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15)思惑と

次の日の午後、奈美はおばあさんに会うことが出来た。

「おばあさん」

「奈美、元気にしてたかい?」

そういってやさしく抱擁してくれた。


「契約はなされたようだね」

その言葉に奈美の気持ちは陰る。

「なんか、ラルクの花嫁になったらしいよ」

「玉の輿だと思って、もっと気楽にしたらどうだ?あやつは今は皇帝じゃしな」

「皇帝より、村に住む平凡な男性がいいよ」

少し驚いた顔をしたおばあさんは、ケラケラと笑った。

「だったらあやつはぴッたしじゃないか?」

「?」

「やつはもともとは平民、村に住む小僧だったんだよ。魔力が強いおかげで貴族に養子にだされ軍人になり皇帝になった」

なりあがりじゃなっと笑いながら椅子に座った。

いやいや、あんな美形が村にいたら平凡と言わないし。

奈美はため息をついて、おばあさんの向かい側の椅子に座った。


「元気がないの~」

「超場違いな場所にいるせいで、居心地悪いだけ」

そういって、顎を手の上に乗せ窓の外を眺めた。侍女たちは無駄口も叩かずに回りの世話をしている、今も部屋の隅で待機してるのを忘れるほど静かに。

中庭を囲むように壁に装飾がほどこされた回路があり、日差しが差し込みキラキラとしているのに圧迫した感じをかもしだしていた。

「お前達は半身じゃ。・・・半身の意味をしっているか?」

「しらなーい。」

この城にいると、何もかもやる気がでず怠慢的な態度をとっていた。

「人は完璧ではない、力が強ければ強いほどバランスを取るために魂の半分、魔力の半分、精神の半分を違う者が持っている。人であったり、聖獣だったり魔獣だったり・・・自分の半分を持ち合わせている者を、半身と呼ぶ。半身と出会い一つになる契約をすれば魔力は安定する、同じ種族の場合はたいてい男女だ、そのため子宝にも恵まれる」

「運命の人って感じだね~・・・ん?」

「そうじゃな。だからお前はここから離れられないよ」

「・・・・ぇっ、私がラルクの半身?」

「そうじゃ、召還はあやつの半身を呼び出すために行われた」

「ぇ、でも私は」

「お前は契約をした、お前が死ねばラルクも死ぬ。どこに行こうとも半身同士居場所がすぐに分かる、覚えておきなさい」

「はっ」

思わず鼻で笑ってしまった。

拘束具がなくなったのは必要なくなったからだったのか、契約を行えばすぐに居場所がわかる。

ラルクという男はどんな気持ちで私と契約をしたのだろう。昔殺した男の生まれ変わりである私と。

ふと、意識を集中すればラルクがこちらに向かってきている気がした。


コンコンという音と共に、気配を消していた侍女たちが扉を開けた。

ラルクと従者達らしき人物が部屋に入ってきた。


「ばあさん、首尾はどうだ?」

「まぁまぁじゃな、なかなか手こずる相手じゃがこのまま進めても問題なかろう」

「そうか」

おばあさんとラルクが仕事の話をしている間、奈美はふと従者達らしき人物をみた。

一人は、こないだおばあさんと争っていた人、もう一人は背が奈美くらいだろうか若い男で茶色の髪で傲慢そうな顔をしていた、傲慢そうというのはさきほどから侮蔑的な目を向けていた為にそう思ったのだ。もう一人は同じような背格好だったが、こちらは不思議そうな顔で奈美を眺めている感じであった。

もう二人の男はラルクと同じくらいの身長で黒髪の男と銀色をした髪だった、軽く目を閉じて侍女達と同じく気配を感じさせない人達だった。


そんなことを観察してから、奈美はまた窓辺に視線を移した。

すると、向かい側の屋根から光るものを見たと思った瞬間目の前の窓ガラスがけたたましい音を立てて割れた。

それと同じく、右肩に熱を感じた。


「「奈美!」」


その場であわてたのは、ラルクとおばあさんだけだった。

他の者達は、驚いた顔をしたが奈美が目を向けたときには無表情に戻り駆けつけもせず傍観していた。


嫌な感じ。


大丈夫か?というラルクの問いに答えず椅子の背もたれに突き刺さっているものをみた。

「・・・弓矢か」

突き刺さった矢を左手で引き抜くと、奈美は肩から流れ出る血を気にもせずに立ち上がり割られてしまった窓の前にたった。


なんだかとてもむしゃくしゃする。

城の中は絢爛豪華でも淀んだ空気で息苦しい。


『持ち主の所に返れ』

奈美は持っていた矢を握り、先ほど見た光っていた場所に対して投げつけた。

矢は人が投げたとは思えない曲線を描き持ち主の所に飛んでいった。

しばらくすると、騒がしい音が聞こえ人々が叫んでいるのが聞こえた。


「凄いな。己の感情だけで魔力を操るなど。さすが・・・」

ゴディバの生まれ変わりという言葉を飲み込み、ラルクは奈美の後ろから抱きしめ傷口をなめた。

「いっ・・」

ぴりりとした痛みに奈美は腕から逃れようとするが、ラルクにしっかりと抱きしめられてしまい身動きできなくなってしまった。

その間も流れ出た血を丹念に拭い汚れを落としていった。

「は~若いの~」

おばあさんはため息をついて椅子に座り直し、新しいお茶を侍女から注いでもらっていた。

「っはなして!!何してんのよ!!」

奈美は顔を赤くしながら首に顔をうずめている相手に向かって叫んだ。

「消毒と治療だ。」

そういうとリップ音させて顔を上げた。

肩を見ると痛みと熱はまだ感じていたが、傷口はふさがり血も綺麗に消されていた。

ただ鬱血した後だけが残されていた。


「はっ!なぁ」

抗議をしようとした奈美の口はラルクによって塞がれた。

おばあさんの、まだ昼間じゃぞーという声を聞き奈美は羞恥心で一杯だった。

なんとか口を解放された時には息があがっていた。

恨みがましく睨みつけると、ラルクは奈美の耳元でささやいた。

「見てみろ、あいつらの顔を」

そういったラルクの視線の先は向かい側の建物にいる人達に向けられていた。

遠目からでも雰囲気でわかる。

皆、唖然とこちら側を凝視していたのだ。

「見せ付けなければ意味が無い」

そういうと、奈美を抱きかかえ部屋を出ようとした。

そして、扉をくぐる前に立ち止まって言った。


「サイチェス俺も舐められたものだな。」

「・・・相手が馬鹿なだけでしょう」

「俺の半身を傷つけた・・・」

ラルクは目線だけサイチェスに向けた。

「陛下の半身を傷つけるなど、謀反と同じです」

「ふっ・・・あとは頼んだぞ」

そういうとラルクは歩き始めた。奈美はラルクの腕の中でひやりとしていた。ラルクがまとう雰囲気が冷たく重たかったのだ。

はっという声とともに、サイチェスともう一人は駆け出していた。


部屋に残っていたおばあさんと、侍女たちは小さく息を吐いた。

ラルクの雰囲気に皆緊張していたのだ。

「馬鹿な奴もいたものだの~。お前さんたちも変なことを考えないほうが良いぞ」

おばあさんはやれやれと言って腰を上げた。

侍女たちは慌てて、おばあさんの椅子を引いた。

侍女たちは皆青ざめていた。

「あの・・」

一人がおばあさんに声をかけた。

「ん?」

「ナミ様が半身というのは本当でございますか?」

「今度陛下と事情のあとに体を見ればよい、契約の紋章が浮かびあがっとるじゃろう」

おばあさんはひょっひょっひょと笑いながら部屋を出て行った。

残ったのは顔を赤くした侍女たちだけだった。




奈美とラルクは執務室の仮眠室のベットの上にいた。

「あの・・・私自分の部屋に戻りたいですけど」

「俺は今休憩時間なんだ」

奈美はベットの壁に背をぴったりと付けたまま、ラルクの肩を命一杯押し戻していた。

「じゃー休んだらいいじゃないですか!」

「だから休みに来ているだろう?」

「おかしいですよね?」

「何が?」

答えたら最後、そのくらい解っているため奈美はその先は言わなかった。

楽しそうにラルクは笑みをこぼしていた。

奈美は眉間にしわを寄せながら別のことを言った。

「嫌じゃないんですか?私のことを花嫁にして!」

「理不尽だとは思ったな」

そういうとラルクは肩に当てられていた手を簡単に解いて、奈美の頭上に絡め取った。

「だが、今のお前は無力だろ?魔力の量は俺よりも低く、弱い。しかもお前を泣かせることも痛めつけることも出来る。」

奈美はこの男になぜ逆らわなかったのか解った、この男から発する魔力に圧倒され身動きが取れないのだ。

「今度は殺さないさ」

そういうと、奈美のドレスを手で引き裂いた。

恐怖で目がかすんだ。

「やっぱり泣き顔もいいな」

そういうと、目じりに口づけをした。

室内には布を引き裂く音と、乱暴な手から逃れようと暴れる音が響いていた。



◆◆


「陛下」

気だるげに仮眠室から出てきたラルクにサイチェスは眉根を寄せながら声を掛けた。

「なんだ?」

「防音魔法を掛けてから行ってください。」

ふと、サイチェスの後ろを見ると、顔を赤くした若い従者が二人たっていた。

「ぁあ、忘れていた」

ラルクは笑いながら執務室の椅子に座った。

サイチェスはため息をつきながら、持っていた書類をラルクに渡した。

「あなたがあのような・・・いえなんでもありません」

「賢明だな」

ラルクは笑うと執務に戻った。


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