1. In Principio (1)
In Principio Dixit
(初めに彼は語りき)
年の暮れのこと。ある大学の研究室で、少女はため息をついていた。
(何でこういう時に限って、しょうもないレポートなんて書かされるのかしら。最近はコピペも使えないし……だるい)
少女、三沢麗香は眺めていたパソコンのモニタから目を離すと、手持ち無沙汰に、今度は研究室の隅にある倉庫の扉を眺めた。年季が入った古い木製の引き戸である。彼女の師である教授によると、明治年間にこの大学が創立された時からある部屋だそうだ。
(開ける時やたら固いからイライラするのよね……あ)
麗香はふと、レポートに載せる写真を撮るために、倉庫にある古い柱を運び出さねばならぬ事を思い出した。この柱はある遺跡の発掘時に発見されたものだが、その一柱には他に比べ極めて多くの文字が刻まれていたので、研究のために持ち帰られたという経緯があった。正直、レポートの挿絵程度の使い方しか考えていなかったので、彼女にとってはどうでも良い話だったが。
(はあ。まあ適当に使えれば御の字よ)
思い立ったが吉日、いや吉時かしら、などとくだらないことを考えながら、麗香は椅子から重い腰を上げ
ガサッ
ようとしたのだった、が。
(……は?)
誰もいないはずの倉庫から、物音がしたのである。
今日は研究室にいるのは、麗香一人だけ。強盗かなんかが潜んでいたとしたら、女の彼女にはとても太刀打ちなど出来はしない。
(え……え?嘘、でしょう?嫌、嫌よ、わた、私はまだ、死に……!)
顔を青ざめた麗香は、震える足を無理に奮い立たせ、通報をしようとした。しかし、それよりも早く、倉庫の扉は一人でに開いた。
そして。
「……ここは……、どこだ?」
一人の男が、姿を現した。