被害者じみた加害者の日常
昼休み、私は1人本を読んでいるフリをしていた。どうやら私はストーカーされているらしい。まぁ、幾つか餌を撒いたらすぐに誰か分かった。しかし、その相手は私を驚愕させる人だった。何故なら、私の片想い相手だったのだ。
複雑な心境になりながらも、面白くなって来たという感情が強かった。そして、大好きな彼の事を手のひらで転がしてみたいと思ってしまった。ああ、今日も彼は恰好いい…
私の友人に言わせれば、私はおかしいらしい。まぁ、その通りだろう。ストーカーされてなお、彼に恋心を抱いているのだから。
しかし、悪いのは彼だ。
可愛らしい純情そうな顔立ちに貼り付けているのは、仄暗い追跡者の顔。そのギャップが私を惑わせる。
気が付けば、好きになっていた。それほどまでに、彼は魅力的だ。
私達は両想い。彼が私を私以上に知っているように、私も彼を彼以上知っている。住所もメルアドも電話番号も好きな食べ物も嫌いな食べ物も好きな映画も愛読書も前髪を気にする癖もいつもの仄暗い笑みも不敵に笑う目の輝きも時折無垢な眼差しの可愛らしさも授業中に居眠りしている時の素直な寝顔も、全部全部全部知っている。
私達は似たもの同志なのかもしれないわね。お互いの事を全て知っていたいという感情を持つ。
どこまでも追いかけてくる彼を見るのは、最高に嬉しく、楽しい。やっぱり私はおかしいのかも。
なんて事を考えている内に、本を読み終えてしまった。
今日は彼と、図書室デートかな。
私は少し大きめな音を立てながら立ち上がる。彼はそんな私を、首が折れるのではないかと思うほどのスピードで見る。
そんな彼を見ていると、幸せな気分になってしまう。
きっと今の私はニヤけているだろうな、と思いながら図書室へと向かう。
案の上、彼はついて来てくれる。
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さあ、本でも読みながら、私を観察する貴方を観察する事にするわ。
貸し出しカウンターで借りる手続きを済ませ、鏡の近くのソファに座る。
私はまた本を読むフリをしながら、鏡ごしに貴方を見る。私を真剣に見つめる貴方。
貴方にそんなに想われてるなんて、私は幸せね。ちょっとイジワルしたくなってしまったわ。
「………!」
私は素早く辺りを見渡すフリをする。
鏡ごしに彼が不自然ではないスピードで死角へと移動するのが見えた。
やっぱり移動した先も、鏡から見える位置。そんな、少しドジな所も素敵だ。
私は見えていないフリをしつつ、彼を鑑賞する。
暫くすると、彼を眺める上で看過出来ない事が起こってしまう。
「やあ、寺島さん。ご一緒してもいいかな。」
でた。またこいつだ。最近、私につきまとっている面倒くさいひと。
じゃあ金井くんはどうなんだ、って?彼は特別よ。当たり前じゃない。
「…いいわよ。」
私は渋々、承諾する。
そいつは私の前では無く、わざわざ隣に座ってきた。
本当にやめて欲しい。そこに居られたら、彼が見えづらいじゃない。
そんな私の念は通じず、この人は次々といろんな事を聞いてくる。
好きな映画はありますか?______まぁ、ホラーは嫌いじゃないわ。
一緒に観に行きませんか?______暇な時間が出来たらね。
僕のこと、どう思ってます?______知り合い以上友達未満かしら。
こんな感じの退屈な質問が続いた。ただ一つだけ、面白い質問があったけど。
「す、好きな人っていますか?」
「ええ、いるわよ。」
即答。当たり前よ。「か」って言う前に答え切ってしまったわ。
案の定、唖然としているようね。
「ど、どんな人なのかな?」
「そうね……!」
再度私が答えようとすると、衝撃的なものを見てしまう。
金井くんが、この人を嫉妬の目で見ている。
脳がフリーズする。
______見るな、見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな、貴方が見るのは私でしょう?その目でこいつを見るな。その目は私を見るためにあるんでしょう?私を見て私を見て私を見て私を見て私を見て、私だけを見て。
「____さん?寺島さん?」
「あら、ごめんなさい。ちょっとボーっとしてしまいました。」
いけない、また意識がトリップしてしまった。私はこれを機にこの場から移動することにした。
「それでは今日はこれくらいで、失礼するわ。また、会いましょう。」
私は社交辞令を述べ、立ち上がる。
この人は残念そうにしながらも、ついてこずに別れを口にする。
「ええ、それでは。」
私はすぐに教室に戻ろうとするが、自分の歩くスピードがいつもより速いことに気づく。
どうやら、私は嫉妬でイライラしているらしい。私は屋上へ向かう。
______私以外を見たんだから、代わりに愛を示して、金井くん?
私はより一層イライラした風を装って屋上のドアを開く。
ガン、と音をたて、ドアを閉め、ちょっと待ってから壁や、ドア、ゴミ箱などを蹴っ飛ばす。
「なんなの⁈なんなのあの男は⁉いつもいつも、私につきまとって!」
言葉はイライラしているのを装っているが、内心はほくそ笑んでいる。これから、彼が何をしてくれるのか楽しみで仕方ない。
さて、そろそろいいかしら。
「あー、もう。誰かあの男黙らせてくれないかしら?痛い目に会えばいいのに。」
そして私は教室へ戻る。そして、後ろからついてくる彼を見て嗤う。
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夜、今回は私が彼の後ろを、隠れて歩く。勿論、彼の勇姿を見るためだ。
彼は花壇に隠れるようだ。私は彼がスタンガンのようなものを持っているのを見て気づく。
ザ☆闇討ち
ちょっと卑怯だが、彼のすることだから全肯定する。まあ、当たり前ね。
「〜〜〜〜〜〜♪」
あっ、標的が出てきたわ。
呑気に鼻歌なんかを歌っている。
……見た目に似合わず下手ね。
彼はササササッと音も無く、素早く移動する。そして、流れるように首すじにスタンガンをあて、起動。
………早っ!
彼はその後奴をボコボコにし、手に紙を持たせた。
きっと私に近付くな。とでも書いてあるのでしょうね。
それにしても、早かったわね、恰好良かったわ、さすがね。
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簡単に言いましょう。
私は今、最高に気分がいいわ。
だって、私のためにスタンガンまで持ち出してくれたのよ?
しかも、あの男も私を見かけるだけで逃げ出すようになった。
軟弱ね、彼ならまだ諦めてないでしょうに。
それにしても、気分がいいわ。今、私は笑っているかもしれないわね。
私は今日も彼にストーカーさせて笑う。
「さて、次は何をしてもらおうかしら?」
私はそう言ってイタズラな笑みを浮かべた。
こんな感じの結末はいかがでしょうか。
何かアイデアが浮かべば、書いていきたいと思いますので、どこかでまたお会いできる事を願っています。