7)軍人から
カシャンという音と共に食べ物の匂いがする。
バタンという音と共に、シュタッという音が聞こえる。
カシャカシャ、ジュル「まずいな」という音が始まる。
兵士が置いていった食事を狼の魔獣が食べているのだ。
奈美は地べたに横になったまま、檻の向こう側にいる狼の魔獣を見ている。
狼の魔獣が食べているのは奈美が食べるはずの食事だ、だが奈美は未だに一回目以来その食事をしたことが無い、食べる前に狼の魔獣が現れ食べていくのだ。
まずいと思うなら食べなければいいのに
狼の魔獣の狙いを奈美はわかっている。
食べ終わると、必ず奈美のいる檻の中に黒い果実を置いて、来た道の通り天窓から去っていく。
奈美が空腹に耐えられずにその果実を口にするのをまっているのだ。
たく、ここの兵士は何してるんだ?!魔獣にやすやす入られて・・・あの魔獣は結界に反応しないとしても・・・この部屋の監視はされていないのか?
そう、あの狼の魔獣は魔獣よけの結界に反応しないのだ。奈美のいる檻の周りにも結界石が置かれているのに、あの狼の魔獣はやすやすと入ってくるのだ。
奈美は起き上がると、檻の中に置かれた黒い果実を拾い壁に向かって投げた。
グシャリという音と共に石の壁に付いた黒いしみをいっそう黒くさせていた。
果実の甘い芳香が部屋の中に充満する。
奈美は誘惑に負けないように、果実を壁に向かって投げつけ潰していた。
食欲をそそる香り。
10回までは食事の回数を数えていたが、それ以上は数えるのをやめてしまった。
おおなかが空いた、気持ち悪い。餓死しそう。
檻の中央に戻り横になる。
この檻、中央の柱がなかったら本当に鳥かごだ。そんなことを思いながら。
バタン
カツカツカツカツ
奈美は近づいてくる音で、うとうととしていた意識を浮上させた。
音のほうを見ると、最初に連れられてきたときに見た男が立っていた。
格好は最初と違い、豪華な衣装ではなく蒼い上着に白いブラウスにズボンといういでたちだった。それでも刺繍やら装飾で派手だったが前のものよりは簡素と言えた。
よくよく見るとカッコイイかも
男はオレンジがかった金髪に肌が白かった、蒼い瞳は力強くまるで炎をみてるようだった。
奈美を見て男は眉根を寄せた。
「お前。食事をしているだろう、なぜそこまで痩細っている」
「・・・・いっても信じなさそうだから言わない」
なんとなく男の物言いに奈美は反抗的に答えてしまった。
男はじっと奈美を見ていたが、ため息をついて目線をそらした。
そのときに、壁の一部に気が付いた。
灰色の石壁の一部が黒ずんでいたのだ、男はそれが普通の人間には見えない染みだということに気づいた、魔力が高いものにしか見えない染み。
男はその石壁に近づいて、指に触れた。
その様子を奈美はボーっとした瞳で眺めていた。
そういえば、ここの兵士はあの染み全然気にしてなかったな。この男だけだ。
奈美は自分で作った染みが他の普通の人間には見えない染みだということを知らなかった。
男が壁に触れた手は黒い果実の汁で汚れていた
その匂いを嗅いでる姿をみて奈美は思わず言ってしまった。
「・・舐めないほうがいいよ。少しでも口にしたら最後」
「・・・・」
男はゆっくりと振り返り、奈美を見つめた。
「死よりも恐怖を味わう・・・・黒い果実」
男がいった言葉を聞いて、奈美は瞳を閉じて言った。
「なんだ、知ってるのか」
はぁ、とため息をついて、体を丸め寝る体制をとった。
男は部屋の四隅にある結界石を眺めてから、奈美のいる檻に近づいた。
「おい」
奈美は声を掛けられたことに気づいたが、相手にするのも面倒で反応を示さなかった。
無視を決め込んでいると、襟首をつかまれ起された。
「うわぁ?!」
目の前には先ほどの男がいた。
いつの間にか檻の中に入ってきていたのだ。
「なんで中にいるの?」
「お前が反応しないからだろうゴディバ」
「あっそ、で何」
めんどくさそうに奈美は返事をして、柱に寄りかかった。
正直空腹すぎて起き上がるのも億劫なのだ。
「この部屋に兵士意外に誰かきているのか?」
「目の前にいる人がきてまーす」
目を閉じながら答えると、首に圧力が加わった。
男が右手で奈美の首を締め上げていた。
「・・・っか。・・・ぁ」
男は顔を近づけて言った。
「真面目に答えろ」
そういうと、首に掛けられていた圧力が弱まった、だが完全に首から手をはずすことはしなかった。
奈美は、諦めて正直に答えた。
「ケホケホ・・・・魔獣が。狼の魔獣が来てる」
「魔獣だと?」
「人型に・・・・変化できる、知能がある・・・魔獣」
「・・・」
男はじっと奈美の瞳を何かを探るようにじっと見つめた。
ほんのつかの間のようで、とても長いような時間を破ったの男のほうだった。奈美の首を閉めていた手を離したのだ。
いきなりだったため奈美はそのまま床に倒れこんだ。
「いっ・・・」
「なぜやりかえさない?」
「?」
「昔のお前は、魔力をなくしても、片腕が使えなくとも狂ったように血に飢えた獣のように牙をむけてきていたのに今のお前はなんだ?」
「私はゴディバじゃない」
「はっ。私の目はごまかされない、姿も魔力もお前ではないか」
「私は奈美。ゴディバは前世の私」
「・・・前世」
男は眉根を寄せて奈美を見た。
「だから、あんたのことも知らない。この世界も知らない。知ってるのはあの暗森の生活の仕方だけ!」
奈美は言っていいるうちに、最後は叫んでいた。
そうだ!なんでこんな所につれてこられたんだ?!私が何かしたの?!前世の私と今の私は関係ないじゃないか!
理不尽だ!
一気に感情が高まり男に向かって拳を振り上げた。
「あの森に私を返せ!おばあちゃんがいるあの森に!」
男の胸に拳をぶつけるが、びくともせず、それでも奈美は叩き続けた。
叩く音とともに首から腕にかけて繋がっている鎖がジャラジャラと耳障りな音が牢の中を反響させていた。
「ラルクだ」
ぽつりとつぶやいた男の声が奈美の動きを止めさせた。
「ぇ?」
奈美は男の顔を見た。奈美の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
「ラルク・フロイアンス・カファレル」
「・・・・」
「俺の名だ」
「ラルク?」
「そうだ。今はグレイアス連合国の皇帝をしている」
「こうてい?今は?」
「前は軍人だった・・・ゴディバお前も軍人だった」
「軍人」
「俺はお前を殺した男だ」
「ころした?」
「・・・はぁ」
男、ラルクはため息をつくと前髪をかきあげた。
先ほどの緊張した雰囲気は消えていた。
そのせいか奈美の意識はそこで途切れた。
奈美がいる牢屋の図。説明がうまくできないので図にしてみました。
△が扉で+が牢屋の位置*が中心の柱周りが石壁です。
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