一話
「てってっ天気がいいなぁ〜ら〜ら〜ら〜」
少女…こと、荒川・唯が楽しそうに訳の分からない自作の歌を口ずさみながら、春から入学してまだ一週間しか経っていない学校へと向かっていた
訳の分からない歌なのに、その歌声は綺麗で澄んでいて酷い歌の内容にも関わらず、その類い希なる容姿と伴って見たもの魅了する
事実、さっき
すれ違ったサラリーマンも、歌を口ずさみながら通り過ぎた唯に呆然と立ち止まり
奇怪な歌を歌いながら、遠くなっていく少女を見つめていたぐらいなのだから
「はぁ〜一人で、歩くのは寂しいものです」
さっきまで、歌を唄っていた唯はいきなり立ち止まり
空を見上げて呟いた
唯の頭の中には、さっさと学校へ先に行ってしまった男の顔が浮かんでいる事だろう
「明日は、必ず一緒に行くです」
誰も彼も敬語を使って話す彼女の独り言はもうすでに独り言さえも敬語になっていた
そんな敬語を教えてくれたここには居ない男を思い浮かべて言い聞かせるように言うと
再び足を上げて歩き…
ドン!!!
出そうとしたら、後ろから走ってきた男にぶつかって転けてしまった
「だっ大丈夫?」
ぶつかってきた男は、慌てたように唯の元へ駆け寄り手を差し伸べる
「はっはい〜。地面さんが受け止めてくれたもので」
コンクリートの地面を地面さんなどとさん付けするのは、多分唯ぐらいのものだろう
いや、この頭のネジが足りない唯だけだ
「あぁ〜っと、そう?」
男は、訳の分からない唯の言葉に戸惑いながら何となく差し伸べていた手を引っ込めた
「はい!!」
「ちょっと、待ちなさいよ!!」
唯が立ち上がろうとした途端
かなきり声を上げた女がこちらへ猛ダッシュで駆け寄りながら近づいてきた
かなきり声を聞いた途端、のほほんとした顔をしていた男は
ギョッとなり少し、額からは汗が出ている
「ちょっと、待ってよね!!一緒に学校へ行こうと思って家の前で待ち伏せていたのに何で裏口から家出てるのよ〜って、今時家に裏口があるなんて卑怯じゃない」
近寄って来た女は、男の手首を絶対に離さないとばかりに握りしめ唯の存在を無視して男に言った
「いっいやぁ〜、ごめん、ごめん…」
女の迫力に男は、偽りの謝りを入れるとにっこり笑いながら、男の手首を掴んでいた女の手に優しく触れて
ギュッと手を握る
「ねぇ、健気な真弓見てたら学校行きたくなくなってきたんだけど?…一緒に、いいとこ行こうか?」
女の耳元に甘く囁き、少し耳たぶをかじる
「///もぅぅ、朝から元気ねぇ〜」
甘い男の声に気をよくした女は、さっきまでの怒りも忘れてしまう
(うっとおしくなってきたし、もうこいつを切るか…だけど、その前に一回だけ頂くとしよう)
そんな最低な男の考えも露知らず女は行く方向とは真逆の方向に背を向けて男と共に歩き出す
「んしょ、う〜ん…いいとこに私もいきたかったですぅ。あっ!!って学校に行かないと行けませんわ〜」
すっかり、男と追いかけてきた女に存在を忘れられてしまった唯は、そう呟いた後立ち上がり急いで学校へとむかって行った




