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示談書  作者: 清田伸治
8/23

留置場3

「おおとびら解錠!」

「施錠良し!」


いつもの掛け声とともに進は留置場へ帰ってきた。

 

房に戻ると青木が、

「おかえりなさい!」

と、笑顔で声を掛けてきた。

その姿はまるで自分の家で迎えているかのようであり、青木のその明るい対応は、今日一日張り詰めた空気の中で過ごしてきた進にとって、少なからず心に和みを与えてくれた。


「あ、ただいま・・」

と、進も作り笑顔で返した。


「長かったですね、疲れたでしょ、今日はあと飯食って寝るだけですから、ゆっくりしてください。」

と、青木は見るからに疲弊しきっている進にいたわるように言った。

進は、思はぬ優しい言葉に心が熱くなったが、疲れているのは青木も同じではと思い、

「ありがとうございます。ところで青木さんはお疲れではないんですか?」

と、聞いた。


「僕はもう調べは終わってるんです。すでに起訴もされて拘置所に移されるのを待ってるだけなんです。」

「と言う事は、一日じゅうここに?」

「そうなんですよ。もう20日目です。だから早く佐々木さんに帰って来てほしかったんです。」

進は驚いた。一日じゅう誰ともしゃべらずここにいるとは、又それが20日目だとは。進には耐えられないような気がした。


夕食後青木と雑談していると、耳元でブーンと蚊が飛ぶ音がした。

進は両の手でパンっと蚊を叩こうとしたが逃げられてしまった。

その姿を見ていた青木は、

「佐々木さん、ここの蚊はそんなやり方じゃやっつけられませんよ。」

と、言って狙いをつけて上からはたくように蚊を叩きつけた。

すると蚊は床に落ちてバタバタしていた。

「ね、こうすると蚊は落ちるんです。多分やつらは今脳震盪をおこしてるはずですから、今のうちに拾ってやっつけるんです。」


進がそうなのか、と思っていると続けて、

「ちなみに、こいつらはここの金網を一発で通り抜ける事が出来ないんですよ。見ててください。」

と、言ってきた。

進はどういう事か、と思いながら青木に言われた通り鉄格子の上に張られた一センチ四方の金網を見ていると、一匹の蚊が飛んできた。

蚊はそのまま部屋に入ってくるのだと思っていたら、一度網に止まってから入って来た。次の蚊もそうだった。

「ね、こいつらは必ず一度網に止まってから入ってくるんですよ。」

なるほど、と思いながら進は話を聞いていた。

「調べが終わってからは話し相手もいず、一日中一人でここでボーっとしているだけなんで、こんなしょうもない事にも気づくんです。」

「そうなんですか。」

進が妙に感心していると、青木はさらに続けた。


「あと、すごい発見をしたんですけど聞きますか?」

「あ、じゃ、聞かせてもらえますか。」

「実は、蚊に刺されない方法を発明したんです。」

「・・そーなんですか?」

「蚊に刺されないようにするにはまず、蚊が寄って来なければ良いという事ですよね。そこで僕はすごいひらめきをしたんですよ。」

「・・どのようなものですか?」

「以前テレビで見たんですが、蚊は人間の吐く二酸化炭素に寄ってくるらしいんです。と言うことは息をしなければ蚊は寄って来ないという事ですよね。」

「・・はあ。」

「試しに佐々木さんも少しの間僕と一緒に息を止めて下さい。せーの!」

進も言われるまま息を止めてみた。すると本当に蚊が寄って来ないような気がしたのだが、

「ぶはー!はー、はー、ね、よって来ないでしょ。」

と青木が言った瞬間、ブーン


「この法則の問題点は、息をすると寄って来てしまうと言う点です。」


「・・・・・」

進は、返す言葉が無かった。


明日は検察庁である。







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