ことわざや
古風といえば聞こえはいいが、要は今にも崩れそうな店の中。
俺は建物以上に怪しげな店主の話を聞いていた。
「ここはなんの店なんだ?」
「ええ、それはそれは。表の看板にございますように、諺に因んだ商品を売っておりますお店でございます。諺に因んだ商品ならばなんでもございまして、例えば降りたら必ず喧嘩別れするという『呉越同舟スワンボート』や絶対にうまく点眼できる『二階の目薬』、対動物用護身装備『歩犬スティック』などなどございまして、ただ――」
「おーけぃ、わかったわかった、説明はもうそのへんでいいから。」
外見だけじゃなくて言ってることも胡散臭い……こんな怪しい店に立ち寄ってしまったのは、俺が昨日、デイトレードで失敗したせいでイライラしているからだろう。くそっ、あの情報商材め。絶対にうまくいくって言ってたじゃねーか。
「つまり、俺が欲しそうなものは必ず用意できるんだろ?」
「諺の力は偉大でして、大抵のことは、逆の内容でもカバーするほどですので。
まぁ……そういうことになりますね。」
「それなら話は簡箪だ。俺が株で勝てるようになる品を……」
いや、まてよ?どうせ何でもあるんだったら、もっと根本的に……
「……いや、完壁な売買ができるくらい、俺の頭が天オになる品をくれ!」
「ふぅむ……頭が良くなる薬ということですか……ふむ。」
店主は一瞬思案気な顔をした後、おもむろに引き出しをごそごそとして小瓶を取り出し、中に入っていた粉末を薬包紙に包んだ。粉末は、見るも鮮やかな赤色だった。
「ええと……これは『能ある鷹の爪の垢』という品でして……煎じて飲むと効果覿面、みるみる頭が冴えわたるという……」
「ありがとよ!」
長引きそうな話を打ち切り、俺は品を受け取った。くひひ、いい買い物をしたぜ!
「――さーて、確か湯に溶かせばいいんだったよな。」
目の前には鮮やかに真っ赤な液体が湯気を立てている。なぜか目がヒリヒリするが、いかにもこれは効きそうだ!
「これで俺様は天才だ!」
俺はこの天才液を男らしく一気に飲み干す―――ゴクリッ!
「#%$!“☆ДИ¶☤Å!!!???!?――――!!!」
「なんでもございますが――ただし、『馬鹿につける薬』だけは置いていないのでございます。いやはや、まさか本当に飲まないとは思うのですがねぇ。」