16)罠と罠
狼の魔獣は城の塔の天辺にたたずんでいた。
「なんで思い通りに事が運ばないかな~?前はあいつが殺さなければ良い所までもってけたのに、今回はうまくいかな過ぎる」
そう言って、狼の魔獣は一箇所の部屋に目線を移した。
「黒い果実も全然口にしなかったし。すぐ殺すと思ったのに殺さないで契約しちまうし。」
窓辺に人影が見えた、男女の乱れた姿に狼の魔獣は唸った。
狼の魔獣の目には二人の姿が良く見えていた。
女は目隠しをされ窓に押し当てられ、手首は縛られていた、男はそんな女の体に顔をうずめて弄んでいた。
「ちっ。あいつ完全に遊んでやがる。あれは俺の獲物なのに!!」
吐き出した言葉といっそう睨みをきかせると、女の首筋にうずめていた顔を上げて狼の魔獣と目線を合わせた。
「・・っ!!」
一瞬で狼の魔獣は目線を離しその場から逃げるように消えた。
俺と目があった?!まさか、人間の目でこちら側まで見えない筈だ!!
狼の魔獣は息を殺しながら、城下町に消えていった。
奈美はラルクの腕び中でまどろんでいた。
テラスに長椅子を置いて、その上でラルクは奈美を抱きしめたまま手には書類を持ち優雅に仕事をしていた。
テラスの下には庭園が広がり、貴族達が思い思いに散歩をしていた。
皆、テラスにいる二人をチラチラと伺いながら。
「何をお考えですか」
サイチェスは、空になっていたお茶を足しながら聞いた。
「・・・向こうも焦っているようだからな、焚きつけてやった」
「現れたのですか?」
「あぁ、お楽しみの最中の夜にな。目が合った瞬間に逃げられたが・・・」
そういうと、笑いながら奈美の髪の毛に顔をうずめた。
若い貴族の娘達の黄色い声が庭園に響いていた。
「はぁ、あまりご無理をさせないほうがよろしいのでは?」
何を思い出し笑いされているのやら。
サイチェスはため息をつきながら、カップを渡した。
「俺の魔力を纏っているおかげで、向こうはヘタに接触してこない」
ラルクは受け取り、口に含む。爽やかな香りが口の中に広がった
「だが、そろそろ動くだろうよ」
カップの底を眺めながら言った。
「では、お披露目は予定通りで?」
「あぁ、進められる。」
ラルクはカップをサイチェスに渡すと、書類を机の上に投げた。
あいた手のひらで、奈美の頬をなでると口付けをし起きろとささやいた。
奈美は意識が浮上するのを感じ目を開けた。
「おはようナミ」
「・・・ご機嫌ですね」
「あぁ」
奈美は軽く眉根を寄せて、ため息をついた。
昼間のラルクは奈美に対して優しく、甘やかし、どんな態度をとろうとも許していた、まるで愛されているかのような態度に奈美は戸惑いをみしていた。
ただ、夜になると昼間の優しさとはうって変わり必ず泣かされていた、あまりの酷い仕打ちに耐えられず何度となくラルクを刺そうと刃物を突きつけたかも忘れてしまった。
まるでジキルとハイドのような男だと奈美は思った。
最近は昼間あまり抵抗をしなければ、夜が酷くならないことに気づきラルクにあわせるようになっていた。
「あぁ、そうそうナミ、来週お前のお披露目パーティーを開く」
「お披露目?」
怪訝な顔をした奈美にラルクは笑いながら答えた。
「お前の存在は知られているが、公式の場では発表していないからな、そのためのパーティーだ」
うわー超メンドクサイと奈美は思った。
「お前は、俺の側でたっていれば良い」
「何もしゃべらなくていいの?」
「あぁ」
そういうと、深い口付けをされていた。
また庭園で黄色い声が聞こえた。