9)おばあさんはマイペース
頭をやさしくなでる感触がした、ふわふわと心地よくいつまでもまどろんでいたい、そんな感触。
「・・・ナミ」
「・・・おばあちゃん?」
奈美はまどろむ意識から目を覚ました。
そこには、ほっとした顔をしたおばあさんがいた
「生きていてくれてよかった、ナミ」
奈美は寝台に寝かせられていた。
おばあさんはそっと奈美を起き上がらせて、おかゆを食べさせた。
「さぁ、食べなさい」
久しぶりの食事に、奈美は無我夢中で掻きこんだ。
「ぷっはぁー-!生き返る!!」
空になった器をおばあさんに返すと、水を一気飲みした。
「やれやれ、さっきまで死にそうな顔をしていたというのに、あまり無理するでない」
「はぁ~だって腹ペコだったんだよーって!ここどこ?!」
奈美は、いままでいた牢屋でないことに気づいた。
「気づくのが遅い!ここは陛下の執務室の隣の部屋にある仮眠室じゃ」
「へ?」
「やはり、お前を一人にするんじゃなかったの、すまなかった。怖い思いをしただろう」
おばあさんは、また奈美の頭をなでた。
「こんな姿にさせられてしまって」
「姿?」
奈美は自分の体をみるが、特に変わった様子が無かった。絶食状態だったというのにやせ細った様子も無い。
「・・・がりがりにやせ細っているではないか?髪も白くなっておる」
「へ?細くなってないよ?髪の毛?エメラルドグリーンだよ?」
奈美は自分の髪の毛をつかんで見るが、森にいたときと同じ綺麗なエメラルドグリーンの色をしていた。
「・・・まさか」
ちょうどそのとき、扉を叩く音が響いた。
扉が開き、ラルクとサイチェスが入ってきた。
「目覚めたか。」
「陛下」
おばあさんは、椅子から立ち上がりラルクに礼をした。
「様子は?」
「食事は取れましたので、あとは体力が戻れば大丈夫でしょう。ですが、幻覚と変化が掛けられておる。もともとわしの掛けたものに対して、上乗せするようにかけるとは、魔獣もかなり力が強いの・・。」
「お前、ゴディバの存在をしっていたのか!しかも術を掛けていたのか?!」
サンチェスがおばあさんの胸倉をつかんで叫んだ、だがおばあさんはさもうるさいと言わんばかりの顔で答えた。
「人聞きの悪い、わしはゴディバではなく、ナミと暮らしておったのだ、それをお前達が勝手に連れ出したのだろう」
奈美は、だまってベットの中で様子を伺っていた。ラルクはそんな奈美の様子を見ながら、おばあさんを見ずに言った。
「幻覚と変化いったな?どんなものだ」
おばあさんはため息をつきながら、サンチェスの手を振り払い奈美に向かって易しく言った。
「奈美、お前の髪の毛の色をもう一度陛下にいってごらん」
「?エメラルドグリーンだよ?どうしたのおばあちゃん?」
「「?!」」
「何をいってる、お前の髪の毛は白髪だろう・・・」
「ナミ自身に幻覚が掛けられているのですよ」
おばあさんが奈美の目に触れ何事かをつぶやくと、目の周りがじわりと暖かくなった。
「もう一度、自分の髪の毛を見てご覧」
おばあさんに言われ、奈美は自分の髪の毛を手にとって見る
「?!・・・白い・・・てか、腕ガリガリ?!きもっ!!」
「やはりな・・・」
「つまり、こいつは自分が変化されていることに気づいていなかったということか?」
「そういうことじゃ。とりあえず、瞳と髪の毛は元にもどすかの」
そういうと、おばあさんの手のひらに光が集まり、その光を奈美の頭上にかざした。
キラキラと光るシャワーを浴びると、奈美の髪の毛は黒髪に戻った。
「あれ?黒髪にもどってる」
ラルクは驚愕し、おばあさんのほうに振り返った。
「ばあさん!」
「これが、ナミ本来の髪の毛の色じゃ」
「本来だと?」
「この世界になじむまで、仮の姿をさせていたのじゃ、それがエメラルドグリーンの髪。肉体を戻すにはもう少し、体力をつけてからでないと危ないの~」
「肉体を戻す?」
「そうじゃ、ナミは女だからの」
「「女だと?!」」
「んな、大きな声をださんでもきこえとるわい」
おばあさんは煩そうに、耳を両手で押さえた。