禍を売る者
こんにちわ。皆は学園で昼飯を食べるにあたって、弁当派か食堂派か。どちらだろうか。
解浄銅璃である俺は食堂派だ。弁当を作る時もあるけど毎日は作っていない。正直に言うと面倒くさい。朝は基本的に睡魔に負けてしまうからな。
だから俺は今食堂で昼飯を食べているんだ。今日のランチは竜田揚げ定食だ。サクサクの衣にジューシーな肉厚。美味い!!
「ねえ聞いているの解浄くん?」
「聞いてる聞いてる。ムグムグ・・・どこまで話したっけ?」
「禍に関してで、わたしに『禍の卵』を植えつけた人の話だよ」
ああ、『禍を売る者』か。ソイツがこの町にいると考えると面倒だ。今度町を周って探すか。
「ソイツは間違いなく『禍を売る者』だろーな。まんまの意味で『禍』を売るヤツだよ」
「なるほどね。でもわたしは買ってないよ」
「そこが気になるところなんだがな。恐らくだがソイツの気まぐれかもしれないけどな」
「気まぐれ?」
「そ、たぶんな」
気まぐれかもしれないからこれ以上考えても分からないだけだ。売る者としてタダで『禍の卵』を渡すはずがないからな。
本当に気まぐれだろう。ま、実際に何を考えているか分からないからな。
「ふーん。ねえ『禍を売る者』の他にも役職はあるの?何か他にもありそうな雰囲気を感じるよ」
鋭いな。まさにその通りだぜ。『禍』は一枚岩のようなモノではない。実は組織的なものなんだ『禍』は。
詳しくは分からないがある程度は知っている。だが深い組織だと思う。『禍』という怪物を扱っているのだからだ。
「ああ。『禍を売る者』の他に『禍を創る者』、『禍を育てる者』、『禍を運ぶ者』がいる。現在発見されている『禍』の組織の構成だ」
そう。この4つの役職が『禍』を扱うヤツらだ。いつ、どこで、何のために現れたのかは分からない。今分かるのはヤツらは『禍』と言う怪物をばら撒き、売っているということだ。
「なるほど。でもなんか組織みたいだね。もしかして解浄くんはその組織を潰すために動いているとか?」
「まさか。俺がやっているのは手伝いみたいなものだ。俺の正体はチョットだけ怪奇に関わる清条学園の学生だ。『禍』を退治する『翠竜』に所属していないからな」
「すいりゅう?・・・何それ?」
「そうだな、『翠竜』ってのは『禍』を退治するために創られた組織だよ」
日本各地に現れるであろう『禍』。それを創る者と売っている者がいる。なのになぜ『禍』による大きな被害が世間に知られていないのか。それは退治をしている者がいるからだ。
それが『翠竜』だ。日本各地に点在しており今もなお、『禍』と戦っているだろう。俺の従兄妹である猫柳兄妹も所属している。俺も所属してみたかったが猫柳兄妹からダメと言われたので所属していない。でも怪奇に出遭ってしまった俺は最近よく怪奇に出遭うようになるため手伝い的な事は許されている。
学生の本分は忘れるなと言う事らしい。でも俺は猫柳兄妹の力になりたいのが本音だ。
「そんな組織があるんだね。・・・でも言ってもいいの?ペラペラとわたしに教えてくれるけどさ。わたしとしては嬉しいけど」
「構わないよ。言ったところで『翠竜』の情報は少ないから公には広まらないんだ。俺だって退治している組織ってくらい知らないからな」
「なるほどね」
そう、知っているのは『禍』を退治しているのと猫柳兄妹が所属しているのくらいだ。一応、『翠竜』を創った人を知っているけどもね。
「俺が手伝いしているってのは今回みたいに『禍』を発見した時に退治しているって感じかな。あと情報の提供だけだ」
「ふむふむ。じゃあ『翠竜』の目的は『禍』を退治するために『禍を創る者』を追っているんだね」
「大正解。よく分かったな」
「分かるよ。『禍』を退治するのに永遠と創りだされたら意味無いからね」
狼原さんの言う通りだ。『禍を創る者』を捕まえるのが最大の目的だ。そうすれば売る者も育てる者も運ぶ者も勝手に消えるからな。
『禍を創る者』に至るには『禍を運ぶ者』を捕まえなければならない。『禍の卵』を渡さないと各地にばら撒けないし、売ることもできない。『禍を創る者』が最も信頼している『禍を運ぶ者』が狙い目だ。ソイツを捕まえれば情報を確実に得られるはずだ。
捕まえるのは簡単ではないけどな。役職は4つしかないけど複数いるからな。なんたって各地でばら撒かれているんだから複数いるのは当たり前だろう。
「解浄くんはもしかして今までずっと『禍』を出遭うたびに退治してたの?」
「ああ。と言っても毎日じゃないぞ。つーか今んところ禍オオカミを含めて『禍』に出遭ったのはこれで4回目だ」
4回目。少ないように聞こえるけど怪物に4回出遭うってのは多いと思う。普通なら怪物である『禍』に出遭うのは無いのだから。
宝くじで1等当てるのと『禍』に出遭うのは同じくらいだ。・・・俺って変な幸運を使ってないよな。いや、そもそも『禍』に出遭うこと自体が幸運じゃないな。
ったく、ため息が出そうだぜ。
「ねえ解浄くん。もしかして『禍を売る者』を探そうとしている?」
狼原さんは心でも読めるのだろうか。
「ああ。探すつもりだよ。この町で売っているのなら探さないとな。捕まえられるかは分からないけど情報は手に入れるさ。そして『翠竜』に情報提供をする」
俺は出来ることするだけだ。『翠竜』に所属していない俺はあまり深く関われないからな。・・・ま、退治をしている時点で矛盾な感じではあるけど。
「じゃあ、わたしも手伝うよ」
「それはダメです」
狼原さんをこれ以上関わらせる気はサラサラ無い。せっかく『禍』から助け出したのだ。危険な目に遭わせるわけにはいかない。
「わたしは気になった事があれば気が済むようにしてるの」
「それを言えば何でも通ると思わないでな」
「でも解浄くんだって『翠竜』って組織に所属してないのに手伝いはしてるんでしょ」
それを言われると何も言い返せない。確かに手伝いと言うことで退治しているけどさ。狼原さんの目を見るとアイコンタクトで訴えてくるよ。『わたしも手伝う』って。
「それにわたしは『禍を売る者』を直で見ているんだよ。特定することもできる」
むう。確かにそうだ。目で見たということは相手の容姿がわかる。俺は見ていないから分からない。分かるのは黒い帽子に黒い服を着ていたということだけだ。
分かる人が居た方が良いのは当たり前だ。でも危険な目に遭わせるかもしれないから首を縦に振れない。
「解浄くん。・・・ダメ?」
うるうると涙目で見てくる。泣き落としって卑怯だと思う。つーか狼原さんはそんなキャラじゃないと思う。
①
カランカランとベルの鳴る扉を開ける。そのまま禁煙席に座りコーヒーとパンケーキを頼む。今、俺と狼原さんが居るのは『禍を売る者』が居たという喫茶店だ。
学園での本分をこなし、放課後の帰宅にこの喫茶店を訪れた次第だ。もしかしたら『禍を売る者』がいるかもしれない。犯人は現場に戻るだか何だかだ。
現れるか分からないが、現れるまでゆっくりしているか。今日は遅くなるとメールで龍姫様に送っとこう。・・・意外にも龍姫はケータイを持ってるんだぜ。お子様ケータイだけどな。
「そういえば狼原さんはさ、この喫茶店で『禍の卵』を買ったのがどんなヤツか分かるか?」
「うん覚えているから分かるよ。男の人でわたしたちと同じくらいの年かな」
「なら、もし見つけたら教えてくれ」
「分かったよ。ねえ、わたしは植えつけられたけど、買う人は大丈夫なの?そもそも危険なのに買うのが分からないわ」
「俺も何で買うかは分からん。でも異能の力が手に入るからな。それが理由かもな」
「力目当て。でも危険なんでしょ」
「ああ。でも買ったヤツらにもよる。ソイツらが上手く『禍』を育てれば死なずにすみ、逆に力を使いこなせるんだ」
狼原さんの場合は『禍』を育てるんじゃなくて餌として植えつけられたからな。あのまま放置されたいたら、まず『禍』に食われていた。
だけど買ったヤツらは育てるから食われることはそうそう無い。あるとしたら力に飲まれ、制御が出来なくなった時くらいだ。全く恐いもんだぜ。
「『禍』を育てるっていうけど、どうやって育てるの?」
「うーん。正直育て方はまちまちらしいぞ。俺が聞いたやつだと針を食わしたりとか鉄を食わしたりとか・・・でも最近だと自分自身の欲望を食わせるとか」
「そうなんだ。欲望ね・・・その欲望によって『禍』の成長が変化したり姿がまちまちとか?」
「正解だぜ」
『禍』は育てる人によって姿形を変化させる。どんな姿にもなるだろう。
今まで俺が見てきたのはオオカミ以外にイノシシとクマ、そしてドラゴンだ。過去を思い出して正直、ドラゴンは驚いた。
本当にあの時は驚いたぜ。でもまだこれから驚く事はイッパイあるんだろうな。
「あ、来た」
「何、売る者が来たのか」
小さい声でボソボソと話す。だってバレたら張り込みの意味が無くなる。普通の客として成りきるのだ!!
「違うよ。さっき言った『禍の卵』を買った人」
「なぬ。買ったヤツか」
『禍の卵』を買ったヤツか。ならば今頃『禍』が成長してソイツに憑いているだろうな。どんな『禍』に成長したんだか。
さて、どんなヤツかな。
「やっぱ同い年くらいかな。私服だからどこの学生かは分からないね」
「ふむ・・・アイツか」
墨のような黒髪にクマの酷い目。寝不足か。そしてカラスのような黒い服。そしてブラックのコーヒーを飲んでいる。なんだろう・・黒が好きなのか?
「どうかな?」
「うーん。見た感じ『禍』の力に取り込まれた感は無いな。まだなのか。それとも飼いならしているか」
誰かを待っているのか?それはもしかしなくても『禍を売る者』だろうか。そんなこんなで更に待つこと数十分。喫茶店に新たな客が来客した。その客こそ俺らが待っていた人だ。『禍を売る者』だ。
「黒い帽子に黒い服・・・あの人だよ解浄くん」
「アイツが『禍を売る者』か。なんか互いに真っ黒だな・・・あと銀髪なんだ」
あ、でも注文したコーヒーに角砂糖をたくさん入れてる。コーヒーはブラック派じゃないらしい。まだ入れてるよ・・・どうやら甘党みたいだな。どうでもいい。
「何か話してる。静かに」
耳を立てて話をよーく聞く。何を話してるんだ?
「双瑚さん。貴方から買った『禍』は順調に成長しています」
「それは何よりです烏森さん。では『禍』の躾け方を教えましょう」
「お願いします。ボクはこの力でもっとが復讐したいんです」
「ええ。その『禍』はもう貴方のものです。どうぞ好きに使ってください」
「ボクはとても楽しいですよ。『禍』を手に入れてから世界が変わりました。もうボクは弱くない」
「それは本当に何よりです。『禍』がもっと成長したら『禍を育てる者』も交えて話をしましょう」
どうやら『禍』をより成長させる為に話しているみたいだ。それに今度は『禍を育てる者』を交えて話す・・・か。この町に何人か集まっているのかもな。
お、話が終わったみたいだな。このまま尾行だぜ。
俺は『禍を売る者』を尾行し、狼原さんは『禍』を買ったヤツを尾行している。
なんか普通に道を歩いているな。てっきり人目のつかない道を選ぶと思ったんだけどな。そのおかげで俺も普通に歩いているように尾行できるから良いんだけどね。あっ・・シュークリームを買ってる。
どこに行くのかと思えば公園だったよ。まさか新たな客か?
「ただいま。沙翼、雨翼。お留守番ありがとうね。お土産にシュークリームを買ってきたよ」
彼の双子の娘かな?銀色の長髪にゴスロリファッションだ。
「よしよし、変な人にはついてっていないね。じゃあ帰る前に私を尾行している人と話をしようか」
バレてーら。もう隠れる必要は無いな。なら普通に出るか。
「こんにちわ。何か飲みますか?」
自動販売機にて硬貨を入れる。俺はコーラだな。
「私は入らないよ。でも私の娘達には奢ってくれるかな?」
「良いですよ。何が良いですか?」
「ココアを2つお願いします」
ガコンガコンとココアを2つ買う。そして双子に渡す。ちゃんとお礼も言われた。うん、良い子だ。
「さて、君は買う人かな?それとも『翠竜』の関係者かな?」
「俺は『翠竜』の関係者だよ。一応な」
俺は正直に話す。どうせ嘘ついてもバレるのが関の山だ。尾行がバレてる時点でな。
相手は逃げずにベンチに座っている。俺もまた横に座る。
対話の時間だ。コーラ用意!!
読んでくれてありがとうございます!!
感想があればガンガン書いてください!!