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第一章【拷問】




「《雷烙白撃ライヴン》!!」

 正方形のやや圧迫感のある灰色の部屋。

 その圧迫感の理由は装飾などが一切なく、窓には鉄格子がされ飛び出したりできないようになっており閉鎖的なのと、単純に部屋が入る人数のわりに狭く設計されているからだろう。

 その部屋で突如虚空に発生した稲妻が男の背後に落ち激しく放電し弾けた。

「ヒィィィィ!?」

 男は椅子から飛び上がり転がり落ちた。そのまま這いずって逃げようとする。だが目の前に何者かの足が現れ塞がれてしまった。

「どこにいくのかなぁ、まだ取調べは終わってないよ?」

 そう言いながら彼は自己精神の裡に潜入する。心の暗い闇の奥底に感じる涼気――その“存在”に向かい、呼びかける。

 “我が水を守護する精霊よ――今こそ力を行使せよ”

 現実世界の流れとは違い、自己精神の裡では全てが一瞬で終わる。

「《飛氷戯ルボク》!」

 彼の“呼びかけ”により、存在から引きずり出された“力”は現実世界で発現する――虚空より生まれ出た人の頭ほどもある氷の塊が、男の鼻先をかすり眼前に鈍い音をたてて落下した。もう少しずれていれば鼻が削げてなくなっていたかもしれない。

「うぁぁあ!? くそぉッ、鬼! 悪魔! 何が取り調べだ! こんなの拷問だ!」

「ねえ、ザード。僕たちが悪魔だってさ」

「確かにそいつは聞き捨てならねぇな、リック。俺達は我がアスラに住む市民を悪から守る、善良な“皇国精霊術士隊”なんだぜ? この盗賊風情が」

 男は半泣きで喚き散らしている。

 ザードと呼ばれた青年はその男の背中を踏みつけ黙らせる。漆黒の髪を逆立たせ、同色の鋭い瞳を輝かせ不敵に冷笑を浮かべたその姿は確かに鬼か悪魔にも見えてしまう。

 彼が言う皇国精霊術士隊とは通称、術士隊エレメンツと呼ばれ、世界最先進国の巨大皇国都市アスラ有する軍隊であり、また街の治安統治の役割も兼ねている国家組織でもある。

 ――誰しもの心に宿っている精神精霊。

 精霊術士はその精霊呼びかけ力を引き出し、術を行使する。それには五つの属性があり、火水木金土それぞれの精霊が確認されている。先ほどの場合は、金行属性の雷、水行属性の氷の術を精神精霊から引き出し発現させたのだ。

 精霊術を行使できるようになるには個人差はあるが、才能に恵まれ幾年の鍛錬を積んだ者ならほぼ術を引き出せるようになり、認定試験を受ければ精霊術士の資格を得る事ができる。

 その中でも優れた術士ならば危険な任務もこなす術士隊に志願することもできるのだ。

「盗賊さん、素直に罪を認めなよ。そうすれば三割は優しくするから」

 にっこりと微笑むリックと呼ばれた青年。

 癖のある黄金色の髪を左右へ流し、青い瞳は分厚い眼鏡に覆われていて眼は笑っていないのが男には見えない。

「うあああ、くそお、オニ、アクマ、こんなのゴーモンだ・・・・・・と」

「ルナ、そこは書かなくていいから」

「えっ、そうですかぁ?」

 机に座り一人黙々と供述書を記していた少女。

 清潔感ある良い薫りが染み込んだ桜色の髪は背中まで伸び、幼さの残るあどけない表情には琥珀の輝きを湛えた大きな瞳を乗せ無邪気に笑みを浮かべる。

「あのぅ盗賊さん、怪我したらルナの術で治してあげますから、心配しないでいっぱい怪我してくださいネ♪」

「いや、そういう問題じゃなくて・・・・・・」

 男は無邪気に残酷なことを口にした少女に唖然とし、その眼差しに耐え切れなくなり観念した。

「あっしがやりました・・・・・・」

「ちっ、なんだよ。もうゲロったぜ」

「前の人はもっと楽しませてくれたのにねぇ。その人いま精神病院に入院してるんだっけ?」

 ザードがさもつまらなそうに毒づき、リックも歎息した。

「神がいるのならこいつらに天罰を下してくれ・・・・・・」

 男は生涯で一番の信仰心で切に祈った。

「何かいったか? えーっとそれじゃ、件の、会社の社長に変装して金を持ち出そうとした犯行――とりあえず窃盗罪で間違いないな。まあ結局はバレて未遂だったようだが・・・・・・変装とは考えたな?」

「へ、へぇ! あっしは、百面相と呼ばれ変幻自在に姿を変え一〇億ゴルドという史上最高の総窃盗額を樹立した、伝説の怪盗ゼロに憧れてまして!」

「怪盗ゼロ・・・・・・確かに、あの変装術は見事だったね。全く見破ることができなくて、何年も前――僕たちがまだ新人の頃、振り回されて苦労したよ」

「まあ結局は隊長が捕まえたんだけどな」

 と、そこへ机の上にある内線電話が鳴り、ルナが笑顔で受話器を取った。

「はい♪ あっ、そうなんですか・・・・・・はい♪ 餃子とラーメンのセット一人前ですねぇ」

 と言いつつそれをメモするルナ。思わずリックは不安になる。

「ルナ、誰と話してるの・・・・・・?」

「ロベルト四番隊長ですぅ〜」

「あぁ? 注文をこっちにかけるのはおかしいだろーがぁ!」

 ザードは盗賊の男の首を取り逆向きに伸ばし怒りをぶつけた。

「いで、いででで! なんであっしがぁぁ!」

 その様子を無視し、リックはルナに向き直った。

「で、ルナ。本当は隊長何て言ってたの?」

「はい、隊長室に三人で来るように、ということですぅ」

「そう・・・・・・例の事件の件かな?」

 それを耳にするとザードはすぐに立ち上がり、服の乱れを直した。その顔には不適な笑みが張り付いている。

「くく、ようやくお呼びか・・・・・・さて、拷問もとい取り調べも飽きたし行くぞ」

「はいですぅ♪」

 三人は盗賊を残し揃って部屋を後にした。

 暫く茫然としてから忘れられた盗賊は内線電話の受話器を取った。

「あのー、逮捕するんならしてもらえます?」





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