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示談書  作者: 清田伸治
6/23

留置場2

大阪中央警察署 午前7時


結局進は一睡もすることなく朝を迎えていた。


「起床ー!」


留置場担当官の前川巡査長が声を掛けた。


すると、横で寝ていた男が起き上がり、

「あれ、新入りさんですか?いつ来はったんですか?」

赤く染めたぼさぼさ頭をかきながら言ってきた。


「きのう、夜遅くに・・」

進が活きなく答えると

「へー、そうやったんですか、全然知りませんでしたわ。あ、ちなみに僕は

青木といいます。23才です。」

と、言ってきた。

進も自然に、

「あ、僕は佐々木です。26才です。よろしくお願いします。」

と、答えていた。


「佐々木さんですか。見た感じめちゃまじめそうな人に見えますけど、なにしはったんですか?」

青木は進の事を上から下まで見渡しながら言ってきた。

「交通事故を・・」

進が小さく答えると、

「え、相手死んだんですか!」

と、大きな声で言ってきた。

進は、青木のその大きな声に驚き、のけぞりながら胸の前で手を振り、

「い、いえ、死んでません。」

と、答えた。


すると、青木は、

「あーびっくりした。死んでないんですか。そしたらあれですか、酒でも飲んではったんですか?」

「いえ、飲んでません。」

「えー、そしたら、クスリでもやってはったんですか?」

と、立て続けに聞いてきた。

「いえ、そんなこともしていません。」

と、進は答えながら、この人はなぜ、そんな事ばかり聞いてくるのか?

さっき、まじめそうに見えると言っていたのに、実は凶悪そうに見えているのか、と思っていると、

「あ、そーですか、いやいや気悪くせんとって下さいね。普通ただの交通事故で留置来る人少ないから悪質やったんかなって思っただけで。それやったら佐々木さん、ただのヨンパチですね。」

と、言ってきた。


進が、ヨンパチ?と思っていると、

「ヨンパチっていうのは48時間拘束される事ですわ。だから佐々木さんの場合明日には出れますわ。」

進はその言葉を聞いて、そうなのか、明日には出れるのか、と少し安心したが、この赤い頭の男の言う事を信じていいのかと思ったのと同時に、そもそもこの人は何をしたのかとも思っていた。


すると、そんな進の心の中を察したのか、

「ちなみに僕はメイボですわ。」

と、青木が言ってきた。

またまた初めて聞く言葉に メイボ? と思っていると、

「迷惑防止条例違反、略してメイボ。種類はいろいろあるんですが、僕の場合はキャッチですわ。ガールズバーの呼び込みしてて捕まったんです。」

と教えてくれた。

あーそうだったのか。殺人犯とかの人でなくて良かったと進は少し安心していた。


と、その時

「おい、お前らいつまでもしゃべってんとはよ布団直して飯の用意をせんか!」

と、前川巡査長が言ってきた。

「はい、はーい」

青木は軽く答え、

「じゃ、布団は二つ折りにしてここに置いて下さい。」

と、部屋の隅を指した。

進は言われたようにし待っていると、鉄格子の下の方にある小さな窓からおにぎりの入った箱とパックのお茶が二つずつ入れられた。


「ラッキー!今日はおにぎりや。」

と、青木は喜こび、

「いつもはパンが多いんですけど、今日みたいにおにぎりの日もあるんです。」

と、言って、あっという間に平らげた。


進は食欲が無く食べないでいると、

「佐々木さん、食べないんですか?」

と、聞いてきた。

「はい、食欲が無くて。」

と、答えると青木は、

「もらってもいいですか?」

と、言うなり食べてしまった。


進はそんな青木を見ながら、自分もいつかはこうやってここの生活になじんでしまう日が来るのだろうか、と感慨深く思っていた。






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