2. In Principio (2)
「……へっ?」
麗香は予想だに出来ぬ事態に、思わずその場にへなへなと座り込んでしまった。
男は、背がやや高く、古代ギリシア人のような服を纏い、ダークブラウンの髪と目、そして紛れもない西洋人の顔立ちをした青年であった。歳は19、20程であろうか。とにかく、偉丈夫という言葉が似合う男だと、麗香は感じた。
男はしばらく周りを見渡していたが、こちらに気づくとおもむろに口を開いた。
「そこに居る娘よ、ちょうど良い。ここはどこだか、教えてはくれまいか。……どうした?」
「……どうした……じゃない……わよ……」
麗香はゆっくりと立ち上がってスカートについた埃を手で払うと、男の方を睨んで言った。
「はあ……色々と、聞きたい事はあるのだけれど。
まず、アンタは誰よ。それと、どうして倉庫に居たのかしら?」
「ああ、そうだったな。私の名はユリウス……?」
そこまで言って、男は急にむむと唸り出した。
「何で唸ってるのよ」
「……すまない。自分の名がユリウスだと言う事より他に、何一つとして覚えていないのだ。気がついたら、あの部屋で眠っていた。自分としても、何が起きているのか、皆目見当がつかないのだ」
そこまで言うと、彼はため息をついた。
「……まあ、いつまでもそうしていたって仕方が無いわ。
私の名前は麗香よ。三沢麗香。ここで考古学を学んでいるわ」
「レイカ、か。よろしく頼むぞ」
男はそういうと莞爾として笑い、手を差し出してきた。
「はいはい、よろしく」
麗香は彼と握手を交わした。
これが、麗香とユリウスのファーストコンタクトであった。