10)戯れてー1
あれから一週間、魔獣にもあわず3食しっかり食べたおかげで体力も回復し、ラルクの執務室から出ることができた。
奈美は今、白いワンピースを着せられていた。首と手首にはスカーフが巻かれ、首輪と腕輪を隠していた。
鎖は一時的に外され、耳障りな鎖の音を聞かずにすんでいた。
今、奈美は一週間ぶりに顔を合わせたラルクと二人だけで城の廊下を歩いていた。
「ねぇ、どこにいくの?」
「・・・」
「・・・私をどうするの?」
「・・・」
ラルクは無言で歩いていた
無視かよ。このまま私がバックレテも大丈夫そう
「錠には、探知の魔法がかけてあるからどこにいこうともすぐにわかるぞ。」
・・・なんで思ってることが分かったんだ?
ちらりとラルクが奈美を見て言った。
「それなりの修羅場を踏んでいれば、雰囲気で分かる」
「あっそ」
奈美はため息をついて、しぶしぶラルクの後を着いて行った。
まるで迷路のような廊下を抜けると、廊下の突き当たりに大きな扉のある所にたどりついた。
ラルクはその重い扉を開き、奈美を中に入れた。
扉の中は、足元には芝生が広がり木々や花々が咲き乱れた空間だった、天上を見上げると鉄格子の間にガラスが嵌め込まれた天上が見えた。
「・・温室?」
奈美は、一歩ずつ進みながら回りを見渡した。
「あぁ、ここは白妖樹の枝木のための温室だ」
「はくようき?」
「中央に植わっている白い木だ」
中央に目を向けると、確かに他の木々より少し大きめの木が植わっていた、その木の幹は白く葉は他の木よりも薄い黄緑色をしていた。
奈美は、その木に向かって歩き出した。ラルクも何も言わず奈美の後ろを付いて行った。
白妖樹の幹は大人が三人腕を伸ばしたくらいの太い幹だった、根元にはいくつも穴のようなものが開いていたが、深いらしく暗い闇が続いていた。
「白妖樹の枝だ木は親の白妖樹と繋がっている、親の白妖樹がどこにあるか知っているか?」
奈美は首を横に振った。
「聖獣がすむ森にある。魔獣とは逆の性質をもつ獣だ。聖獣は穢れたものに敏感だ、お前がゴディバの生まれ変わりというのなら魂の浄化がすんでいるはずだ。なら聖獣にあえるはずだ」
「あえなかったら?」
「お前は穢れたままだということだ、生まれ変わりではなくゴディバ自身だということだ」
ラルクは無表情に奈美に冷たく言い放った。
奈美は睨みつけるようにラルクを見た。
つまり、私を試すってことかよ。だからおばあちゃんが今いないこのときに連れ出したのか。
おばあさんは一度暗森に戻っているために、三日ほど城を留守にしているのだ。
「何をもって穢れっていうかしらないけどさ、聖獣にはどうやってあうのさ」
「白妖樹から、そのうちでてくる」
「今この温室にはいないわけ?」
「あぁ、ばあさんが戻ってくるまえぐらいに迎えに来る」
思わずため息をついてしまった。
今まで、何もしてこなかったのはおばあさんのおかげだったのだ。
「食べ物とか」
「そこらへんになっている実でも食べていればいい、運がよければ聖獣から食い物がもらえるだろう」
そういって、奈美の首すじに手を這わせた、易しくさわられ奈美は思わず口をあけてラルクを見てしまった。その間にラルクは流れるような動作で首に巻かれていたスカーフを解き、どこからか出してきた長い鎖をつけていた。シャラシャラと音を奏でながら、白妖樹の枝に先端を巻きつけた。
長い鎖は奈美の足元にトグロをまいて広がっていた。
「そこの木の実がなっている木までは行ける距離だ」
そういって顎でさした先には、5,6Mほど先に薄いオレンジ色をした実がなっている木が存在した。
じゃぁなといってラルクは元来た道を戻っていった。
「ちょっと!」
奈美はあわてて、ラルクの後を追いかけたが鎖に引っ張られ、つんのめってしまった。
その間にラルクは扉までたどり着き、重い扉が閉まると、ガチャリという音が響いた。
「・・・閉じ込められた」
奈美はそのまま倒れるかのように芝生の上に寝転んだ。
まだ肉体は男のままだった。
「姿形は、もうゴディバとは違っているみたいなのに、なんでまだ疑うかな」
温室のはずなのに、木々がさえずり易しい風が吹き込んだ
「落ち着く」
まるで時が止まったようだった。
ガラスの向こう側に見える青空と白い雲はただただ、ゆっくりと流れていた。
奈美はただ目を瞑って、木々のさえずりに耳を澄ましていた。
次第に、鳥の鳴き声や小動物の鳴き声が聞こえてきた。
その様子を伺う人がいた、それは温室の中からは見えない扉側の壁。
石造りの壁のように見えるが、実は温室からは気づかれないよう城の中から温室が見える大きな窓が存在していた。
その窓辺に、ラルクとサイチェスが立って中の様子を伺っていた。
「どう思う?サイチェス」
「まるで、何も知らない子供ですね。聖獣と聞けば魔の次に恐れをなす獣ですよ」
聖獣は魔を嫌う、少しでも魔の穢れをもっていれば、そのものに襲い掛かり命を奪うのだ。
「・・・知らないのかもしれないな。本当に」
「陛下?」
いつの間にか温室には小鳥達が飛んでいた。