タイトル未定2025/12/27 13:20
段ボールの底で、銀の蓋が鈍く光った。紗依は手袋のまま拾い上げる。オルゴール。兄の部屋に似合わないくらい小さい。
「捨てる?」と母が言った。
「……動くなら、動かしてから」
ゼンマイを巻く。ちい、と弱い抵抗。蓋を開けると、鈴の音が一段だけ鳴って、そこに声が混じった。
「ごめん」
紗依は息を止めた。録音みたいに整った声――でも、兄はこんなに素直に言えなかった。
「今の、兄ちゃん?」
「さあ。そんな機能、聞いたことないけどね」
もう一度巻く。鈴。今度の「ごめん」は、笑っているみたいに軽い。
「ふざけてる」
「生きてた頃も、そんな言い方だったね」
紗依は蓋を閉じかけて止めた。
「……だった、じゃなくてさ。いま、謝ってるみたいじゃん」
母は段ボールの口を折り返しながら言う。
「遅い子だったから。謝るのも、いつも」
紗依は笑えない。
「遅いんだよ」
三回目。鈴が短く鳴り、声が途中で掠れた。
「ご……め、ん」
喉の奥で詰まる音。紗依は拳を握った。怒りが出る前に、手が震える。
「やめて。そんな言い方、聞いたら——」
四回目。鈴が鳴りかけて、ぷつりと切れた。代わりに、違う音が入る。息を吸う音。ためらう音。
「……紗依。ねえ」
自分の声だった。紗依はオルゴールを落としそうになる。
「な、にこれ」
母が青ざめる。「紗依、あなた、今——」
紗依は蓋を閉めることもできず、ただ聞いた。
「ねえ——謝る順番、まだ間に合う?」




