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耐え難いふしぎな魅力

ふたりのキャラを深堀りしようと思った

 いままでいろんな経験してきたじゃん? 異世界といえば中世ヨーロッパ風なスキーマでまず水車小屋にはいるじゃん? でも中はいかにもマタギが使うような笠に足袋にくくり罠だったじゃん?


 んで初見オジサンはかんっぜんにマタギスタイルあんど猟銃装備だったじゃん? 建物も文化要素もなにもかもがごちゃ混ぜになった世界でそーそー新しいものに出くわしはしないと思ってたのですよ。


 そしたら出会っちゃったよ。


「おーそーいえばなかったわ」


 中華風味のレストランである。なんでわかるのかってそりゃもう見た目よ。赤いもん。


 赤い看板に『狡兔死-走狗烹』って書いてある。これはどーみても中国語だね。


(……あれ)


 そーいえばって話。


(なんでみんな日本語なんだろう?)


 異世界用のことばとかないの? いやあっても困るけど。


「なにボサッとしてんだ、入るぞ」


「あ、はーい」


 何人かはすでに扉の奥に消えている。立ち止まったわたしにオジサンが声をかけ、赤い光を放つ空間へ手を招く。


(もうちょっとあちこち見たかったんだけど……まあいっか)


 人でにぎわう通りのなか、ひとりの美少女がまるく囲われた入口をくぐるのでした。






「すきな場所に腰掛けたまえ」


「とかいいつつ上座に座るな」


「単に入口からいちばん遠かっただけだよ。それともチャールズ、キミが上座におさまるかい?」


「今日は無礼講だ」


 まるいテーブルがあり、ついた順に座っていく。はじめにスパイクがウェイターらしきひととことばを交わし、彼の案内によりエントランスにつながる広い空間からさらに奥へと誘導されていった。


 一枚の壁とドアを隔て、その奥の部屋にわたしたちはいる。さっきの広いところと違い、ここは十人くらいは座れる大きなものが置かれていた。


「好きなものを頼んでくれ、今日はこちらの奢りだ」


「つまり、私の金か」


「とんでもない! キミがフラーを離れてる間こっちだって苦労したんだよ? ここでの食事代はちゃんと払わせてもらうさ」


 調子の良いことを言ってるけどなーんか信用できないなぁ。


(でもまあ、オジサンのオトモダチ? なんだしつまんなそうな、あ、えっとリッパなミュージアムをつくるくらいだし商才はあるかも)


 テーブルは中央部に別の段があって、それが自由にくるくる回せるようになっている。おおきなスペースにたくさんのお皿を乗せつつ、それを全員でシェアできるよう工夫されたいかにも中華っぽい仕掛けだ。


 とりあえず各々着席して、手元にあったメニューとにらめっこしてる傍らスパイクさんがどんどん注文を重ねていく。いやたったひとこと「いつもの」とだけ。


「常連なのか?」


「すこしばかり投資しててね。常連かどうかは疑わしいけど、ふつうの人より贅沢な食生活を送らせてもらってるよ。ああそうだ、例の酒をこちらの紳士に」


「かしこまりました」


 恭しく頭を下げたウェイターさんがそのまま部屋を後にし、ここにはわたしたちだけが残された。状況を確認して満足そうにうなずくと、スパイクはうたうようにノドを震わ立ち上がった。


「あらためて自己紹介をしよう。おいらはスパイク。チャールズの親友で、今は彼の邸宅を管理してる身分さ」


「今はミュージアムになっちまったけどな」


「そういうこと言うなって。案外わるくないぞ? おかげでいろんな商売に手を出すキッカケができたんだ。ここへの投資もそのひとつさ」


「そうなる前はただの浮浪者だったんだがな」


「それは言わない約束だろ? まあ確かにあのころはキミに助けられてばかりだったけど、あの時代に培ったツテがあるからこそ今があるんだ」


「懐かしいな、さいしょの出会いは借金取りに掴まってるおまえを助けたことか」


「残念な思い出だ。あの程度の連中どうにでもできたのに、キミが現れたせいで台無しになってしまったんだよ」


「ほう? では目隠し猿轡亀甲縛りからどうやって切り抜けるつもりだったんだ?」


「おいらにはマジシャンの知り合いがいてね?」


(……なにこれ)


 ふたりで盛り上がってるとこ悪いんだけど知らない側としてはなーんも言えない。っていう雰囲気に気付いたのか、ふたりのオジサンはよそよそしくゴホンとひと呼吸。


「長いことフラーに滞在してるから、わからない事があれば何でも聞くといい。なんだったら仕事の工面もしてあげるよ」


 それは助かる。でもこんな大都会で狩猟スキルがお役立ちになることあるかな?


「まだまだ語り足りないが、それは食事の席で快楽を味わいつつ進めよう。さあキミの番だよカール」


「……カールだ」


(えっ)


 そんだけ?


(くってるし)


 せめて顔みせて言えと。もくもくともしゃもしゃしてる。フォローを入れるかのように親切で饒舌なスパイクが口を開く。


「彼は寡黙なんだよ。あまり語りたがらないことろも魅力的だと思わないか?」


「フッ、となりにおしゃべりがいるぶんキャラが引き立つな」


「演説なら任せてくれ」


「はいはいはーいしつもんがあります!」


「いいね、なんでもどうぞ?」


 そっちじゃねえし。


「カールさん。あなたは異世界人ですか?」


「……ああ」


「いつこっちにきたの?」


「おぼえてない」


「だいたいでいいから!」


「……半年くらい、前」


「なんでようじんぼーになったの?」


「できることが、それくらいしかない」


「年齢は? 身長体重好きなタイプは?」


 ずいずい突っ込んだ質問をしてみる。するとおとなりのほうから少年少女の呆れた声が聞こえてきました。


「なあ、これいつまで続くんだ?」


「グレースの気が済むまでだな」


「じゃ、グレースのぶんまでオレたちで食っちまおうぜ」


「ああ! それはダメ!」


「おまえたち大人しくしないか……さあ、本日の楽しみがやってきたぞ」


 おお、ってことはおいしいごはんタイム!?


(って、ん?)


 ビンいっぽんにグラスがふたつ。おいこらオッサンどもこんなとこでもアルコールか。まだ夜まで遠いのに酒場までガマンできんのか。


 オジサンいわく、お酒には耐え難いふしぎな魅力があるそうな。そこまで好きならいっそお酒つくる仕事すればいいのに。


「さぁてチャールズ、ここを訪れたからにはコイツをいただかなくてはな?」


「おぉ、久しぶりだ」


 どんなブツなのかご存知のようで、オジサンはテーブルに置かれたそれを早速手にとり、フタを開け、ふたつのグラスに注いだ。


「再会と新たな仲間に」


「乾杯」


 グラスを突き合わせ、カランと軽い音とともに液体をノドの奥に流し込んでいく。そして、ふたりは上機嫌のまま顔を紅潮させていった。


「くぅ~相変わらずつよい!」


(――なんだろう、オジサンと街で食事するたびこの光景しか見てない気がする)


 新たな料理が運ばれるまでの間、わたしはことばにできない悶々とした気持ちのままはんぶんほど残ったビンの中身を眺めていた。

飲んだら呑むな、呑むなら乗るな


この世界にジムニーはありません

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