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004

第四話よろしくお願いします。

”貴”族さま

あなたはなにをするおかた?

わたしは貴族、とってもえらい。

お城にすんで、みんなをまもる!


”啓”徒さま

あなたはなにをするおかた?

わたしは啓徒、貴族さまのおてつだいをしています。

みんながよんでるこのほんも、じつはわたしがつくってますよ。


”探”士さま

あなたはなにをするおかた?

わたしは探士、貴族さまにおつかえしています。

みんながたべてるおにくもやさいも、わたしがいっしょうけんめいとっています。


”従”者さま

あなたはなにをするおかた?

わたしは従者、みなさまにしたがうものでございます。

しょうばい、しょうがい、おてつだい!なんでもやります、おまかせください。


『あなたはなにをするおかた?』著・マザーエンフォリア 


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


鉄柵の門扉を両開きにした先、目に入るのは教会を横に三つ並べたような形と大きさをした建物だ。

その中央棟から真っ直ぐに伸びる白い石畳は、脇道からまた大通りに戻ったかのよう。

両脇の前庭は緑の芝生で覆われ、見た目だけで言えば城下の周遊道に並ぶ各省庁の建物と変わらない。


そんな中を出来るだけ目線を遊ばせないよう背筋を伸ばして歩き、建物入り口の木扉の前に立った案内人然とした男に声を掛ける。


「第三職業訓練学校卒業見込み学籍番号一一一〇五七四。ロウと申します。九時からご案内頂きました採用面接に参りました」


同時に金糸で装飾された白布の巻物を背負い鞄から取り出してその案内人に差し出す。

白の襟付きに全身黒の装い。”燕尾”と呼ばれるそれに身を包んだ初老の男は、筒状に巻かれた白布を開いて検めると一つ頷いて礼をした。


「ロウ様、お待ちしておりました。こちらの案内状は面接の際に担当者にお渡しください―――それでは面接室へとご案内いたします」


会社(クラン)『金獅子』は三年前に貴族成りを果たした『黄金龍』から分社化した会社の一つで、探士街の最も城下に近しい立地で鎬を削る大手企業だ。


下働きの使用人にさえ貴族の従者と同じ装いをさせているところなんかは成り上がり志向を伺わせるし、建物の内装は”成貴趣味”全開。

半年ほど前に同規模の会社の就業体験に行ってなかったら圧倒されていただろうと思う。


こういう感じの人が代表かぁ……そう思わせるくらいに顕示欲に溢れた屋内だった。


赤絨毯の布かれた階段を上がり、踊り場では給仕服の綺麗な女の人に頭を下げられ、広い廊下を圧迫する燭台やら飾り鎧を横目に歩き、目的の部屋の前で裾を翻した初老の案内人に軽く頭を下げる。


それを諾と受け取った案内人が重そうな扉を叩く。


コンコンコン―――


「ザインツ様、お一人目の面談者をお連れしました」


「入れ」


中からの返答に合わせてその扉を開いた初老の案内人に、再び軽く目礼をして室内へ足を踏み入れる。


「失礼いたします」


正面には部屋の一辺を床から天井まで埋め尽くす大きな書棚。

手前に並んだ椅子と長机は学校の図書室を思い出させる。


人の気配に左手に目をやると膝高くらいの大机と向かい合わせ並ぶ三人掛けの革張り椅子が二組。

手前側は空席に、奥の席にはその中央に金色の短髪を逆立てた男が大股開きで座っている。


「こちらへ」


その男の斜め後ろに立つ女性に促され、着座を進められ対面するように立つ。


「本日は面接のお時間頂きありがとうございます、第三職業訓練学校から参りましたロウと申します。お席失礼いたします」


ゴーンゴーンゴーン―――


三人掛けの中央に腰を下したところで鐘の音が鳴り響いた。


「おっ、時間ちょうどか。いいぞお前、遅れるのは論外だが、早すぎてもいけねぇ」

「『時は金なり』これザインツ様のお気に入りの言葉ね。覚えとくといーよ♪」


ザインツの後ろから突然に少女が顔を出す。


「っ……恐れ入ります」

「えぇ……反応うっす……ルル的には減点かな……」

「私は加点いたします」

「…………んもぅ♪副代表ったらイケず♪」

「はっ、収支ゼロからスタートだな。リザ、始めろ」

「承知しました。では案内状を回収させて頂きます―――」


リザと呼ばれた女性に案内状と合わせて内申書を提出する。

金髪に、小麦色の肌に、赤褐色の瞳、と高圧的な雰囲気まで代表のザインツに似ている気がする。


もしかして兄妹?なんて考えている内に定位置に戻っていったリザが、内申書の内容を読み上げながら時折、こちらに質問を投げかけてくる。


淡々と読み上げられる成績や予め用意されていたであろう質問に無難に返すも、目を瞑って腕を組み聞いているのかいないのかも分からない態度の代表と、長椅子の背に小さな顎と銀色の髪を乗せて蒼と碧の色違いの瞳をこちらに向けてくるルルと自称した少女の様子に戸惑う。


これが噂の圧迫面接ってやつ……?


頭の中で軽口を溢すことで緊張を和らげつつ想定問答を思い出しながら応じる。


弊社を志望する理由。


入社後に発揮できる能力。


5年後10年後15年後の将来像。


相槌の一つもよこさない正面の男と、じっとこちらを見つめてくる色違いの両目を意識しないようにして、簡潔に応じていく。


暫くすると用意されていた質問を終えたのだろう、面接を主導していたリザが手にした内申書を目の前の男の前へと伸ばし、眼前へと差し出されたそれを彼は面倒そうに受け取った。


「ふーん、第三の主席ね。今年は本校も第二もハズレだったからよ。頼むぜ」

「…………はい、ご期待―――」


ここからが本番か?と思いながら、不意に彼の口から零れた言葉なのかボヤキなのかに対して、どう返答したものか迷っていると、唐突にその後ろにいた少女が吹き出した。


「ぶふっ……ザインツ様、ある意味アタリかも?」

「あん?」

「に?」


そのままザインツの耳元まで顔を近づけて何事かを囁く。


「ぶわぁっはっはっはっは!ありえねぇだろ!”従士”!?」

「え……?」

「ね?ある意味大当たりでしょ♪」


なんで?


突然の出来事に頭が回らない。

大笑いするザインツの後ろには目頭を押さえて溜息をつくリザ。

そして面白い玩具を見つけたような目線をこちらに向けるルル。


「どんな嫌われ方したら天職が”従士”になるんだよ……くくくっ」


いや、どうしたらいきなり天職”従士”なんて言葉が出てくるんだよ?


なんて言えないまま一頻り笑い終えたザインツが口を開くのをただ見つめた。


「うし、少なくとも他の主席くんよりは笑えたわ。もう帰っていいぞ」

「えっと……」

「今年ウチは”専門”しか採らねぇんだ。お疲れさん」

「おつかれ~♪」


それまで交わされていた問答と緊迫した空気がまるで冗談であったかのように軽い一言で面接は終わりを告げる。


「ロウさん、本日はありがとうございました。今後の貴方のご健勝とご活躍を心よりお祈り申し上げます」


そして手短な祈りの言葉と、簡潔な不採用という結果を口頭で告げられ、僕の初めての採用面接は幕を閉じた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


石畳の歪みを靴裏に感じながら側路を戻って北門大通りをさらに北へ。

今日二件目の面接先へ向かいながらも僕の頭の中は『金獅子』での出来事でいっぱいだった。


それは不採用を告げられた落胆よりも断然大きくて、人通りの増えた大通りの喧騒も、まったく気にならなかった。


いつ?―――わからない。

何故?―――わからない。

誰が?―――決まってる、あのルルとかいうヤツだ。

でも、どうやって?―――それが、わからない。


見た目でいえば同年代。

特徴的な肩口で切りそろえられた銀髪と左右で異なる瞳の色。

あの耳打ちと好奇の目。


犯人は分かっているのにその手口がわからない。

いつだったか学校の図書室で読んだ小説のような出来事。

あの時は何だったか……良くわからないこじ付けから犯人が勝手に独白を始めて物語が終わった。

以来、図書館に寄贈された貴族が書いたという本は読まなくなったっけ。


思考が逸れた……。


まぁ考えるまでもなく職能なんだろう。

けど”叙階師”ではありえない。


”叙階師”はこの街の制度上、職務省の職員以外には成り得ない。

仮に例外があるとすれば、貴族子飼いの使用人になるくらいだろう。

就職/転職を司る唯一の職能という権力構造の根幹を成す存在、その離反など許される筈もない。


似たような職能が使える専門職、か。

そういえば専門職しか採用しないとか言ってたっけ。


「……っと」


不意に上げた視線の先に『北二区』の看板が映る。

無造作に建て替わっていくこの街の側道や建物にその区分けがどれほどの意味を成すのか、少なくとも探索者達の功名心に火をつける役割は果たしていそうではある。


二件目の面接先は『北の鷙鳥』という、ここ数年内に急拡大した会社(クラン)で、ちょうど一年前の今頃にこの北二区の端に拠点を移した企業だ。


その代表は背は高いが線が細く、淡い空色の長髪と切れ長の目も相まって、一目で冷たい印象を受ける男性だ。だがその見た目とは裏腹に会社(クラン)には多くの若者を抱え、従民に対する態度も柔らかく、それでいて貴族の覚えも良い、と正に上り調子の会社(クラン)の代表だった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「やぁ、ロウ君。待っていたよ」


「お久しぶりですレキウスさん。採用面接のご案内ありがとうございます。またお出迎え頂き恐縮です。本日はよろしくお願いいたします」


「相変わらずだねぇ。さ、入ってくれ」


『金獅子』でのそれとは、のっけから異なる雰囲気は彼が第三職業訓練学校の卒業生であることに起因する。

社会見学、就業体験、特別授業と折に付けて学校の教育行事に協力的で、学内でも彼の会社(クラン)に入りたいと希望する者は多い。


建物や敷地の広さなど先ほどとは比べるべくも無いが、簡素で朴訥な内装は孤児院(じっか)を彷彿とさせ、採用面接というよりも友人の家に遊びに来たような気分になる。


『金獅子』でのことが逆に、というか……なんか何も考えずここまで入って来ちゃったけど。


毎年恒例となっている職業訓練学校の新卒採用は会社、労務省、職務省、学校とが連携して調整する。


細かい仕組みや制度や制限は分からないけれど、有難いことに大手や中堅の会社(クラン)から十社以上の内定や採用面接の優先を貰えた僕は、生意気にも条件を選別し『北の鷙鳥』はレキウスさんの人柄と、これまでのご縁という理由だけで採用面接の受諾をして、成績優待による内定を出してくれている企業からの誘いは固辞していた。


『面接もせずに内定を出すなんて、よほどの人材不足か手抜きか』

なんて傲慢な当て推量をしていなければ、もっと気楽でいられたのに……。

などという情けない後悔は昨日散々し終えた。


木造の床をコツコツと鳴らしてレキウスさんの後をついて階段に足をかける。


いや、天職を理由に内定取り消しとかって怯えてたか……。


つづら折りの段差を上がり、採光窓から射す陽射しを背中に感じながら二階に上がりきったところで甲高い声に呼びかけられた。


「あぁ!ロウ君!いらっしゃい!!」

「フィアさん。お邪魔しています」


軽い会釈で終えるつもりが、妙に明るい笑顔と共に右肩と腕を掴まれる。

同じ高さにある若葉色の瞳は少し潤んでいて、淡い栗色の髪の毛からは甘い匂いがする。

キーラとは比べ物にならないくらい『女性』を意識させる彼女は一学年上で、半年ほど前にココで開催された講習会で知り合った。


「ロウ君がウチに入ってくれたら嬉しいなぁ♪」

「えっと、はい。がんばります」


なので、出会うのは今日で二度目。

面識なんてそれこそお互いに名前と顔を知っている程度。

な筈なんだけど、この距離感は何?

やたら顔も赤いし……。


「うん!それにね―――」

「フィア。控えなさい」

「っ!失礼しました。……ご主人様」


やたらと近しく接してきたフィアさんだったけれど、レキウスさんの声にビクリと気を取り戻すと素早く彼に傅いた。

その変わり身の早さに、僕は苦笑いをレキウスさんは短い嘆息を溢した。


「……お茶の用意をしておきなさい。面接終わりにカナリアに運ばせます」

「承知しました。―――失礼いたします」


言って身を翻した彼女を見送った。


「すまないね。元気の良さが取り柄な反面、時と場所を弁える分別が足りない」

「いえ……。いえ、お陰様で緊張が解れました」

「ははっ、元から緊張などしてもいないのによく言う」

「……すみません」

「おっと、今日こんな軽口を叩くのは違ったね。失礼、僕もまだまだ分別がたりない」


違った角度から図星を指されて声を落とした僕に、レキウスさんはそう言葉を重ねて面接室へと先導した。


――― ――― ――― 


面接室は二階の角部屋で、普段は図書資料室として使用されている部屋だった。

その点だけは『金獅子』と同じだ。

しかし建物全体の大きさに比して、この部屋の大きさや書棚の高さや蔵書の数は遜色が無い。


会社(クラン)の内装は代表の内面を映す』そんな思い付きの慣用句が浮かんでくる光景だった。


「さ、そちらに掛けてくれ。―――っと彼女は初めてだったね。こちら弊社の副代表を務めているカナリアだ。カナリアご挨拶を」


部屋の四面を書棚に囲われ窓一つない部屋の中央に用意された大机と一脚ずつ用意された椅子。

その手前に立つ女性に手を向けながらレキウスさんが言った。

若干光量の足りていない吊り燭台の下、薄明りに輝く銀色の髪を束ね、顔の下半分を艶やかな黒い布で覆った女性が、鋭く光った金色の瞳で目礼する。


「はじめまして。ご紹介に与りましたカナリアです。早速ですが案内状と内申書をお預かりしても?」


「あっと―――はじめまして。ロウと申します。こちらよろしくお願いいたします」


思いの外低い声音と、これまで見たことの無かった朽葉色の肌に、しばし意識を奪われた僕は、彼女の瞳がその鋭さを増すのを見て慌てて挨拶を返し2通の書状を鞄から取り出し渡した。


身に纏った白いローブから伸びた指先がさっとそれを受け取る。


しまった……物珍しさ全開で初対面の相手を見るなんて、面接以前の問題だろ……。


思いながら鞄を背負い直す。

受け取った書類にしか興味が無いかのように、それぞれにさっと目を通し検めながら部屋の奥側へと踵を返す彼女を、レキウスさんは短い嘆息で見送り、呆れ顔をこちらに向けた。


「すまないね。真面目なのが取り柄なんだけれど……彼女もまた分別、かな?同じ会社(クラン)に属するものとしてはこの共通点に嬉しさ半分、情けなさ半分だよ。もっと精進しないといけないね」

「…………恐れながら少々お時間が押しております。はじめましょう」


表情も変えず、代表の言葉を無視して続けた彼女に肩をすくめる身振りを送るレキウスさん。

僕は苦笑を返す他なかった。


――― ――― ―――


――― ―――


―――


「はい。御社からの採用面接を受託させて頂きました理由は、大きく分けて三つになります」


開始前の一幕とは裏腹に面接は滞りなく進んだ。


「第一に年若い人材を多く抱える成長著しい会社(クラン)であること、第二に御社のご活動によりその労働環境と入社後の働き方を具体的に想像できたこと、そして第三にこれまでのご縁から私が御社で貢献できる役割を見出せたことにあります」


「なるほど、それぞれ詳細を伺えますか」


「はい。まず第一に挙げた理由につきまして―――」


個人の資質や実力を学業成績から推し量り、面接でその人間性を見極めて採用の判断をする。

それが社会一般の採用手順だろう。

対して『北の鷙鳥』では学業成績よりも面接での比重が大きく、多少人格に難が見受けられても会社(クラン)で教育を施して育て上げるという懐の深さがある、とはかつて会社(クラン)の代表が特別授業にかこつけて、行っていた自社の宣伝からの引用だ。


「先ほどこちらの部屋にご案内されるまでに偶然お会いしたフィアさんにも温かい言葉をかけて頂き―――」


とは言えそれは誇大ということではなく、実態として『北の鷙鳥』は会社(クラン)というより教会、孤児院に近い運営方針のようだった。

しかしながら社会福祉を目指す人情経営一辺倒という訳でもなく、年々規模を拡大させ異界素材の納税量を増加させながらも、勢いはあるが未熟な若者達を指導し統制を執る組織の長としての資質と経営手腕は素直に尊敬出来るものだ。


「ありがとうございます。では代表、何かあればお願いします」

「うん、ご苦労様。ロウ君もありがとう。そこまで持ち上げられるとこそばゆいね」


給与や拠点の設備などは大手に劣るものの、正直、ここに入社出来れば御の字だと思っている。

問題があるとすれば―――


「さて、君の天職についてだけれども―――」


来た。

どう答えたものか……と言っても、正直に言う他ないんだけど……。


多くの探索者は自身の天職について、所属する会社(クラン)以外には明かさない。

一部は自慢気に標榜する者もいるが、そのほとんどが白い目で見られる。


同業他社に対して内部情報を与えるようなもので、その行為が引き抜きや信用を貶めるためのなりすまし行為に繋がる危険性を考えれば当然のことだろう。

口にせずともその装備や言動をみれば察することは出来るし、主に収めている納税物からの推量も可能だ。


例外的に天職が喧伝されるのは専門職を授かっている者くらいだ。

それにしたって、他の一般職に就くことが出来ないという欠点が付いて回るためそれを口にしないものも多い。


会社(クラン)側の目線に立てば、自社の特異な人材を引き抜かれる危険性と得られる名声、それに加えて承認欲求や虚栄心など社員それぞれの性格や価値観、多くの要素を天秤にかける判断を迫られる。


そういった事情を利用する形で自身の天職を誤魔化して入社し、後々トラブルを引き起こすという事例があることは職業訓練学校の授業でも語られている。

それでもなお、毎年のように同様の問題が発生してしまうのはもうしょうがないのだろう。


だって人間だもの。

とは言え、個人的にはそんな誤魔化しをする気にはなれない。

だからこそ天職が”従士”であることに酷く落ち込んだのだけれど……。


「実はね、君が前代未聞の天職”従士”を授かったという情報は既に漏洩(リーク)しているんだ」


そんな内省をしている最中、言われた一言に背筋が凍った。


「え……?」


面接中にあるまじき、間の抜けた声しか出てこない。


「あぁ、君だけじゃないよ。本校主席のルイス君は”武士”彼は両親と同じ”騎士”になれなかったと酷く落ち込んでいるようだね。それから第二のヘイズさんは”呪言師”。今年の各校の主席は皆、自身の天職に納得がいかないようで気落ちしたり憤慨したり様々だよ」


「…………なるほど。そうなんですね」


ようやく絞り出した返答に『北の鷙鳥』の代表は嬉しそうな笑顔をみせた。


「そうそう、面接中だからね。何を言われても黙ったりしちゃダメだよ」


こういう人を試すような態度がなければ素直に尊敬できる人なんだけど……。


「それで、弊社で君が出せる価値ってなんだっけ?カナリア議事取ってある?」


こういうとこも。


「最も大きい点としては、状況判断の冷静さと小集団での指揮の能力。これにはかつての課外授業時に代表からも評価された点、と仰っていますね」

「うんうん、いいね。ここまでの面接の様子からも伺える素晴らしい長所だ」


ニコニコとした顔で何度か頷くと、手を組み口元を隠すようにして続けた。


「それで?天職が”従士”であることを踏まえての君自身の評価はどう?」


この問いかけへの返答が採用の分水嶺であることを悟る。

僕は一呼吸おいて言葉を組み立てた。


「……集団の指揮という点に於いては問題ないと考えています。が、社内での力関係……人間関係を構築する上では大きな足枷になり得るとも考えています」


「そうだね。ウチでは入社して半年はとりあえず皆”従士”ではじめてもらう制度で運用しているから。そこでキッチリ締めないといけないね」


「……はい」


僕の返答に対して頷きながら、ただその姿勢は崩さずに社則と物騒な言葉を投げ返してくる。


首肯するだけで良いのか。

何か気の利いた返しは?

レキウスさんが求める言葉は?

会社(クラン)の代表が求める言葉は?


グルグルと頭の中で考えを巡らせている最中、不意に対面した男が椅子にその背を預けた。


「―――ということで、ロウ君。弊社から君には再度の面接を申し入れるよ。次は”従士”に就職した状態で実技試験といこうじゃないか」


峠は越えたみたいだ。


「―――はい。過分なご提案をありがとうございます」


「いやいや、正当な申し出だよ」


若干緩んだ空気感の中、金色の瞳がこちらを射抜く。


「それでは後日、実技試験という形で選考を実施させて頂きます。可能であればこの場で日取りを確定させたいのですが、ご予定はいかがですか?」


矢継ぎ早にそう続けた副代表の言葉に『気を抜くな』と額を撃ち抜かれたように感じながら、足元に置いた鞄に手を伸ばした。


「えっと……少々お時間いただけますか。―――あ、返答は直ぐにいたしますので予定を検めるお時間をください」


『即答しろよ』とでも言うような溜め息を耳にして、言葉を重ねた僕にレキウスさんが助け舟を出す。


「カナリア、度が過ぎるよ」

「恐れ入ります」

「はぁ……」


しかしそれも急流に流される木の葉。

変わらぬ金色の視線の圧を感じながら、新卒が優先的に就業院を使える期間と他社の面接日時と兄弟姉妹二人の予定とを見比べる。


会社の代表から漏れ出る、副代表のそれとは湿度の違う溜息と『分別か……』という小さなボヤきが少しだけ心に余裕を与えてくれた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


ゴーンゴーンゴーン―――


十三時を報せる鐘の音が響き渡る探者街の一角。

『獣喰らい』という厳めしい書体の文字が刻まれた店の直ぐ傍で二人の兄弟姉妹が来るのを待つ。

つい先ほど知らされた予想外の展開に店の軒に吊るされた獣の頭骨を見つめながら頭を整理する。


嬉しい、は嬉しい。

天職が”従士”であることを知った上で僕を評価してくれたってことだから。

理想的ですらある。

なのに、なんでだろ?

気持ちが追い付かない?

だからかもな……。

普通に昨日の今日だもんな。


楽しみにしていた人生の一大行事で”従士”だと言われて。

間違いなく生涯一の最悪な気分で将来に絶望して。

学校で説教されて、孤児院(いえ)で励まされて。

心機一転頑張ろう、なんて完全には思えないまま面接で。


最大手の会社では謎の白髪女子と成金代表に笑われて。

上り調子の中堅企業では個人情報が流出してるだのと暴露されて。

終わったと思いきや、まさかの二次選考。


適職診断から激動過ぎないか、僕の人生―――


突然、目の前が真っ暗になる。


「だーれだ」


瞼の上に感じる掌と耳馴染みのある声。


「…………手はヒースで声はキーラ……何?二人はもう一心同体とかってこと?」

「ちげぇよ!」

「違うっての!」


目をふさいだ手を首元にズラして腕で首を絞めてくるヒース。

動けないことをいいことに人の頬をブスブスと指で刺してくるキーラ。


昼食時の繁忙期を過ぎてもまだまだ客足の絶えない食事処の脇で騒ぐ僕等の姿は、探索者がうろつくこの街区ではさほど目立ちもしない。


「あー腹減ったぁ」

「ねぇ早く帰ろー」

「僕も減ってるし早く帰りたいから、さっさと離せっての」


取り合えずさっさと来た道を戻ることにした。


「俺やっぱ藤虎に決めたわ。てか内定もらっちった!モゥブ組長めっちゃいい人でさ!めちゃめちゃ話し込んでたら、次の面談あるからって超~~~綺麗な女の人が来てよ。したら取り合えず内定書やるから持って帰れって。いやぁ漢気っての?あーいう気前の良いところ、やっぱ拳闘士同士通じ合うモノがあるっていうかさぁ」


「あたし?無い無い。元々明後日の百日紅が第一だから。っていうか聞いてよ。最初は内申書とか読みつつ話してたのにさ、急に他社の選考予定とか聞いてきて!人事が決めた設問通りなのかもしんないけど、こっちは言葉を選んで避けてんのにめっちゃしつこいし、挙句そっから態度変わるしでもう最悪。今度学校行った時、紅雪花は”黒”だってステラ先生に言っとくわ」


なんて二人の自慢やら愚痴やらを聞きながら周遊道を時計回りに東門大通りへ。

自然、僕の番ということになる。


「『北の鷙鳥』に入るかも」

「おめでと!よかったじゃん!」

「はいはい、驚かねぇわ」

「―――って()()ってどゆこと?」

「”従士”に就職した状態で二次選考―――実技試験だって」

「あぁ?それは、なんか面白そうだな……!」

「え?でも就職ってそれいいの?入社前提じゃないと問題あるくない?」

「うん。だから試験と言いつつ実質、配属分けみたいなもんらしい」

「なんだ全然、()()じゃないんじゃん!おめでと!」

「ん、ありがと。んで明後日、就業院に行こうと思う」

「おーいいぜ。俺もモゥブさんからさっさと”従士”にでもなって加護慣れしとけって言われてんだ」

「え、私無理だよ?明後日、百日紅だって言ったじゃん」

「悪い、六日後の一二から試験になっちゃって、早めにやっときたい」

「あ、なら明日は?明日はあたし一日空いてるよ!」

「明日は昼前と夕方で面接入ってて時間取り難い」

「えぇー……なんでぇ?」

「いや、なんでもなにも……ヒースは待っててもいいんじゃない?」

「いやいや、俺はお前らと違って今日で面接終わりだから」

「いや、まだあるだろ」

「辞退するっての。あ、俺、途中学校寄るわ。こういうの先生に言っときゃいーんだよな?」

「そうだけど…………凄いなお前」

「え?逆に迷惑じゃね?入るつもりねぇのに面接受けに来るって」

「いや、まぁ…………そうか。そうかも」

「だろ?」

「え、放置?そうやって仲間外れにするんだ!!」

「いや、そんな子供っぽい話じゃなくて、本当に」

「くくっ、お先でーす!」

「は?うっざ」


仲が良いんだか悪いんだか。


その後も中身があるような無いような会話は途切れることも無く。


東門大通りからいつもの通学路へ。


学校でヒースと別れた後はひたすらキーラの恨み言を聞かされながら孤児院(うち)に帰った。


<つづく>

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