第一章第二話 これこそが龍神
監獄のように重く暗かった独房からようやく解放された俺は、解放された自由を噛み締めながら、大きく背伸びをした。
新鮮な空気が、肺の中に入り頭がスッキリしてくると、先ほどまでのことに怒りが湧いてきた。
「なんで、俺が冤罪で捕まんなきゃならないんだよ!俺は、地球を救ってきたばっかりだっていうのに、、あいつらに恩義とか任侠とかないんか?」
俺が愚痴を吐いている横で、カトレアは眠そうにあくびをしながら面白いものを見ているような目で見つめている。
時短打を踏んでいる弟子を見るのがよほど楽しいようだ。性格悪いな。
「まあまあ、落ち着きたまえよ、カ ス ト ラ君?君が怒るのは、まあもっともなのだがね?人間と関わる上でこういうトラブルは必ず起きてしまうものなのだよ。」
「いいですよね、、師匠は。人間にも尊敬されてるから、疑われることがなくて」
そう、この師匠こと第四代目 《龍神》カトレアは、数多の神々が、蔓延る中でもう何億年もその地位を守り続け、神々の中でも別格の存在とされているのみならず、人間社会でも最強として、畏敬の念を抱かれているのだ。
かくいう俺は、第七十六代目 《龍王》として、彼女を支えているわけだが、襲名してから五十年、生まれたのがたかが三千年前のため、人間達からも「誰だ?お前」と言われてしまうことが多いのである。
「そうだねぇ〜神と言ってもガワ自体は普通の人間とほとんど変わらないって何度説明しても人間達は理解してくれないからね、、、」
俺たち、『神』は一般的に思われているような全知全能だったり、世界を作り変えるような大層な能力はなく(ほんの一部の数柱を除いて)、特に神の集う場所、それこそ天界のようなものもなく、普通に人間と同じように暮らしているのだ。
風邪だって引くし、怪我したら痛いもんは痛いし、すぐには治らない。
ただ、俺たち神にはただ一つだけ普通の人間とは違うところがある。
それは、
「『魔力』と『魔法』が使えるところだよねっ!」
急にカトレアが耳元で囁いてきて俺は、ビクッと体が震えて後ろに飛び退いた。
どうして、俺の心が読めているんだ、、、、?
俺が首を傾げていると
「おやぁ〜?なんで心が読めているのって顔してるね。愛だよ」
さて、頭のおかしいのは置いといて説明を続けようか。
「待って待って!無視しないで!脅かしたことは謝るから!」
涙目で抱きついてくるカトレアを華麗に避けて、無視しつつ話を続けようか。
カトレアが言った通り、俺たち神には、『魔法』という個人特有の能力とそれを操るために必要な『魔力』を持っている。
この『魔法』というのもさまざまで、例えば物や人を動かすことのできる 《念力》や物を生み出すことのできる 《創造》、そして、、、、
「第四代目 《龍神》の名において、この世界の全てを、堰き止める、きませいきませい、全ては妾の元へ、妾は神の子、妾は神の母、今全てを停止せよ!
《クロノス》!!!!! 」
どこからか、詠唱が聞こえてきたとともに体の動きが自分の意に反して強制的し止まる。今まで飛んでいた鳥も羽を動かさずに静止し、宙を浮いている。
風も凪ぎ、世界が止まっている。
その中で、颯爽と動く銀色の閃光。その閃光は、俺の周りを回り続け、俺の前でぴたりと止まる。そこでようやく視界に入ってきたため、正体がはっきりする。
そこには、 《魔法》を発動させ、今までとは打って変わって和服のような格好をしているカトレアが居た。
カトレアが俺に触れると、俺はこの止まった世界の中でも動けるようになった。
「妾がいるのに、ぼーっとしすぎじゃない?もっとかまってよ!なんなら結婚しろ!」
「そんなことのために、魔法使ったのか、、、俺だって忙しいんだから静かにしといてくださいよ」
俺は、くだらない理由で魔法を発動させたカトレアに呆れながら周りを見渡す
(それにしても、何度見てもチート級の魔法だな)
第四代目 《龍神》つまり、カトレアが発動させた彼女の『魔法』は 《クロノス》。全ての物の時間を止め、全ての時間を管理する効果がある。
これを、少しの詠唱と目立たないほどのデメリットで発動させられるんだから化け物だ。
間違いなく最強の能力。これこそが、カトレアを 《龍神》たらしめている力である。
「そろそろ、周りの迷惑になるから時間動かして」
「はーい」
元気のいい返事とともに再び鳥は何事もなかったように羽を動かし飛び始め、風は吹き始めた。
時が動き始めた。