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示談書  作者: 清田伸治
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ホスピタル1

左足に痛みを感じ、理奈は眼を覚ました。

一瞬自分がどこに居るのか解らなかったが、ここが病院である事に気づくのにそう時間はかからなかった。


「あ、そういえば昨日本部の近くで・・」

と昨日の事を思い出そうとしたが、よく思い出せずにいると、誰かが部屋に入って来た。

母の晶子である。

「あ、理奈ちゃん、やっと起きたの、気分は悪くない?」

と意外とあっさりした口調で語りかけてきた。

理奈はその母の様子に、自分はそれほど重大な怪我を負ったのでは無いなと思いながら、

「うん、大丈夫。ところで私昨日どうなったの?」

と聞いた。

「あら、覚えてないの、昨日会社の近くで小学生の子供を助けようとして事故に遭ったのよ。」

と、母が答えると、はっと思いだし、

「で、その子はどうなったの?」

と、少し大きな声で聞いた。

「その子は大丈夫よ。理奈ちゃんが歩道の方へ突き飛ばした時に膝をすりむいたぐらいで元気だって。」

「よかった。」

理奈は安堵のため息をついた。


「で、私よく覚えてないんだけど車を運転していた人はどうなったの?」

「うん、お母さんもよく知らないんだけど、昨日警察の人が来たときに言ってたのは、運転していたのは何かの配達をしていた若い男の人で、事故の状況とかはこれから調べるらしいんだけど、どうも轢き逃げの疑いがあるからって逮捕したって言ってたわ。」

と母が言うと、

「え、轢き逃げ、そんな卑劣なやつ絶対許さない!」

と怒りをあらわにした。


「まーまー落ち着いて、今理奈ちゃんが怒ってもどうしようもないしね。それと、仕事の方だけど、昨日事故の知らせを受けて店長の山本さんだったっけ、ここまで来てくれて、とにかく今は安心して休んで下さいって。当然仕事中の事故だから会社もフォローするからって言ってくれてたわよ。」

「そーだったの・・・」

理奈は職場のみんなに迷惑をかけてしまうなと思い、ますます轢き逃げ犯に対する怒りが増していった。


「ところで、一番大変だったのが・・・。わかるでしょ?」

との母の問いに理奈はすぐにピンときた。

「パパ?」

「そーよ、もう大変だったんだから。理奈ちゃんに怪我させたって、怒りまくって相手を殺さんばかりの勢いで警察に乗り込んでいったわ。」

「えー、でも想像つくわね。で、どうなったの?」

「結局まだ捜査が始まったばかりで会わせられないって言われて帰ってきたわ。多分今頃どうやって仕返ししようか企ててるころじゃない。」

理奈を溺愛する父、伸二の姿が二人とも容易に想像出来、笑っていた。


するとその時

「あのー、すいません・・・」

と入り口の方で声がした。

「誰か来たのかしら?」

晶子がベットのカーテン越しにのぞいてみると、女の子を連れた女性が立っていた。

「こちら川崎さんのお部屋でよろしいでしょうか?」

その女性が聞いた。

「はいそうですが、」

晶子が答えると

「昨日娘を助けていただいた田中と申します。昨日は本当にありがとうございました。なんとお礼を言ったらよいか・・・」

と深々とお辞儀をしながら言った。

「まあ、そんなやめて下さい、娘も当然のことをしただけですから。ちょうど今娘も起きてますのでどうぞお入り下さい。」

と部屋の中へ招き入れた。


二人は理奈のベットの横に立ち、

「昨日はほんとにありがとうございました。」

と改めて子供の母親が言った。

「そんな、先程も母が申しましたように当然のことをしただけですから。」

と理奈が言った。

そして、

「美香もお姉ちゃんにお礼を言いなさい!」

と母親に言われ、

「お姉ちゃん、ごめんなさい・・」

と子供が言った。その目には涙が溜まっていた。

「そんな、いいのよ、でもなぜあやまるの?」

理奈が聞くと、

「だって、美香が飛び出さなかったらお姉ちゃん怪我しなかったのに、美香のせいだから・・」

さっきまで溜まっていた涙がこぼれおちていた。


「いいのよ、お姉ちゃんは強いから。」

と、腕まくりをし、力こぶを出す仕草をして見せた。

そして、昨日子供が理奈の勤めるハンバーガーショップの袋を持っていたのを思い出し、

「お名前美香ちゃんって言うんだ。美香ちゃんハンバーガー好きなの?」

「うん、大好き。」

「昨日も行ってくれたの?」

「うん。昨日はラッキーセットの最後の日で、どーしてもほしくて、ママに連れてってって言ったら、雨だからだめって言われたから1人でいったの。そしたら・・・」

と、そこまで言ってひと際大きく泣き出した。

理奈も熱いものを感じ、

「そーだったんだ。お姉ちゃんあそこの会社でお仕事しているのよ。来てくれてありがとう。でも、次からはお母さんの言う事よく聞いて、一緒に来てね」

「うん。」

女の子は涙を手で拭いながら小さく頷いた。


「では、又あらためてお礼に伺いますから。」

と母親が言って、部屋を出ようとした時美香が、

「車にひかれたお姉ちゃんのおあし、早く治りますように。」

と、お祈りをする仕草をして帰って行った。

理奈は笑って手を振った。


少しして、理奈はちょっと待てよ、”車にひかれた足”と子供が言った事を思い出し、母に、

「ちなみに私の怪我ってどんなだったの?」

「あら、知らなかったの、あなた車に左足轢かれて足首複雑骨折、全治6カ月よ」 

「えー!」

と叫んだあと、今まで感じていなかった痛みに急激におそわれ気を失った。











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