12)戯れてー3
朝日が差し込む温室のなか、草木は朝露にぬれ宝石のようにキラキラと光り輝いていた。
そのなか、笑い声と動物の鳴き声が響いていた。
奈美と動物たちは白妖樹の周りを駈けずりまわったり、奈美につけられている鎖をつかって縄跳びをしたりと、朝から遊んでいた。
その姿を見る人がいた。
ラルクは窓から、その様子をじっと見つめていた。
「気はすんだかい?」
いつのまにか、ラルクの背後にいたおばあさんは温室の様子をみてからラルクの背に向かって声をかけた。
ラルクは無言で奈美の姿を追っていた。
奈美の姿は、シンプルな白いワンピースのせいか遠めからでも女だと分かる曲線を描いていた。
聖獣たちと戯れている姿をみて認めないわけにはいかなかった。
もう、疑いようがなく奈美はゴディバの生まれ変わりだと。そして穢れていない。
「・・・何を望んでいたのだろうな」
ラルクはしらずに呟いていた。
朝になれば、今の感情が分かると思っていた。
温室の中で冷たくなっている奈美の姿か、生きている姿をみれば満足していたのか。
一週間、奈美に会わないあいだ、結果石に反応をしない魔獣を捜索していたが、気配まで掴めたと思ったときには消えてしまう、その繰り返しだった、だが今だに城の中をうろついていることは分かっている。
今までの様子から、狙いは奈美なのだろう。
「・・・認めたらどうだい?自分で召還した娘だと」
「・・・」
ラルクはおばあさんの声でやっと奈美から目線を外して振り返った。
「おまえさんが、失敗したと思ってる花嫁として召還した娘だよ。奈美は」
「はっ、ゴディバの生まれ変わりの娘が召還した娘だと?召還は失敗している。一度捉えたが、腕から抜け落ち俺の前に現れなかったではないか!ばあさん、あんたが書いた術式でだ」
「そうだね、失敗したさね。誰かの干渉が入り魂が乱れた。だから、引き離したんだよ」
「・・・引き離しただと?」
「目の前に現れた娘が、ゴディバの魔力に満ちていたらお前は我を保って、殺さずにいられたかい?」
「・・・さぁな」
ラルクは、己の手を見つめた。自分が呼び寄せた花嫁がゴディバの魔力をまとっていたら・・・。
おばあさんの言葉を否定できない自分がいた。
「本来なら、奈美の魂に眠ったままゴディバの魔力は表にでてこないもの、だがあのとき誰かに干渉されたために魔力が一気にあふれでたのさ。だから魔力が安定するまで、前世で生まれ育った場所で・・・もともといるべきだった場所に戻したのさ」
「いるべき場所だと?」
「ゴディバは、もともと暗森で一生を過ごし、終わるはずだった。それを魔獣が邪魔をし穢れさせた。」
憎しげにおばあさんは言葉を吐き出した。
「魔獣か・・・」
ガラス越しに見える風景は、まるで天上の世界のように穏やかにキラキラと輝いているように映った。
だが、奈美には未だに鎖に繋がったまま。
それは、逃げ出さないように、連れ出されないように。
一生このまま誰の目にもとめずに温室というな鳥かごに閉じ込めているような気分になった。
そんなことをふと思い、ラルクは自嘲した。
「奈美は純粋すぎるのだな、あそこまで聖獣と戯れるものを始めて見た。」
ラルクの視線はまた、奈美を追っていた。
「魔獣に目をつけられているのもうなづける」
「純粋なものが穢れれば穢れるほど、魔獣にとってなによりのご馳走」
そのためにゴディバの人生は狂わされた。おばあさんは後半は言葉にはせず、飲み込んだ。
「・・・ゴディバも元は純粋だったのか?」
ふと、昔殺した男の歩んだ人生を何もしらないことに気づいた。ラルクが知っているのは、戦争がしたいがために自国を滅ぼしたところしか知らない。それが全てだと思っていた。
「聖人だった」
「・・・聖人」
聖人は聖獣と同じような存在。人の中に生まれるが、聖獣と同じような魔力をもち闇にとらわれない純粋なる人間。
そんな人間を穢せば、穢すほど魔獣にとってどんなに美味なご馳走になっているのだろう