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示談書  作者: 清田伸治
7/23

引き当たり

9時前に本田巡査部長が進を迎えに来、進は交通課の部屋へ連れてこられた。


いよいよ本格的取り調べの始まりである。


「佐々木、昨日は良く寝れたか?」

「いえ、まったく・・・」

と、答えるのがやっとの進に、本田は、

「そうか、そら気の毒やな。だからっと言って居眠り等は許さんぞ。これからの調べにもよるが、どーあれお前の運転する車で事故が起き、けが人が出たという事は紛れもない事実やからな。心してかかるように。」

と、釘を刺した。


「では、昨日聞いた事をもとに人定から始めるからな。」

「氏  名:佐々木 進 (ササキ ススム)

 生年月日:昭和○○年8月7日 26才

 住  所:大阪市東成区・・・・

 本 籍 地:福岡県北九州市門司区・・・

 職  業:会社員」

「と、ここまで、間違いないな。で、現在独身婚姻歴無。

 地元福岡の高校を卒業後現在勤める会社に就職の為大阪に来る。又・・」

と進の生い立ち等が作成されていった。


一時間ほどで、その作業が終わると、次に本田は、

「引き当たり行こか。」

と、言ってきた。

進は意味が分からずにいると、

「現場検証や。」

と、説明してくれ、ワンボックス型の車両に乗り事故現場に向かった。


事故現場では、写真を撮ったり、距離を測ったりしていた。


大阪市内の現場は、平日の昼間で人通りも多く、その間も手錠をかけられたままの姿で立ち会っている進には辛い時間であった。


しかし、次の瞬間その気持ちは吹き飛んでしまった。

本田にある場所を指さされ見た時である。

そこには、踵のとれた靴が落ちていた。

被害者のものであった。


進は事故を起こしてから今まで、気が動転していたとはいえ気になるのは仕事の事や家の事など自分の事ばかりであった。

しかし、あらためて事故現場に立ち、その靴を見た瞬間、本当に自分が人を傷つけてしまったんだ、被害者に痛く苦しい思いをさせてしまったんだ、と激しい自責の念におそわれ、事故後初めての涙を流していた。


署に帰り、午後からは現場検証を元に事故発生時に関する調書が作成されていった。


午後4時過ぎには事故以前の進の行動確認や、目撃証言聴取等の作業は残っているものの、一応の調べは終わった。

この時点で、今回進が死亡事故や飲酒による事故でもないのに逮捕・拘留されることとなった重要な点がはっきりと浮かび上がってきた。


道路交通法違反(轢き逃げ)


の疑いである。


事故発生時の信号の色は、青である事が確認されており、この轢き逃げの有無が裁きを受ける上での進の最大の要点となるのである。


「よし佐々木、今日はここまでや。お前も聞いてて分かると思うが一番重要なのはお前が轢き逃げしようとしたかどうかというところや。

調書の中の図にあるように、事故発生地点からお前の車の停車位置まで

10メートルもある。この距離が問題なんや。」

ここまで言って本田は一息つき、さらに続けた。


「普通制限速度以内で走っている場合、今回の事故発生地点から停車するまでの距離は3~4メートル、当時雨であった天候を考慮しても5メートルもあれば、十分止まれるはずなんや。それがお前の場合2倍の10メートルもある。これは、お前に轢き逃げの意思があったとしか思えんのや。」

と、理路整然と言った。


「それに対し、お前の証言としては、女の子が飛び出して来たのを確認した後は、直ぐブレーキを踏み、その後の事はあまり良く覚えていず、なぜ、10メートルも先に止まったのかはわかりません。ということやな。」

と、進に確認した。

進は軽く頷き、本田に促され、調書にサインした。


「よし、お前の言い分も含めてまだまだ調べなあかん事もあるが、明日は

検察庁へ行ってもらう。そこで今日調べた事を元に検事さんに今後の事を決めてもらうから。」

と本田が言い、この日の調べは終わった。

実に7時間にも及ぶものであった。






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