20)騙した犯人
「お前にナミはやらない!」
ラルクが魔獣に振り下ろした剣は、瞳が赤く染まったナミによってとめられた。
「アハッ」
「ナミ!」
ラルクは一歩引き、顔をゆがめて叫んだ。
奈美は歪んだ顔で微笑んでいた。
いやだ いやだ! やめて 殺さないで!
必死に抗おうとも、体は勝手にラルクに向かって剣を振り下ろしていく。
風圧がラルクに襲い掛かっていくが、ラルクは紙一重でかわした。
距離を開かれ、奈美はラルクに向かって飛び込むように剣を振り下ろした。
ラルクは避けずに肩に剣をのめり込ませて奈美を捕まえた。
ラルクは飛び込んできた奈美を抱きしめたのだ、そのまま奈美の口に魔力を込めた言葉を送り込んだ。
『光りあれ・・・穢れをなぎ払い 息吹をふきこまん』
肩にのめり込んだ剣は二人の間を汚しながら滑り落ちていった。
「ぁは・・ぁ・・・ぃ・・ゃぁぁぁぁぁあぁあ」
泣き叫び暴れる奈美をラルクは必死に押さえつけた。
「はっ!無駄だ!!気休めにしかならない!余計苦しめるだけさ!!」
魔獣は笑ったが、ラルクは微笑んだ。
『ナミ吐き出せ』
ラルクは奈美の腹部に魔力を押し当てると、黒い果実を吐き出させた。
ガハッ・・・ゲホゲホ
「なっ・・・」
「まさか保険を使うハメになるとはな、掛けといて正解だった。」
ラルクは奈美の口を拭った。
「ラ・・・ル・・・ク」
ナミ、そういってラルクは優しく抱きしめた。
奈美の目の前には赤く染まった肩があった。
私が また 傷つけた。
ごめんなさい、ごめんなさい
奈美は泣きながらラルクにしがみついた。
「完全に食べたんだぞ!、吐き出させたくらいで狂気を払えるはずがない!」
抱きしめたまま、ラルクは魔獣に向かって言った。
「この俺がお前の存在を知っていて、何もしないと思ったか?魔獣」
「なっ」
魔獣の周りの床にはいつの間にか術式が展開されていた。
「なんのために四六時中ナミを俺の側にいさせたと思う?。内にも外にも俺の魔力を満たしていたのさ、俺の魔力は珍しいものらしくてな闇と狂気を払う力があるんだよ、聖獣のお墨付きさ。」
「くそっ」
だからか、こいつの近くに近寄りづらかったのは!
どこまでも腹ただしいやつ!!
魔獣は顔をゆがめて、襲ってきた兵士を切り裂いた。
ラルクの周りを兵士が守りながら、肩に受けた傷をサイチェスが治療した。
「ラールクお前本当に邪魔だ」
「はっ、光栄だな」
奈美が腕の中に戻った途端ラルクの顔は冷静になっていた。
「さっきから気になってたんだが」
兵士達も奈美がラルクの元に戻った途端、魔獣に対して攻撃をはじめた。
魔獣は魔力を叩きつけながら防戦をおこなった。
「あぁ?!」
「お前の呼び方」
多勢に無勢、魔獣はどんどん会場の中央に追いやられていった。
ラルクは防御壁を張りながら、魔獣を追い詰めていった。
「俺のことを”ラールク”と発音するのは、ゴディバだけなんだよ」
「?!」
『お前が本物のゴディバだろ魔獣”ディルボ”』
そういって手を振りかざし魔力を放つと、床が剥げ落ち魔方陣が出現した
「なっ・・・・!」
何故俺の名を知っている?!
魔方陣の光りがやむと魔獣の姿形がゴディバになっていた。
魔獣は己の姿を見て愕然とした、灰色の髪の毛は真っ白に、薄茶色だった肌は色黒く変わっていた。
きっと瞳は赤くなっている。
「やはりな!俺の半身がゴディバであるはずが無いだろう!召還に干渉をしたのはお前だったのだな!ゴディバ、俺の花嫁を奪い身代わりにし俺に殺させようとした、そうだろ?」
にやりと笑ったラルクに魔獣ディルボは嵌められたことに気づいた。
「くそっ!」
やられた!
『元に戻れ!元に戻れ!元に戻れ!』
何度魔力を込めて言っても、変化した姿は元に戻らなかった。
「くそっ!くそっ!くそっ!」
なぜ元に戻らない!獣の姿にも戻れないだと!!
視界の隅に、おばあさんの姿を捉えた。
おばあさんは柱の影で杖を持ち、床に魔方陣を書いていた。
くそっ!あの魔術師のばあさんが書いた魔方陣か!
魔獣はおばあさんに向かって炎を放出させようとした、それに気づいたおばあさんは
「気づくのが遅かったな。無駄なあがきじゃよ」
そういうと、おばあさんは書いた魔法陣に杖を落とした。
カツン
という音と共に、魔獣と兵士の間を光りで隔てた。
それは一瞬の出来事。
光りが止むと、暗い森の中だった。
「転送魔法・・・」
呆然と魔獣が目の前の森を見ていると背後に気配がした。
いっぱく遅れでなんとか避けると、顔に痛みが走った。
「やっと二人っきりであえたな~」
そこには、ラルクが一人たっていた。
騙した犯人は騙されて犯人に