去りゆく、小さき背中
夕陽が沈みかけ、空は赤く燃えていた。
長く伸びた影が地面を横切り、町は静かに一日の終わりを迎えようとしている。
馬車――いや、車の列が砂埃を巻き上げながらゆっくりと近づいてくる。
その様子を見届けるように、建物の前に立つ女がいた。彼女は腰に手を当て、鋭い目を光らせながら静かに口を開く。
「順番に行きな!」
その声に、誰からともなく頷き、ひとり、またひとりと歩み出す。背を向け、迎えに来た者のもとへと進む姿は、まるで長い旅路に出るアウトローのようだった。
女は腕を組み、柵にもたれながら目を細める。
その視線は最後に残された一人に向けられている。
「お迎えが来たようだな……」
乾いた風が吹き抜ける。彼女は微かに笑みを浮かべながら、最後の一人に声をかけた。
「……ああ、そろそろ、お別れの時間だ」
そう言い残し、最後のひとりがゆっくりと歩み出した。
そのとき、車のドアが開き、中から降りてきたママが首をかしげながら言った。
「まだ流行ってるの? 西部劇ごっこ」
カウボーイ――いや、子供は気まずそうに手作りのウエスタンハットを取り、ママの手を握る。
「いつまで続くんでしょうね?」
ママが苦笑しながらつぶやくと、柵にもたれていた女は肩をすくめ、穏やかな声で答えた。
「さあ……でも、町を守る者がいる限り、平和は続くもんですよ」
ママは思わず吹き出し、「もう、お世話になりました」と軽く頭を下げる。
女はただ、夕陽を背に小さく頷いた。
こうして今日も、一日の終わりが訪れる。
それは西部の掟――いや、幼稚園のお迎えだった。
――了――