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脇役主人公の弁え方  作者: yui


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13/19

013

思ったより書けたので投稿します。

バトル回?な第十三話よろしくお願いします。

所謂”壁際族”がいない。

これは街の治安上も良い方向に向くと考える■■■■■■■■。

環境は、■■■■■■■■になっている。


門に立つ衛兵の質の高さ。

異質ともいえるほどに練度の高い衛兵はいったい何から何を護ろうというのか。

一見綺麗に見える西門前の街並みには■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■というのに。


異界に立ち入ればその一歩目から同業者と目が合う。

四六時中異界を巡回する貴族の■■■■■■■■■■■■に目を光らせているからだ。

街の社会構造を支える紙幣に始まり衣服や食料と無くてはならないものに溢れる可能性の地■■■■■■■■。


ほんの触りに過ぎないが、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。


この本を目にする諸兄らの頭が正常に働いていることを願うばかりだ。


検閲済『東奔西走』著・灰燼狼のステラ


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


クルクルと地下へと下っていく空間に木霊する声。


「いやぁ!流石は弊社の経理担当!手続きさせたら右に出る者はいねぇな!」


ポツポツと間隔を開けて緑白色に灯る蛍光灯。


「尊敬する」


シンシンとした静けさと冷たさが漂うここは労務省本部、その地下訓練場へと続く長い階段。


「……どうも」


調子の良いこと言って下手な煽て方をしてくる『鹿鳴』の店主に、一言ボソッと評価を下すその跡継ぎ。

そんなこと、無いとは思うのだけれど、なんとなく、煽っているようにも聞こえる。


「んだよ、元気ねぇぞ?やっぱきっちり身体動かして、ちゃんと体力つくらねぇといけねぇな!定休日は地下訓練する決まりにするか!」


かなり上機嫌な店主は、日夜付き纏われる調査官の目を逃れられたことが余程嬉しいのだろう、あとは少し前に僕でも感じた”職業加護”が宿った感覚か、休日というものの定義すら見失っている。


「『盲兎』、『西瓜』、『南瓜』、『南蛮灰鴨』」


その高揚感に水を差すように、まるで呪言のように高価な異界素材(食用)の名前が淡々と跡継ぎの口から並べられる。


「忘れちゃいねぇよ……」

「ならいい」


その効果は抜群で、店主は急に落ち着きを取り戻した。

きっと頭の中では『なんで見栄を張っちまったんだ!』という後悔を、なんとか正当化しようと盛んな議論が繰り広げられていることだろう。


跡継ぎの方は、大人しくなった店主に溜飲を下げてはいるものの依然として気乗りしない様子だ。

きっと頭の中では―――と考えたところで、ふと思う。


そういえば、セリスの考えって良く分からない。


最近は無表情にも慣れたし、彼女の方から話題を振ってくれる場面も増えた。

それに顔には表れないまでも、視線や態度は示してくれる。

その頻度も確実に増えた。


それでも、良く分からない。


男女の差ってやつだろうか。

唯一分かるのは食べ物に対する執着くらいだ。

ただ、それにしたって四六時中何かを口にしたがる孤児院の飢えた餓鬼達とは違ってる。


好きなことは、食べることと寝ることで

嫌いなことは、喧嘩と運動。

大半のことは、無関心でどっちでも良い。


……並べてみると昔に絵本か何かで読んだ『ナマケモノ』のようだ。


「お!見えてきた!」


と、言うが早いか大男がタッタッと三段飛ばしに駆け下りていく。

その後ろ姿の向こう側に、喜色満面の顔を浮かべている赤茶の顎髭が容易に想像できる。


実は今朝方、僕を起こしに来る前に”重機士”に転職してきた、という燥ぎっぷりなのだ。

お陰で彼は今【道具】は使えるけれど【鑑定】は使えない。

『鹿鳴』の店主なのに。


「本当に、似てない親子だよね」

「ん?」


自覚が無いのか。

惚けて否定したいのか。

なんの興味も無いのか。


きっと三つ目。どうでも良いんだろう。


駆け出した商売人としては無能な父親を、目で追いながらもゆっくりと歩く跡継ぎの横に並びながら、そう思った。



――― ――― ―――



地下とは思えない程に高い天井と、そこから降り注ぐ陽射しのような灯り。

遠くの方に見える土壁が、足元の石みたいに硬い地面と繋がっていることが信じ難い程の広さ。

所々に聳え立つ柱は『鹿鳴』の大黒柱の何人分になるんだろうっていう太さ。


約三カ月ぶりに訪れた地下訓練場は相変わらず閑散としていた。

もう少し利用者いる、みたいな話してなかったっけ?


「っしゃぁらぁああ!!」


『鹿鳴』の大黒柱もとい、店主のクルードさんは【道具】から取り出したのだろう愛用の獲物を振り回してさっそく昂っている。どんだけ溜まってたんだって思う。


「めずらしいな”重機士”かよ」


と、横からボヤき声が聞こえた。


「あ…」


「お?……おぉ!?お前、、、えっと……そう!ロウ!ロウじゃねぇか!」


「あ、覚えてらしたんですね」


「ったりめぇよ!なんだよ、もう来ねぇもんかと思ってたぜ!」


「別に来たくも無かったんですけどね……ともあれ、お久しぶりですスラヴさん」


手を差し出すと、相変わらぬ上裸のご老体は、嬉しそうに僕の手を握り返してきた。

相も変わらず老境と思えぬ肉体と握り返す手の力強さだ。


「はっ!忘れられたかと思ったぜ!」


「そうそう忘れられることもないでしょう?スラヴさんは」


「あぁ、覚えられるくらい通う野郎か、一生来なくなる野郎かのどっちかだからな!」


「……なるほど」


微妙に笑えない台詞を、さも定番ネタのように笑って話すスラヴさんは、僕の反応を気にせず続ける。


「で?どうしたんだよ?……あぁ、後ろの別嬪さんの訓練か?」


「まぁ、当たらずとも遠からずです…………セリス?」


スラヴさんにその存在を認められてもなお、僕の後ろに隠れて不干渉を貫こうとしているセリスに声を掛けた。


「はぁ……セリスです。ヨロシク」


珍しい。

わざとらしい溜め息までついて『厭々やって来ました』と主張している。


「スラヴだ。ヨロシクな!嬢ちゃん」


そんな相手にも笑顔を絶やすことなく、かと言って無理に距離を詰めたりすることもなく、セリスに自己紹介を返したスラヴさんは僕に向き直った。


「まぁお前さんが教えんなら、俺は不要だな。ただ―――」


そして身を寄せて声を低くする。


「お前等より一足先に入って来た野郎がやべぇ。あの”重機士”相当使うぞ……。まずあの『機械』からして只者じゃねぇんだが……実力に人格が伴わない探索者ってのは多いからな。何にしてもアレからは出来るだけ距離置いとけな」


”重機士”の装備……というか武器は、かなり特殊で『機械』という名称で分類される専用品となっている。

異界からしか入手できないという点ではその他の『装備品』と変わらないが、これは”重機士”にしか装備することが出来ない。


そしてその武器としての性能はかなり強力、かつ異界でもそうそう発見されないため、他の装備よりも街で取引される絶対量が少ない。それを所持し扱っていること自体が”重機士”としての格や実力を示すとされているくらいだ。


「あぁ、アレはですね―――」


「おぉい!!セリス!ロウ!早く来い!」


「アレなんですよ……」


「……あぁ、そうかよ」


人当たりも面倒見も良いけれど少し考えの足りないお調子者、といった印象だったスラヴさんが何とも言えない表情を見せた。



――― ――― ――― 


――― ――― 


――― 



ヒース、キーラと続いて三人目となる”職業加護”の教導は、僕自身が久しぶりなのもあって、少し不安があった。


が、結論から言えば何の問題も無かった。


学校で習う四則演算みたいなものなのか、一度身に付けてしまえば自然と出来るもののようで、内臓の固定化も手指の硬化も、苦労は無かった。


自分でも意外だったのが『地下空間』×『職業加護』という組み合わせに”あの日”を思い起こして、身体が動かなくなってしまうんじゃないか……という不安が、杞憂に終わったこと。


未だに、偶に、あの日の夢を見て、夜中に目覚めることがあるから。

ミニーさんが手帳を開きながら色々探ろうとしてくるのが、本気で鬱陶しく思う日もあった。


「できた」


視界の外からスッ―――と目の前に降り立ったセリスが無表情に告げる。


連続で、全力で、垂直飛びをしながらの内臓を固める練習。


コレが出来ないと加護を効かせた自分自身の動きに”中身”が追い付かず、直ぐに気分が悪くなる。


「流石、早いね」

「ん」


というのはお世辞でも何でもなく、本当に僕の兄弟姉妹二人よりも大分、飲み込みが早い。


さすが両親ともに中堅探索者だったという血筋は隠せない、といったところか。


とまぁ、平和的で静かなやりとりの向こう側でその血の源泉はといえば―――


パァン!―――


「やるなぁジイさん…!」


「フン!本気出してから言え…!」


「じゃ次は、軽く腕の一本でも落とすつもりで」


「どう見ても役に立ってない左手、もう少し軽くしてやるよ」


「はっ……ほざけ!」


実に好戦的で殺伐としたやりとりを交わしている。

というかスラヴさん、さんざんクルードさんをヤバイ野郎認定してた割りにめちゃめちゃ煽る。


パァン!―――


右前腕を覆う手甲に大仰な盾が付いたクルードさんの『機械』が振るわれる度に、スラヴさんは鋼のような肉体全身を使って、賺し、叩き、ズラして、躱す。


パァン!―――


老いた相貌とは無縁の荒々しく躍動的な動きで相手を翻弄し、大楯の死角から鋭く放たれた蹴りを、その巨体からは想像もつかない柔軟さと素早さで躱して、交して、右腕を振り下ろす。


パァン!―――


そして相手を切っ先の真正面に捉えた『機械』から放たれる鉄杭の一撃。


それを相打つのは、極限まで高められた硬度の拳から放たれる一撃。


これまでの硬質で甲高い音とは質の違った、音というより、衝撃が、周囲に走る。


ドォン!―――


「くくっ、俺の『杭打チ』を素手で止めるたぁな、ジイさん異界の生まれか?」


「ふんっ、”拳闘士”に費やした四十余年。『機械』ごときに貫けやしねぇよ」


「午寿超えの英雄かよ……敬わねぇとな」


表情(カオ)と声が合ってねぇぞ」


言われたクルードさんは首を傾げて顎を摩った後、その三本指の左手を差し出した。


「そうか…?悪ぃな。―――改めて、クルードだ。元探索者で今は取引所を商ってる」


「スラヴだ。元探索者で……今は地下で引きこもってる」


その手を何の躊躇も遠慮も無く掴んだスラヴさん。


「くくっ」

「かかかっ」

「「だぁぁはっはっは~~~!!」」


そして、どちらからともなく笑い出し、ついには呵呵大笑を成した。


そんな光景と遠巻きに眺めるセリスと僕。


「似た者同士」

「だねぇ…」


あぁ、肩まで組んじゃって。


ちなみに午寿っていうのは五十歳を意味する長寿の祝いのことを指す。


三、四十代で死に場所を失った探索者が、従民になっても生きることを諦めずにいた者、あるいは上手いこと資産形成するなりして、街での老後を楽しんだ者だけが至れる年齢だ。


貴族しか迎えることが無いという還暦(六十歳)もスラヴさんならいけそうな気がする。

クルードさんも然りだけど。



――― ――― ――― 


――― ――― 


――― 



そんなスラヴさんと僕、二人並んで広大な地下空間を歩く。


「悪ぃな」

「いえ。僕は別に」


クルードさんと十年来の親友のようになったスラヴさん。

ひとしきりの歓談を交えた後に彼は『地下で燻っている探索者に教練を施して欲しい』とクルードさんに申し入れた。


『とっくの昔に現役を退いたジジイの話なんぞ聞きやしねぇ』って言うけれど、さっきクルードさんにやってみせたように実力行使すれば良いのでは?と思わなくもない。そんな殺伐とした地下空間、絶対嫌だけど。


「にしても大した男だな。あのクルードってヤツは」

「えぇ、大きい人です」

「……適当なこと言ってねぇか?」

「そんなことないですよ。身体も心も大きい方ですクルードさんは」

「そうか」


彼らが毎日のように地下に籠る理由はそれぞれだが、共通するのはいずれも所属する企業(クラン)で思うような活躍や貢献が出来ていないこと、そしてその原因を自身の実力に求めて、ひたすらに自助努力を続ける、不器用で、不愛想で、それでも真面目な人だということ。


そんな彼らが変わるきっかけを与えて欲しい、というスラヴさんの願いをクルードさんは二つ返事で受け入れた。


今、僕とスラヴさんは彼らをクルードさんの元へと連れていくべく、地下訓練場を縦断中だ。

一方”重機士”の親娘は、父親の方が娘に何かを話したそうにしてたから、気を利かせた。


「シッ……シッ……シッ……シッ……」


左右の腕を順番に身体の横へと引っ張りながら歩く。

という珍妙な歩法を試みていたスラヴさんが急に水を向けてきた。


「で『北の翅鳥』はどうよ?ってかどういう組み合わせだ?今日の?」


その変な歩き方が長生きと健康の秘訣ですか?と聞こうとした矢先のことだった。


「あぁ……」


そういえば言ってなかったっけ。


「『北の翅鳥』は落ちました。今はクルードさんのお店『鹿鳴』で従民として働いてます」

「はぁあああ!?!?」

「……うるさいですよ」

「いや、お前っ!はぁ…!?」


あ、声小さくした。

こういうとこ憎めない爺ちゃんって感じだよな、スラヴさんって。


「まぁ、落ちたというか……経歴上は自主退社ですね。退職金も貰ってます」


思えば『退”職”金』って言葉は変だ。

だって別に僕は”従士”を辞めちゃいない。

正確には『退社金』とかだと思うんだけど……語呂が良くないから…?


「あぁ…?どういうことだよ…」


「……まぁいっか。別に口止めはしないですけど、変に言いふらさないでくださいね。もし―――」


「大丈夫だ!お前が冗談じゃなく苦情を入れる奴なのは身を以て知ってる…!」


なんだ人聞きの悪い。


初めてここを訪れた時、ヒースから事情を聴き出して、こっちの私情に踏み込んで来たから当然の対応をしただけだろう。後日、キーラと訪れた際に『本気で首が飛びかけた』と戦々恐々としながらも愚痴を溢されたけど、それこそ知ったこっちゃないし、そのお陰で今のところはセリスにも嫌われていないのだから感謝してほしいくらいだ。


まぁいいけど。


「えぇっと……二次試験っていう名目で……というかまぁ実際二次試験だったわけですけど”加護”アリの条件で戦闘実技を試したいってことだったので、それを受けたんですよ」


「なるほどな……就職の指定まで受けたんなら内定みたいなもんだな。採用試験ってよりかは入社直後の実力試験って感じだな」


「えぇ。そこでまぁ……奮戦はしたのですけどね」


「お前の実力で落とされるってどんだけ『北の』は豊作なんだ?」


あぁ何か誤解してる……評価してくれるのは素直に嬉しいけど。


「うーん……実力、はどうか分からないんですけど、僕の場合、それ以前の問題だったんですよ」


「どういうことだ?」


「試験は、実力試験じゃなくて採用試験だったって話です。初めは”加護慣れ”た戦い方を叩き込まれるような感じだったんですけど、試験の主眼は加護が切れた後、素の状態でも痛みや恐怖に耐えて戦いを続けられるかっていう精神面を試すものだったんですよね」


「ほう」


感心したような声を漏らすスラヴさん。

今だから冷静に振り返れるけど、ちょっとこの先を話すの嫌なんだよな…。


「そこで両腕を折られて、僕の心も折れちゃいました。それまで台所で指を切るくらいが精々だったんで……痛かったなぁ」

「……なるほどな」


なんか、言い訳がましいというか、変な感じになった。

そりゃスラヴさんの反応もこうなる。


「理解してるし納得も出来るんですよ。そんなヤツが異界で生きていける訳ないし、集団行動で足を引っ張るだけだって」


「新卒が一番死ぬからな……いっても三年目くらいまで大して変わらんが…」


「まぁ今となっては感謝してもいいかもな、っていう感じの、そんな事情です」


「なるほど『北の』が急成長してガンガン新卒が集まる理由が分かる話だな……貴重な話ありがとよ」


「いえいえ」


そんな年の功が感じられる、当たり障りのない総括をしたかに思えたスラヴさんだったが―――


「で、お前大丈夫なのか?」


意外にもこの話題を掘り下げてきた。


「なにがです?」

「そんな経験して心折れちまったヤツが、こんなとこ来て平気なのかよ?」


ふざけ半分の挑発半分、けどその真意は僕への心配にある。

不器用で分かりやすく、そして優しい人だ。


「そうなんですよね。自分でも意外なんですけど、平気です。今のところ」


だから、僕も軽く返した。


「くっくっ、なら試してみろよ。クルードなんて言う野郎が傍に居んだ。異界は、怖くて、楽しいぜぇ」


「商売は、安全で、楽しいので。大丈夫です」


「かっかっかっ!楽しみは多いことに越したことねぇぞ!なにしろ人生ってヤツは長ぇんだ!」


「スラヴさんは長そうですよね」


「おう、まだまだ続きそうで困っちまうよ」


そんなことを話しながら少し大きくなってきた小さい人影を目指して歩いた。



――― ――― ――― 


――― ――― 


――― 



いってこいで半鐘分くらいだろうか。


面倒くさそうな顔をした探索者三人を伴って二人の下に戻った時、『鹿鳴』の親娘は微妙な距離を開けて硬い地面の上に座っていた。


やや遠目からスラヴさんが声を飛ばす。


「おぉい。連れてきたぞ~」


「あ?おぅ。そいつらか」


その声で初めて気づいたようにクルードさんがこちらを向いた。

セリスは変わらず俯いたまま。


「……」


あれ?と思ってクルードさんと入れ替わるようにセリスの傍にしゃがむ。


「どうかした?」

「べつに」


おおっと…?


「……クルードさん?」

「……なんでもねぇよ」


嘘じゃん。

絶対なんかあったじゃん。

喧嘩でもしてたんでしょ。


「はぁ……」

「……」


とりあえず溜息をついてセリスの横に腰を下した。

昔のヒースみたいに避けたりしないから楽だ。

避けるくせに放っておいても立ち直らない、キーラ曰く『甘ったれな下っ子』のヒースは面倒だった。


「……なに?」

「べつに」

「……」


意趣返しって訳じゃなく。

話したくなったら話すし、そうでもなければ話さない、だから傍にいるだけで良い。

キーラに学んだ女の子への処世術だ。


なんて『鹿鳴』の身内の軽いゴタゴタを余所に、スラヴさんは渋々ながらも付いて来てくれた三人の現役探索者達をクルードさんに紹介していた。


一人目は騎士職。短髪、勝気で生意気な言葉遣いや雰囲気がヒースを思い起こさせる。


二人目は狩猟士。長髪を結ってまとめ上げた色男、弓よりも短剣を極めようとしている迷走具合がその燻り度合を表している。


三人目は地操士。肩口まで伸ばした髪と薄化粧をした男性。何か燻るどころか、色んな悩みを抱えてそうな人。


その様子を腕を組み、黙って聞いていたクルードさんが口を開く。


「おう、クルードだ。俺は言葉が上手くねぇから闘ってやるくらいしか出来ねぇんだが―――」


そこで言葉を区切ってコチラを―――いや、僕と目を合わせた。

そして挑発的な笑みを浮かべて彼らに向かいこう続けた。


「とりあえず、ウチの従業員と闘らせてやるよ。落ちこぼれた探索者(げんえき)ども」


「「「あぁ?」」」

「は?」

「うぉい!?」


三者三様。

いや呼び出された探索者三人は同じ声を、同じ大きさと同じ感情で上げ。

僕のはその何十分の一かの小ささで戸惑いのそれを。

スラヴさんは三人に匹敵する大きさで僕を上回る困惑をその声に乗せて叫んだ。


「おい!なんだよこの親父は!?」

「スラヴさん?」

「どういうこと?」


「いやぁ、そのぉ……!」


一斉に非難の声を向けられ、たじろぐスラヴさんを余所に、クルードさんは続ける。


「おいおい。午寿超えのジイさんに頼ってねぇでよ。こっちの喧嘩を買おうや。そんな度胸すら異界に忘れてきちまったか?」


「てめぇはもう黙れ!!」


スラヴさんの道化た振舞いでなんとか笑って流せる雰囲気を保っているものの、クルードさんの安い挑発は止まらない―――


「はぁ……何ビビってんだよ。コッチは”従士”だぜ。しかも新卒の十五。手前等いくつだよ…?流石に俺より年上ってこたぁねぇよな?未だに童貞か?コイツはもうウチの娘と一つ屋根の下、色々と経験豊富だがよ……そっちの勝負じゃねぇから安心しろよ」


夜の『鹿鳴』で下世話な冗談を飛ばすような声で。

否定するのも馬鹿馬鹿しいふざけた煽り文句で。

それでも、時折僕に投げかけるその目は、真剣なもので。



はぁ……なんでこんなことに?



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



なんでこんな馬鹿なことを?


んなもん決まってる。



『私は、戦わない』


そう言い放ったバカ娘の顔を思い出す。

甘やかし過ぎた結果だ。


『育て方を間違えた』なんて言える程、親らしいことなんざした記憶もねぇが…。


それでも、これまで人の親として必死に働いて来た。

それは探索者としての頃よりも、商店主としての方がずっとだ。


探索者ってのは単純だった。

生き抜いて、狩る。

それだけだ。


だが”従民”に落ちてからはどうだ?

頭を下げ、ごまをすり、無い頭を使って、つまらねぇ話に付き合って、帳簿の辻褄を合わせ、端金をかき集め、値切り文句に歯を食いしばり、愛想笑いを浮かべ、昨日の約束をひっくり返され、明日の不渡りに怯えて、義理だの顔だの古い恩だのに縛られて、それでも“お得意様”と呼ばにゃならねぇ。


それまで任せっきりだった子供の世話だって、まだまだチビだ。やってやらなきゃいけねぇ。

しょんべんの臭いで起こされた日には、イラつき過ぎて仕事も失敗した。


近所の従民共の嫉妬や顰蹙や反感を買わねぇように振舞い、古い知り合いやら探索者共には舐められねぇように狩りも続けた。……それが気晴らしだったことも否定はしねぇが。


だが、そんな日々を耐え抜いてなお、結局この街を支配しているのは権力(ちから)で、ちょいと機嫌を損ねられりゃそこで終わる。それを撥ね退けるのに必要なのも、落ちぶれた先に必要になるのも、そこから這い上がるのに必要なのも、結局は暴力(ちから)だ。


生きることは戦うことだ。

それは従民になったからといって変わらねぇ。

むしろ従民だからこそ、たかがしれていようが、最期に嚙みつく気概と力を持ち合わせてなきゃならねぇ。


そんな当たり前のことを、

護ることに必死でいつの間にか忘れていた大前提を、

この数カ月で思い出したんだ。



――― ――― ――― 



『で、どうすんだよ。腰抜け共。使う前に抜けちまってる腰じゃ立たねぇか?それとも勃たねぇのか?』


この台詞が決め手になった。

”騎士”の野郎が、自慢の一本竿をおっ立ててやがる。

っと、いけねぇいけねぇ。

頭ん中までんなこと考えてたら『鹿鳴』店主の名が泣くぜ。


「『加護』『装備』『職能』いずれも制限無しだ。いいな」


仕切りはスラヴのジイさんが買って出てくれた。

この人には悪いことをした―――なんて、少っっっっっしも思わねぇ。

仲裁する振りしてニヤけてやがったのを、この目でしっかり見てる。

お道化た風なんかじゃなく、ちゃんと、つかこの場の誰よりも無責任に、この事態を楽しんでいる爺だ。


「わかってらぁ!」

「……大丈夫です」


全身鎧の『てつのよろい』を身に纏い、自慢の『てつのやり(一本竿)』を昂らせた”騎士”に対して、ウチの従業員は買ったばっかの『ぬののふく』に俺が”重機士”の時にも持ち歩くようにしてる予備の『ダガー』、そして使える職能は【道具】と【鑑定】だけという”従士”だ。


素の体格も頭一つ分は”騎士”のがデカい。


流石に『勝て』なんて言うつもりはねぇよ。

探索者同士の模擬戦闘では『加護』も『装備品』も『職能』も全て異界(ほんばん)想定の何でもアリで行われる。単なる”加護慣れ”や”採用試験”とは訳が違ぇ。


でもよ、ロウ。

いつまでもそんな恨みがましい目で見んなよ。

お前も納得したろ?

雇用条件の追加規約。


『私は、戦わない』


そう宣った、今も隣でぼーっと成り行きを見てるバカ娘と、お前自身を護りきれる強さを手に入れること。たったそれだけだ。


『致命的に心が弱い、そんな探索者としての適性の無さを見極められなかったアタシの責任だ』ステラさんはそう言って俺に頭を下げて、それを聞いて俺はお前を雇った。なにより恩師の頼みだったから。


だがあの懺悔の言葉は、裏を返せば、弱ぇのは心だけでお前の才能は、本気であの人が期待したホンモノってことだ。


バカ娘に育てちまった俺だが、その折れ曲がらねぇバカに育て上げたのもこの俺だ。


お前の根性、入れ直してやるよ。


少なくとも、お前自身とコイツをこの街の大前提から護りきれるくらいには。



「では、互いに五歩ずつ下がって―――『はじめ』と『そこまで』の合図は聞き逃すなよ。危なくなったら俺が割って入る。その時点で指示に従わなかった方を負けとする。いいな?」


「あぁ…!」


「わかりました」


『私は、戦わない』―――


……クソ。

この横顔。

アイツみたいな顔してアイツなら絶対に言わねぇコト抜かしやがって…。

その癖、絶対にその意思を曲げねぇってことだけは確信させる、その横顔。



「はじめ!」



もう、勘弁してくれ。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「ぐっ!」


「クソっ!」


「この!」


「っつぁあ!」


どういう流れか知らないけど、唐突に始まった闘いは、終始一方的だった。


声を上げているのも。


息を上げているのも。


一人だけ。


「なんだんだよ!お前ぇ!!!」


ほんとに、なんだんだろうね?

ロウじゃないみたい。

何で四つん這い?

ダガーは口に咥える武器じゃないよ?


「あ……っぶねぇ、ギリギリ過ぎんだろ」

「あぁ。その割に与えた反撃が弱すぎるし。危険と見返りが見合わな過ぎだ」

「まぁそもそも”従士”にんなもん期待すんなって話だが…」

「仕込んだのお前じゃねぇのかよ『紅熊』さんよ」

「あんな動き獣でもしねぇよ……ジイさん、悪ぃが化物の渾名はアイツのもんだ」

「いらねぇよ、んなもん」


お父さんと裸のお爺ちゃんが仲良さ気に話してる。

いいの?

隣の”狩猟士”さんと”地操士”さんに聞こえない?


「相手の攻撃は軽い!引き付けて刺せ!」

「いけぇ!!」


聞こえてない……まぁいっか。


右に左に上に下に。

自由自在にビュンビュンビュン。

誰にも止められない動き。


それは、うんと小さい頃。

一度だけ見た、お母さんを思い出させた。

踊ってるみたいな、そんな動き。


「反応、初動、思考、全てに於いて早過ぎる……どうなってんだアイツの頭」


「頭の回転が速いのは普段から知ってんだがな。戦闘脳にも応用が利くのな。―――にしても暢気なもんだな……圧倒的な地力の差に気付きもしねぇで」


「気付かず燥いでんのはアイツらだけだ。立ち合ってる本人はもう気付いてるよ。負けやしねぇが、勝てもしねぇってな」


「その小賢しさと諦めの早さが、落ちぶれてる原因じゃねぇのか」


「だから”重機士”様に喝を入れて欲しかったんだが?」


「もう手遅れだな。あの目じゃあよ。止めてやれよ」


うん。


偶に見掛ける死んだ目。

もう、お店に来なくなる目。

わたしと二人っきりになっちゃった時のお父さんの、目。


「はぁ……利用者減らしたかった訳じゃねぇんだけど…」


「……まぁ俺の所為でもある。やれるだけやってやるよ」


「はぁ……頼むぜ―――――――そこまで!!」


――― ――― ――― 


おわった。


良く分からないけど、お父さんがロウと”騎士”の人の健闘を讃えて、”狩猟士”の人も”地操士”の人もそれに感化されてる。


どうでもいい。

そんなことより、西と南の『瓜頭土竜』の食べ比べに『南蛮灰鴨』が待ってる。


晩御飯は何にしようか…………今日から料理もロウに教えてもらおう。


「おつかれ。晩御飯」


「ぇあ?……うん、おつかれ。買い物しながら献立考えようか」


楽しみ。


<つづく>


第十四話は21日には投稿できるよう頑張りたいと思います。

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