ホスピタル7
隣接する小学校から聞こえてくる放送を聞きながら“今日ももう5時か”と理奈は思っていた。
すると、ドアをノックする音が聞こえた。
さっき母の晶子が帰たところで、今日はもうだれも来る予定が無かったので、誰かな?と思い返事をした。
「はい、どうぞ。」
すると、
「おじゃましまーす!」
と、いう大きな声とともに三人の女子が入って来た。
理奈の勤めるハンバーガーショップのアルバイト店員、通称高校生トリオの三人組であった。
「理奈マネージャー、久しぶりです―!おげんきでしたかー?」
相変わらずの高校生らしくない化粧をした中沢とし子が言った。
「えー、みんなお見舞いに来てくれたの、ありがとう!でも、怪我人に“おげんきでしたか?”は無いんじゃない。」
理奈は高校生トリオの突然の訪問に笑顔で答えた。
「えー、理奈マネージャー入院してまでお説教ですか?」
三人の中でもひときわ化粧の濃い吉川早苗が言った。
「何言ってるの、あなた達には24時間お説教が必要よ!でもよく来てくれたわ。ありがとう。」
「そんな、みずくさい事言わないで下さい。私達、なんやかんや言っても理奈マネージャーの大ファンなんですから。」
三人の中で一番しっかり者の岡部綾子が言った。
「ほんと、嬉しい事言ってくれるわ。でも、今日はバイトは無いの?」
「ええ、本当はバイトだったんですけど店長に理奈マネジャーのお見舞いに行きたいって言ったら、休ませてくれたんです。店長マネージャーにお熱みたいですから。」
と、岡部綾子が言った後
「1000パーセント無いのにね!」
と、吉川早苗が言って、病室は笑いに包まれた。
「ところで、マネージャー彼氏とかほんとにいないんですか?」
中沢とし子が聞いた。
「ええ、いないわよ。」
「でも、なんでマネージャー見たいな綺麗な人に彼氏がいないのか不思議で仕方無いですよ。だって、こないだも超イケメンの人にメアドとかもらってたじゃないですか?」
「それって、いつの物の事を言ってるの。」
「え、マネージャーそんなしょっちゅうもらってるんですか?」
「そんな、しょっちゅうじゃないわよ、大体週一回ぐらいかな。」
「えー、それってすごすぎですよ!」
と言って、中沢とし子が驚きの声を上げた。
「ま、理奈マネージャークラスじゃありえるのかも。それでも週一はすごいわ。」
岡部智子も感心していた。
さらに、中沢とし子が聞いた。
「マネージャー彼氏ほしくないんですか?っていうか今まで彼氏出来た事無いとかじゃないですよね?」
すこし、間をおいて理奈が答えた。
「彼氏は別にほしいとはおもわないわ。面倒くさそうだしね。でも、今まで彼氏がいなかった訳ではないのよ。」
「えー、理奈マネージャー彼氏いたときあるんですか?」
三人が同時に声を上げ、聞いた。
「何よ、あなた達必礼ね、私だって彼氏の一人くらいいたわよ。」
「いつごろですか?短大の時ですか?」
「もう少し前かな。」
「高校生の時ですか?」
「もう少しかな」
「・・中学生ですか?」
「・・もう少しかな」
「・・、まさか小学生とか」
「・・・・」
「え、まさか、幼稚園ですか?」
「だったら何!いけないの!」
「・・・いや、べつに・・」
理奈の答えに三人は言葉を失っていた。
高校生トリオがお見舞いに訪ねて来て一時間が経っていた。
「ははは、でも本当に今日は面白かったわ。」
理奈の病室は笑いに溢れていた。
と、その時ドアをノックする音が聞こえた。
「こんな時間に誰かしら?」
と、言いながら理奈が聞いた。
「どちらさんですか?」
「こちら川崎さんのお部屋ですよね、お邪魔してよろしいですか?」
というなり、一人の女性が入って来た。
理奈を始め、高校生トリオの三人も“このケバい女は誰だ”とおもっていた。
吉川早苗に至ってはその女が通り過ぎた時のきつい香水の匂いに目を顰め鼻をつまんでいた。
「私、こういう者です。」
といって、その女は名刺を差し出した。
理奈が見ると、“大阪地方検察庁 第一刑事部 検事 雑賀裕子”と書いてあった。
理奈は、検事の意味が分からず
「警察の方ですか?」
と、尋ねた。
「ま、同じような者です。ちょっと先日の事故の事で聞きたい事がありましてね。」
と言って、高校生トリオの三人を睨みつけた。
高校生トリオは、警察という響きと、得体の知れぬケバい女の睨みに気圧され、
「じゃ、マネージャー私達そろそろ失礼します。」
と言って、席をたった。
「あ、みんな今日は本当にありがとう。店長にもよろしく言っておいてね!」
と理奈は言って三人を送り出した。
「なんか、私が帰らしたみたいで申し訳なかったわね。」
「いえ、ちょうどそろそろ帰る時間でしたから。」
これが、これから続く、全く表には出てこない女の戦いの始まりであった。




