の護衛もしてると。
4人もかよ、女って、すごい・・・
お茶も茶菓子も美味いっ。
おっちゃんがニコニコして色々話してくれる。ありがたい事だ。
俺って本当に、何も知らないからなぁ・・・
「話がはずんで、長々と話しすぎてしまいましたな」
おっちゃんが苦笑する。
「いや、ものすごく勉強になった。ありがとうございます」
その道のプロの話だ、本気の本当に勉強になった。俺は素直に頭を下げた。
「いえいえ、時間を取り過ぎてしまいましたな」
大人のおっちゃんの人生経験話だったなぁ。
「タロウ様の今日の目的に、まいりましょうか」おっちゃんが笑いながら立ち上がる。
「こちらへどうぞ」
「いつもなら、さきほどの部屋で、タロウ様の目的にかなう女達だけを御覧いただくのですが」
「色々な奴隷を見るのも、タロウ様には良いかもと、どうぞこちらへ」
そう案内されて俺達は商館の奥へと入っていった。
こっちが奴隷達の居るスペースかぁ。
居る居る、当たり前と言えば当たり前だが、結構すごい人数だ。
種族、性別、年齢も様々で、外観も様々。これは博覧会並みだ。
でもって、一人ひとりは狭い一人部屋の格子牢なんだが、結構、清潔で変な臭いもせず、
血色も悪くない。陽の光も入ってきてるしー
いや、もぅ、これ、
こっちが見るつもりで、見られてるっ。ガン見されてるぅ。
そりゃ、まぁ、そぅだろぅなぁー
奴隷の売られる方からすれば、これからの自分の色々全部が掛かっているのだから。
ノーマルのムキムキが、尻目当てでお前に決めたって言われたら、人生終わりみたいなものだしー
・・・性奴隷OKの男が、男に買われるってもの本人OKしてるのかな?
聞いてみた、ムキムキ奴隷の本人の前で。
「その場合は、奴隷本人しだいですな」
ピクピクこらえた真面目な顔で、おっちゃんが答える。
「ふむふむ」
俺はムキムキ奴隷の眼を見つめて、ふーんと考えた。
ムキムキがザザッと、すごいスピードで格子牢の奥へと引っ込んだ。尻を両手でガードしながら・・・
俺、そんな趣味ないって、ちびっと遊んだだけだろうが、ムキムキなのに泣きそうな顔するなって。
順々に奴隷達を見ていく、そのつど、おっちゃんがそれぞれの奴隷について説明してくれる。
俺は何だか、こんな世界もあったんだと実感と共に、人間てヤツはー
たくましくも悲しく、すごいけれどなんかあわれで、しょうもないけれど、しぶとい。
人間って・・・ 訳が分からない感動をしている自分がいた。
そして、そいつに会った、眼が合った。あっちまった。
格子牢の日陰になった隅っこに、小さくこんもりと盛り上がったボロボロのマント、
そのマント?の奥から一対の金色の瞳がこっちを見つめていた。
俺はそれを指差して、おっちゃんを見た。
「ふむぅ、少々訳ありで、なおかつ問題の有る奴隷なのです」
「タロウ様のおっしゃった条件からは外れますな」
と、視線を牢に戻すと、ボロボロ・マントが格子の手前まで、いつの間にか移動して近寄っていた。
で、見つめてる、じっと俺を見つめてる、見つめまくってる。
俺は腰を下ろして視線の位置をそいつに合わせてみた。
うなってる、低くうなっている、うなり続けている。
どうすりゃいいんだ、こう言う場合。
アメちゃん持ってないし・・・
「見るだけでも、見てみますかな?」
おっちゃんが何か考え深げに言う。
「お、おぅ、何でも経験と言うしな」
思わず同意する俺だった。
おっちゃんは、うなずいて警備の二人を動かした。
イヤそうな顔をして牢の鍵を開けて入ってゆく二人・・・
もぅなんちゅうか、すごかった。
狭い牢の中をすごいスピードで移動しまくるボロマント。
追い掛け回す二人。
結局捕まえられず、息を切らせて、おっちゃんへともぅダメと視線を寄こす二人。
うつむいて、額に指をついて、首を横に振るー おっちゃん。
気が付いたら、俺、自分が牢の中へ入っていた。
警備の二人をかき分け後ろへやり、俺は前へ出る。
左腕の袖をまくり、むき出しにして、その腕をヨコに構える。
全部の動作をゆっくりと行う、近寄る、腰を落とし座る、腕を近づける。
ボロマントのこっちをじっと見つめる視線と、眼を反らさず見つめ合ったまま。
で、噛み付かれた。思いっきり。
予想はしていたし、想定内だったんだがー
痛いものは痛い、痛いが動かない。動いてはダメだ。
俺は歯を食いしばり耐え、何気ない顔を装い、噛み付いたままのソイツと、じっと見つめあう。
ちびっこい幼女だ、なんだか薄汚れている幼女。
犬耳、ふさふさ犬しっぽ、薄汚れてはいるが金毛だ。
がっちと噛み付いたまま、こっちを睨み付けて低くうなっている。
噛み付いたのを全然離す気なしで、うなり続けている。
金眼なんだな、と見つめ合った。
で、その顔にポツリと涙が落ちた。痛くて出ちまった俺の涙らしい。
根性足りないぞ俺。覚悟済みだろうが俺。
が、その涙のせいか何なのか、
幼女の顔がクシャリとしてー
ゆっくりと噛み付いた口を離してくれた。
ありがたや、しかし、こりゃ見事にちっこい歯型が付いて血が流れ出している。
ああ、傷を舐めなくてもいいって、お前のせいじゃない。
俺がやらせたんだ、悪いとしたら俺の方だ。男って、ずるいよな・・・ごめんな。
空いていた右腕をボロマントごと、コイツの身体の下に回す。
噛み付かれた左腕もコイツの身体に回し、背中に手のひらを当て支える。
俺はゆっくりと立ち上がる。
そして、狭っ苦しい牢をコイツを抱えて外に出た。
おっちゃんと警備の二人が俺達を見つめている。
おっちゃんが長く息を出してから、微笑んで言った。
「ご希望の奴隷とは、ずいぶんと違いますがよろしいですか?」
「おう、決めた」
俺は答えていた。
それからー
傷はヒールで自前で治した。
言われたとおりに金を払い。以外と高額だった。
奴隷紋とか何とか、血を取られて魔道具を使い、なんやかんや。
書類とかサインとか書かされて。
その後、色々追加説明を聞いて。
特別に奴隷購入ハンドブックなんて小冊子をもらい。
「これで全部の手続きが終わりました、御購入ありがとうございます」
おっちゃんが満面の笑みで俺に言った。
その時、初めて我に帰った。
あ゛、俺、奴隷を買ってしまったのね。
なんと俺はー
犬耳、犬しっぽ。
幼女の奴隷を買ってしまっていた。
俺のハーレム計画どこいった(棒涙)
タロウが去った後の、かの奴隷商の一室にて。
商館の主人が魔道具を使い連絡を取っていた。
「はい、本日購入されましたぞ」
「そうですなぁ、少々変わった所は有るもののー」
「見所のある、面白い人物かと」
主人は思い出し笑いを浮かべ、魔道具を通し報告を続ける。
「PT名は『ほうきと塵取り』、そのメンバーの一人でー」
「稀人です」
魔道具の向こうで息を呑む気配がした。
さらに幾度かのやり取りの後、主人は魔道具を置いた。
商売柄、人と人との別れと出会いの妙を何度も見てきた己で有ったが、
今回は神の采配、運命の目撃者になってしまったと思った。
「良き人生に、良き別れと出会いを」
商館の一室に作りつけられた神棚に奴隷商の主人は祈りを捧げた。
極端に間を置かないように、
次回作の投稿を行う予定です。
予定でつ・・・