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首だけ悪魔と弾頭幼女の帰り道  作者: 天翔すめら
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2.魔道士と肌寒いお花

 ゼファーがガルーカンと旅立ってから、数か月が過ぎました。

 東の遺跡に冥界への扉を開く道具があると聞けば、遺跡で道具を守る番人を殴り倒しました。西に冥界へと繋がる大穴が開いていると聞けば、躊躇なく飛び込みました。

 それでも未だ冥界へ行く事はできませんが、ゼファーは以前よりとてもたくましくなりました。

 今だって夕暮れの森の中、ガルーカンの指導のもと、野宿をするための準備をてきぱきと進めています。

 そして最後にガルーカンがゼファーの中から外に出て、焚き木を挟んで向かい合います。

「よしゼファー。魔法で火を起こせ」

「うん!」

 魔法とは、誰でも使える不思議な力の事です。それは何も無い所に火を起こしたり、風を操ったり、果てには人間からドラゴンに変身だってできました。

 それは個人差があるにせよ、誰にでも使える力で、悪魔や魔物にだって使えました。

 普段のゼファーはガルーカンに取り憑いてもらい、魔法で敵を攻撃したり、魔法で強化した拳で殴ったりして、敵を倒していたのです。

 しかしゼファー本人は、いくらガルーカンに指導されても、火を起こせませんでした。

 魔法を使う時には“魔法の祖”と呼ばれる者の声が聞こえるはずなのですが、ゼファーは一度も聞いた事が無いのです。

 ガルーカンはやはり今回もダメだと見切りをつけ、自分の魔法で火を起こすのでした。

 ゼファーは面白くなさそうに頬を膨らませ、ぶすっとします。

「むー、ゼファーもガルーみたいに、敵をお花にしたいのにー」

「できねぇもんはできねぇんだろ。それに、どうせ俺が入れば魔法は使えるんだし、こだわる必要はねぇよ」

 その時、森の奥からバキボキと木をなぎ倒しながら、全身真っ黒な、二階立ての家ほどの大きさはある悪魔が現れました。紅い霧をまとっているのは、悪魔の証拠なのです。

 ついでにその悪魔は大きな口に、ローブを着た若い男性をくわえていました。彼はこれから自分は殺されるのだと悲しみに暮れ、「僕はダメなんだ、僕はダメなんだ」と涙混じりに繰り返していました。

 死に瀕した人間にはありがちな行動なので、ゼファーたちは彼を無視し、悪魔の方へ意識を向けます。

「ガルーの友達?」

『いや、蟻んこみたいなもんだな』

 気に留める必要は無いけれど、邪魔をするなら容赦なく潰す存在だという事でした。

 蟻んこ悪魔は太く大きな腕をゼファーに叩きつけようとしましたが、すでにゼファーの中へ入っていたガルーが軽々と飛んで避けたので空振りしました。

『悪魔は成長なんてしねぇから、自分より強い奴には絶対勝てねぇ。そしてこいつは俺より弱いのに襲いかかってきた。つまり』

「実力を見極められないおバカさん!」

『正解!』

 ガルーカンはおバカへと何発もの氷の槍を撃ち込み、針状の“お花”にして倒しました。

 最初の頃、ガルーは息の根さえ止めればいいと、悪魔らしい残酷な魔法ばかり使っていました。しかしその惨い有り様にゼファーが大層おののいて、泣くのをこらえているのに気付いてからは、せめて見た目だけでもマシな魔法を使うようになったのでした。

 ガルーカンは外に出ると右手を作り、ゼファーが飛び上がってハイタッチしました。

 そんな二人の様子を、運良くガルーの魔法から逃れた男性が、呆然と見ていました。

 そしてハッと我に返ると、彼はゼファーに向かって感激と畏怖を込めた視線を注ぎ、こう叫びました。

「ぼっ、僕は魔道士のディズレーリと申します! あなたのお力はしかと拝見致しました! どうか冥界の魔王を倒して下さい勇者様!」

 しばらく辺りに沈黙が降りた後、ゼファーとガルーカンは同時に嫌そうな顔をしました。

「ゼファー、勇者様より聖女様がいい~」

「よし、無視しろゼファー。行くぞ」

 ガルーカンは面倒事に関わりたくなくて、起こした火を消し、この場を去ろうとします。

 それにディズレーリは慌てて、引き留めようとしました。

「あちこちで悪魔が言ってるんです! 魔王に反逆した悪魔の力で戦う勇者がいるって! それはあなたの事ですよね!?」

 どうやら面倒事はすでに始まっていたようです。

 ガルーカンは身に覚えの無い噂の真偽を問うため、ディズレーリへ振り返って真実を見極めようとします。

「その悪魔共の名前は?」

「確認できているのは、ヌイ、ルサ、ジキの三体です」

 ガルーカンは現実から目を背けるように、右手で顔を覆いました。

「よりによって嘘をつけない悪魔共かよ……」

 ディズレーリも嘘を言っていません。彼が頭に浮かべた悪魔たちの姿は、その三体で間違いありませんでした。

「なんでその悪魔たち、嘘つけないの?」

「悪魔は生まれながらにして、何らかの枷をはめられてるんだ。そいつらの場合は“嘘をつけない”、俺の場合は“人間の願いを叶えなきゃならない”だ」

「それを守らなかったら?」

「消える」

 つまりその悪魔たちが今も存在しているという事は、嘘をついていないという事でした。

「なんでそんな噂が流れてんのかはひとまず置いておく。今は一刻も早く魔王に誤解だって知らせねぇと、俺ら危険分子と判断されて消されちまう」

「でもまだ冥界への行き方見つかってないよ?」

「ああ。だから魔王と連絡が取れる悪魔へ会いに行く」

 その場に一人ディズレーリを放置して、ガルーカンはゼファーを連れて移動の魔法を使うのでした。

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