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脇役主人公の弁え方  作者: yui


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16/22

016

第十六話よろしくお願いします。

子どものころ、母が持っているその箱は小さな宝箱でした。


色とりどりの糸や布の切れ端、艶のある針、使い込まれた指ぬき。


私はそばに座って、ただ布が形を変えていく様子を眺めていました。


母は多くを語らず、けれど糸の始末だけは必ずその言葉を唱えました。


「見えないところほど丁寧に」


おまじないのようにしていたその言葉の意味がわかったのは、ずいぶん大人になってからです。


幼い私を傍に置き、多くを語らず、遠ざけることもせず、必ず言っていたあの言葉。


それは表からは見えない祈り。

それは自らに針を刺す戒め。

そしてそれは私へと紡いだ本当に細やかな糸。


いま私が針を持つとき、無意識にその言葉をなぞっています。


子を持てなかった私に、繋ぐべき相手はいないから。


けれど、この本を手に取ったあなたには、その綻びでも届くと信じて、この想いを記します。


『楽しい裁縫』著・クレイスト=ファビアン



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



東門大通りに並ぶ小さな古着屋では今、ちょっとした混乱が巻き起こっている。


「どうしたんだい急に―――はっ!まさかアンタ……」


と、久方ぶりに店を訪れた娘の様子に新鮮な驚きと何かの気付きを得たような古着屋の店主マルゴさん。


「なんで店の奥にそんな若い男―――って、え?まさか……」


と、久方ぶりに実家に帰ったら母親が店の奥に若い男を連れ込んでると勘違いしているのが、マルゴさんの娘さん―――話を聞くに彼女がルカさんだろう。


「え?なんでココにいるの?」


と、久方ぶりという程の間は置かないが、意外な場所での再会に疑問を呈している同い歳の兄弟姉妹(きょうだい)キーラ。


「うわぁロウ!久しぶりだねぇ!」


と、こちらはちゃんと久方ぶり……だいたい二年振りくらいか、キーラはちょこちょこ会ってたみたいだけど―――というのは、彼女が同じ孤児院の出身で、つまりは二つ上の僕等の姉で、キーラを百日紅に勧誘していった張本人だから。


「メアリ姉さん、一旦、ちょっと待って」


と、色々と混線した状況の中、嬉しそうに古着の間を縫ってこちらに寄って来た姉を制止して、隣に顔を向けた僕は―――


「マルゴさん、とりあえず場所を変えませんか?」


仕切り直しを要求した。



――― ――― ――― 



マルゴさんの古着屋は、入り口扉を開けた正面奥に置かれた勘定台と、それで目隠しされた小さな作業空間が確保されている。それ以外の店舗の床面積の大部分は商品陳列用の古びた竿とそこに掛けられた古着がで占められていて、店を訪れた客は、左右に並んだ服の壁とも言えるモノの間を、横歩きで眺めたりしながら、目当ての品を探し出すような形だ。


僕が何を言いたいかと言うと、

そんなお店に成人した人間五人が落ち着いて話せる場所などなかったということ。


そうして店主によって案内されたのが、店奥の作業場のさらに奥にある階段から上がった先、完全に居住空間の―――お宅の、食卓であったということ。


そしてその食卓の、所謂主賓席の位置に僕が座らせられているのっておかしくない?ということだ。


「えーっと、では改めまして僕の方から自己紹介させて頂きます」


あと、この急に始まった会合の司会進行を僕が任せられてるのって違くない?っていうことも。


「東門大通りの異界素材取引所『鹿鳴』で従業員をしておりますロウと申します。以前からマルゴさんにお店の経営についてご相談頂いておりまして、本日は実店舗の視察という事でお邪魔させて頂いております。―――じゃあ次に、マルゴさんお願いできますか?」


そんな内心がバレない様に努めて、左斜め向かいに座ったマルゴさんに振る。


「ここで古着屋をやってるマルゴだよ―――ウチも店の名前とかあった方がいいかね?」


「それは後で話しましょうか……」


この辺りで服屋と言えばココしかないから『古着屋』で通じるし、そもそも主な客層が自分達で衣服を調達することのできない従民か、食い詰めた零細企業(クラン)の探索者とそんな彼等の子供達なのだ。

それに七代も続いて不要だったのだから、これからも要らないだろう……いや、逆に名前が必要になるくらいの店に―――っとコレは後にしよう。


終わった終わった、と言わんばかりの顔をしているマルゴさんの隣に座ったキーラに目でを促す。


「『百日紅』狩猟部、魔石班所属のキーラです。ルカ先輩にはいつもお世話になっております。また突然の訪問でお騒がせし申し訳ございません」


軽く頷いたキーラは隣に座ったマルゴさんに丁寧に詫びた。


「ん?いやいや、いいんだよ。こっちこそ白湯くらいしか出すもんが無くて悪いね」


「お気遣いありがとうございます。隣のメアリと私と、それからロウとは同じ孤児院の出身で、メアリが二つ上の姉、ロウとは同い年の兄妹なんですよ」


と、今度はルカさんにも僕等の関係性を説明するように話をして、メアリ姉さんに話を繋いだ。


「はじめまして。同じく『百日紅』狩猟部、魔石班所属のメアリです。先ほどは無遠慮に失礼しました。また突然の訪問にも拘わらず、こうしてお招き頂きありがとうございます」


そう朗らかに微笑んだメアリ姉さんのフワフワした柔らかい雰囲気は、孤児院時代から相変わらずで、ただ口を開くだけで何となく空気が和んだ。


そしてそんなメアリ姉さんと対照的な空気を纏った者が一人。


目を瞑って聞いていたその人が、最後に回って来た自分の番にスッと目を開き、重苦しく口を開いた。


「同じく『百日紅』狩猟部魔石班所属のルカだ。『鹿鳴』と言えばキーラの初物を卸した時に訪れた店だったな、母が見当違いな依頼を出してしまったようで失礼した」


と、歴史ある中堅企業(クラン)の社員として、折り目正しく威厳と緊張感を保ちながらも、意外なことに従民相手に謝罪の言葉まで口にしたルカさんに、僕は却って恐縮してしまった。


「いえいえ!その節はわざわざご足労頂きましてのご来店、誠にありがとうございました…!またマルゴさんには『鹿鳴(ウチ)』の衣類から雑巾に至るまでお世話になっておりまして……そのご縁もあって世間話をさせて頂いていたところに差し出がましくも、ご協力をご提案させて頂いた次第ですので…!」


そして、まだ僕が見習いというか、クルードさんが主になって営業していた頃、キーラと一緒に来店してくれていたということを気付かされ、二重に恐縮した僕はなんだか無駄に言葉を重ねた。


そんな僕を見かねて、キーラが助けを出してくれる。


「にしても、凄い偶然!たまたま先輩のご実家を訪問した日に、こんなご縁があるなんて!」


流石、助かる…!

僕はすぐさまそれに乗っかった。


「確かに。マルゴさんの娘さんがまさか『百日紅』だったなんて」


「ありゃ?言ってなかったかね?」


なんてことない様に返してくるマルゴさん。

そういえば、この人もまた元探索者だった…。


「えぇ、びっくりですよ……って、もしかしてマルゴさんも元『百日紅』なので?」


「いんや。ただあそこの代表のアネッサとは同窓生だからね。まだ門を潜ってんのかいアイツ?」


流石にそんなことは無かったが、なんと『百日紅』の現代表と旧知の仲とは…。

というかこの感じ……好敵手と書いて友と読む間柄だったりするのか…?


なんて、思っていたらマルゴさんの向かいに座ったルカさんが急に声を荒げた。


「一介の従民風情が馴れ馴れしく代表をアイツ呼ばわりするな!」


が、言ってることは仰る通りだった。

僕はクルードさんという悪い見本があって毒され過ぎていた。

普通に、そんな口を従民が探索者にきけばこうなる。


「ははっ!そんな小さいこと気にするような器じゃないよ、アレは。でどうなんだい?」


が、当の本人はどこ吹く風。

なんかクルードさんより言動危ういんだよなぁマルゴさん…。

なんて思っていると顔を向けられたメアリ姉さんが言葉を返す。


「えっと、はい。五年ほど前から次期代表の育成と称して候補の選抜を行われていますね、未だ探索班の長として陣頭指揮を取られていますよ」


「流石だねぇ……『午寿まで現役』なんて冗談かと思えば、本気でやりそうだ」


嬉しそうに呟くマルゴさんに朗らかに応じるメアリ姉さん。


「あ、それ!毎年年末の総会での決まり文句みたいで去年も仰られてました!」


「あっはっはっ!そうかい!変わらないねぇ!この子ったら帰って来てもそんな話ちっともしてくれやしないから」


と二人が盛り上がる一方で、向かいのルカさんは怒りで震え上がっていた。


会社(クラン)の内情を外でペラペラ出来るか!メアリも迂闊に口にするな!!」


そしてその感情を正論と共に爆発させた。


「あ、すみません」


「こんな話漏れたところで誰も何も得やしないだろうに、相変わらず頭の固い子だねぇ」


だが意外にもメアリ姉さんは軽く謝るに留め、マルゴさんは軽口で返した。


ん?というかメアリ姉さんの態度って合ってる?先輩なんだよね?

会社(クラン)でもそんな扱いなの?

そしてマルゴさんの態度は相変わらず過ぎる…。

言ってるこの人が一番相変わらずだ…。


「フン!二十年も前に引退して緩み切った頭で、未だに会社(クラン)代表と小汚い古着屋の店主を同列に見做している老害よりマシだ」


が、ここで少し風向きが変わって来た。

ルカさん、結構キツいことを言う。


「ほう?多少は探索者らしい口の利き方が出来るようになったねぇ。股の方はどうなんだい?……相変わらず御堅いままかい?」


だが、マルゴさんも元探索者。

挑戦的な笑顔と”らしい”表現でやり返した。


ってこれ、親子喧嘩が始まる感じです…?


「まっ…!ん”んん…………相変わらず下品な物言いだ。こんな女の股座から生まれたなんて私は偶に自分が恥ずかしい」


「はぁ……未だに未通女かい……」


「おぼっ……!?くぅ…!そういう話はやめてくれと言っているだろ!後輩はおろか、見知らぬ男までいるというのにっ!」


無理して顔を赤らめながら言い返すルカさんに、良く分からない貫禄をもって話すマルゴさん。

そして何を思ったか僕を一瞥した彼女はニヤリと嗤った。


「あ、ロウあんたどうだい?これも何かの縁、いや人助けと思って一発やってってくれないかい?」


「はい!?」

「んん!?」

「えぇ!?」


「なぁ!?なにをいってるの!!」


これには一同、ルカさんの言葉に思いを一つにした。

そしてルカさんの口調はいつの間にか、随分女の子っぽくなっている。


一方のマルゴさんは相変わらず意地の悪い表情を浮かべているが、娘を見つめるその目は真剣だった。

そして言葉を紡ぐ。


「あんた今年でもう二十二だろ?アタシがラナを産んだ歳だ。仕込みを考えりゃ完全に遅れてる。探索業がいつ死ぬことになるか分からないなんて、あんただって分かりきってることだろう?命を繋ぐってのは人にとって何より仕事だよ」


ラナっていうのはマルゴさんの初めてのお子さん。

十年程前に亡くなられた長女で、ルカさんの一つ違いのお姉さんだった人だ。

半分冗談みたいな親子喧嘩の雰囲気を出しながらもマルゴさんが放ったその言葉は、実はとても重いものだ。


「なんで久しぶりに帰って来てそんな嫌味言われなきゃいけないのよ!」


そしてその重みに耐えきれなかったルカさんは叫んで返すことしか出来なかった。


「嫌味に聞こえてるってんなら、それが正しいってのもわかってんだろ?」


「……っ!うるさい!!二度と帰って来るかこんなとこ!!!」


「あ、ちょっ、ルカ先輩!?」


「ロウ、お姉ちゃんも追っかけるから、また今度ゆっくりね?」


そして、言い負けしたルカさんはダン!と食卓を叩いて白湯をひっくり返すとそのまま階下へ下りて行ってしまった。慌てて追いかけて行くキーラに、相変わらずと思いきや、少し焦った様子のメアリ姉さんも、次いで階段を駆け下りて行く。


そしてその場に残されたのは、古着屋の店主とその相談を受けた『鹿鳴』の従業員。


「変なとこ見せて済まないね。なんだか抱え込んでるみたいだから吐き出させてみたかったんだけど失敗したかねぇ……ま、あの子らでなんとかするか。さ、今日はもう店仕舞いにするからさ。また今度よろしく頼むよ」


そう言いながら、ルカさんが倒した木杯を立て、零れた白湯を拭うマルゴさん。

そんな彼女の様子を見ながら僕は返事を返す。


「いえ、なんだか……色々と折の悪い事が重なっちゃったみたいで。お陰様で凡そのことは把握できたと思いますので、少し時間が掛かってしまうと思うのですが、またご連絡いたします」


「……まだ付き合ってくれるってのかい?」


「仕事ですので」


「よっぽど暇なんだねぇ…」


その呟きは、その台詞ほど皮肉めいたものではなく。


その表情ほど、呆れかえったものでもなく。


その瞳に込められた想いに報いたいと、僕は心を新たにした。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



客層を広げたいという相談事から始まった古着屋さんの視察は、

言外に跡継ぎ問題であるということが店主の言いぶりから察せられ、

その当事者たる娘の急な来訪により親子喧嘩へと発展し、

探索者気質(カタギ)の母親による台詞で幕を閉じた。


そして色々な意味で”思っていた以上”だった視察の時間は、十二分というくらいに充実していたため、街を照らしていた朝陽もその位置を逆にし、それは『鹿鳴』換算でいけば駆け込み客が居ないなら、もう店を閉めても構わないほどだった。


疎らになってきている東門大通りの人通りに、時間の経過を実感しつつ古着屋の今後を考える。


と言っても僕に跡継ぎ問題を背負う気は無い。

あくまで依頼された内容は、潜在需要の掘り起こしあるいは客層を広げたい、というモノだから。

例えそれが、依頼の根本だったとしても、だ。


娘に仕事を辞めて継いでくれとは言えない。

けれど連綿と続いて来た店を自分の代で閉じたくも無い。

その板挟みの末に出した答えが、店を大きくしたいというものなんだろう。


僕はそれを現実逃避の馬鹿な考えだなんて思わない。


出来る範囲で自分の意地を貫き通す。

そのために足りない頭なら、近所の従民にだって、成人したての若造にだって下げるし、最期の最期まで出来る限りで、足掻く。その姿勢と心意気はとても”探索者”らしいと尊敬出来るモノだったから。


そんなことを思っていた最中、


「あ、ロウ」


と呼ぶ声に目を向ければ同い年の兄弟姉妹の姿。


「キーラ。ルカさんは?」


恐らくはそれを伝えるために戻って来てきていた道中だったのだろう兄弟姉妹に訊ねる。


「メアリ姉と一緒に会社(クラン)に戻った。なんかごめんね。仕事中に」


「気にしないでよ。こんなただの偶然どうしようもない」


「うん……でも、あたし達が無理言って連れ帰ったみたいなもんだからさ」


「そうなの?」


「うん。ルカ先輩、今年から魔石班に移ったの。さっきメアリ姉が言ってた探索班から」


そう始めたキーラの話は、マルゴさんの親の勘が正しいものだったんだな、と思わせる内容だった。


規模や経営方針によって多少の違いはあれど、探索業における組織編制というものは会社毎(クランごと)に大差はない。大まかに分ければ狩猟採集を担う部門と、会計や社員の面倒をみる経営部門。会社の規模が大きくなればなるほど、それらの役割は細分化されて、人材は先鋭化し、そして組織は強くなる。


『百日紅』という会社(クラン)はその名の通り百名の女性社員によって経営されている老舗と言って過言ではない企業で、今年で何年目になるんだろうか…?とにかく百年以上は続いている企業であることは確実だ。


そしてこの街でその名を確固たるモノにしているのは、女性のみで運営され続けているという珍しさと長きに渡り経営を続けている点に加えて、『装備品』の卸しに特化した操業を維持し続けているという特異性にあった。


”貴族成り”に至らないまでも、従民ですら護身用に備えることが可能な『ダガー』の卸しに始まり、『ぬののふく』や種々の『ローブ』などに至るまで、服飾貴族たるファビアン家に睨まれる程度には、この街に日用品程度の使える物品を安定的に供給し続ける彼女等の貢献度は計り知れないものがある。


当然それを支えているのは『百日紅』一社だけではない。だがその名を支える程には他社を圧倒する魔物からの”落とし物”の拾得率の高さを誇り、これは当然のことながら『百日紅』が抱える最重要の企業秘密であり、他企業が持ちえない独自の強みだった。


そしてそんな『百日紅』の強みを支える、組織の柱であり、花形と呼べるのが『探索班』だ。


おまけにメアリ姉さんの話では、会社の次期代表を期待されている者達が、この班への選抜と落選という激しい競争を繰り返しているのだから、そこから外されれば落ち込みもするだろう。しかも―――


『三年目までの若い子ばっかだからみんなの頼れるお姉さんって感じ』


というキーラの言からして、魔石班とは研修を終えた新人の取り合えずの配属先だ。


まぁ食用の遺骸に専念する食料班とどちらが新人向きかと問われれば、狩場と狩猟対象次第、としか言えないけれど。『百日紅』では安定財源である筈の魔石の方が、その比重が低く見積もられているのだろう。


そんな事を考えながらキーラの話を聴いた。


「でもね、先輩と親しくなるにつれて何だか無理してるのかなって」


こういうところキーラは本当に凄い。

素直に思う。


相手の本音や本質を見抜く力。

他人への共感性とか優しさ。

到底真似できないし、僕も随分、助けられた。


「でね、昨日の夜。メアリ姉と一緒に吞ませたの」


「うん……うん?」


「そしたら出るわ出るわ。愚痴から弱音から嗚咽から、何から何まで。終いには寝ながら戻したりして、片付けが大変だった…」


「そっか…」


これは、笑うべきなのか…?

一瞬の逡巡の後、とりあえず、ルカさんの名誉的にも言わない方が良いのでは?

という言葉は飲み込むことにした。


「まぁそんな愚痴を聞いてたらね。半年くらい前に弟さんが亡くなられたことを人聞きに偶然知って、それを報せなかったお母さんと大喧嘩して、でも古着屋どうするんだろうとか、疎遠になっちゃったことも気にもしてて……取り合えず、親子関係の修復からって思って、メアリ姉とお節介を焼いて来たって訳よ。本当に余計なお世話になっちゃいそうだけど…」


なるほど。

それが原因かは分からないけど、調子を落として探索班からも外されて、負の螺旋をグルグルと落ちていったってコトか…。


「というかごめん。なんか時間取らせちゃったけど、それマルゴさんに伝えに行くところなんだよね?」


「うん。でもロウに会えて丁度良かった」


「うん?」


「あたし、これどこまで話すべき?」


「う、うーん……正直、聞かれても困る…」


「えぇ?一緒に考えてよぉ……だから話したんだよ」


「それ、巻き込んだって言うよね?」


とそう聞けば、


「……何を今更」


なんて賺した態度と台詞で首を振る。


「コイツめ」


イラッとして小突くフリをすれば、笑ってヒラリと交わしながら


「あははっ―――ってあれ?ロウちょっと背伸びた?」


などと言う。

僕よりも明らかにその身長差を広げながら、だ。


「今のキーラが言うと嫌味にしか聞こえない」


そんな久々な兄弟姉妹のじゃれ合いをしながら、マルゴさんになんと伝えるかを何となく話し合った。


結論、これまた何となく察しているっぽいマルゴさんに詳細を伝える必要はなく、急な来訪のお詫びと、ルカさんは無事に『百日紅』へ帰社したことだけを告げることに決めた。


礼を言うキーラに手を振り別れた後、僕は家路を急いだ。

僕は僕でさっさと帰らないと。

傾いた陽がそろそろ西の壁の向こうに隠れそうだった。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 




「てめぇセリス!なんてこと言いやがる!!」


『鹿鳴』の入口扉を開けて軽やかな小鐘の音と共に僕を迎え入れたのはそんなクルードさんの怒声だった。


「何度でも言う。お父さんはさっさとミニーとでも再婚して楽隠居した方がいい」


なんなんだ?

今日は親子喧嘩の日なのか?

そういう決まりが実はこの街にはあったのか?


なんて孤児院自虐を頭に思い浮かべて一呼吸。

僕の姿に目もくれず、入り口横の勘定台を挟んで睨み合う二人に声を掛ける。


「ただいま帰りました。取り合えず、お店を閉めて奥で話しましょう。みっともないんで」


そんな僕の言葉に二人は互いに目を逸らし、クルードさんは舌打ちを鳴らしながら、セリスは無言でそれぞれ店仕舞いの作業に移っていった。


皮肉を受け取ってくれるくらいにはお互い冷静だったみたい。

本当、姿形は似てない癖に変なとこで似てるんだよな…。

というか、この間の地下行きからこの親娘、仲悪すぎない?


「ロ、ロウくん……よかった……私、何も出来なくて…」


話の中心っぽいミニーさんは何故だか半ベソかいてるし。

っていうか今日が最終日なんだよね、この人。


別れの日に親子喧嘩なんかに巻き込まれちゃって……最初っから最後まで哀れな人だ…。



――― ――― ――― 


――― ――― 


――― 



それから。


終始無言で店仕舞いを終え、

店内奥の食卓で集まったかと思えば、


『お暇します。短い間でしたがお世話になりました…!』


とミニーさんが店を後にし、

それを舌打ち交じりにクルードさんが追いかけ、


セリスはいつもの無言無表情にさらに磨きをかけて、


僕は取り付く島もない相手に愛想をつかし、


取り合えず買い出しに出掛けることにした。


「夕飯くらい買ってから喧嘩始めればいいのに」


なんて無茶な独り言を溢しながら、


近場の惣菜屋で嫌な顔をされながら、


どうせ廃棄になるんだから礼金(かね)になるだけマシだろう。


なんてこと内心で思いながら、


あ、夕食にするつもりなのか、と思い直しながら、


そして、


店の跡継ぎが決まっていても決まって無くても、似たような事で喧嘩しているなんて、実は血のつながった親子よりも僕等とマザー達くらいの関係性の方が、よっぽど健全な親子なんじゃない?


なんてことを考える一日になった。


<つづく>


次回はまた二日後の投稿を目指します。

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