工場
Y社。アメリカ、デトロイトに本社を置く大企業である。ここでは食品から機械の部品まで様々な物を取り扱っている。その工場はとてつもなく劣悪な環境であった。労働者を洗脳しお互いを監視させているのである。誰もこの工場からは出ることができない。警備の目も厳しく、過去一人として脱出を図ったものはいない。もとより、洗脳されているのでそんな気を起こすこともない。
この企業の劣悪な労働環境を社会は知らない。誰もそんなことを知るよしもない。この工場は海に面している上、高い塀で囲まれ周りからは見えない。この話はそんな工場で働く一人の男の人生を懸けた物語である。
男の名はX。工場ではそう呼ばれている。自分の本当の名はもう忘れてしまった。毎日のように罵倒を浴びせられ、周りの人物達は洗脳されているので仲間とは言えない。全員ロボットのように働く。感情を持っていないかのようだ。ここで働くのは男性だけではない。女性や子どもまでもが働いている。
工場の朝は早い。7時には起床し、朝食を摂る。朝食と言っても毎日同じ料理だ。少しの野菜に薄切りパン一枚。そこから13時まで作業。13時30分までに昼食を済ませる。昼食は薄切りパン1枚に少しの肉が出る。肉と言ってもハムのようなものだ。そしてそこから20時まで作業。21時までに夕食を済ませる。夕食は薄切りパン2枚にスープが出る。そして21時から23時まで懲罰の時間である。ここで作業にミスがあったもの、1日を通して問題行動をした者は罰が与えられる。罰の内容は様々だ。食事抜きになることもあれば警備員達の鬱憤晴らしに暴力を受けることもある。そしてこの罰でも反省が見られない場合は懲罰房送りとなる。懲罰房送りになった者は再教育プログラムが実施され自我を取り戻すことはまずない。
幸いXはまだ一度も罰も受けたことがないし、懲罰房にも行ったことはない。Xは賢かった。この場でどういう立ち振る舞いをすれば良いのか全てを理解していた。
そのはずだった。
ある日小さな女の子がやってきた。他にも子どもはいるし、特段変わったことではなかった。だがこの子は違った。Xにずっとべったりなのだ。どこへ行くにもXのズボンを掴み、ついてくる。Xは守りたいものができた。この子だけは守りたいそう思っていた。
しかし、この子のしている行動はこの工場では問題行動である。男女や年齢関係なく懲罰は待っている。この子にも罰が与えられることになった。男は今までに感じたことのない怒りと悲しみを覚えた。感情はすでに捨てたつもりであったが、まだ心の片隅には人の心が残っていた。ここにいる皆そうである。何も思わないわけではない。しかし、今の現状を変える事などはできない。ならば感情を忘れただただ保身のために働くそれでいいのだった。
次の日から女の子はついてこなくなった。
見かけることもなくなった。
また何も変わらない1日が始まった。次の日もその次の日も。Xの心にはあの女の子のことがひどく頭に残っている。毎日変わらない日を過ごしているからこそ特に頭に残った。
毎日Xは女の子を探している。しかし見つからない。毎日同じ通路を通り同じ場所でしか作業をしないXには探すと言っても限界があった。この工場は広い。見つからないのは当たり前だと言える。勝手に探し回れば懲罰房行きは間違いない。Xの心の中の天秤は懲罰房に傾いていた。しかしこの女の子に出会ってから徐々に懲罰房から逆へと傾いてきていたのだった。




