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用心棒のおしごと

今まで詳細なキャラクター描写が少なかったなぁと思って

 ワイルドイケメンっていうの? ちょっとキケンな香りしつつも目を離せない魅力みたいな?


 筋肉マシマシとかじゃなく、だけどあっちの少年のようなスリムさじゃない。しっかり引き締まった筋肉が服の上からもハッキリしてるし。でも気になることがひとつ。


(なんでスーツ?)


 格式高そうなツヤツヤ。ネクタイもぴしっと締めてこれから戦いますって雰囲気には見えない。乗り込んできた連中といい、この街(フラー)では当たり前のスタイルなのかな?


「税金徴収人でもなければ偉そうに金をせびらないほうがいい。大ケガすることになるぞ」


 階段を降りてこっちとあっちの間に陣取って、ギロリ。そんな擬音が聞こえるような視線が彼らに注がれる。


「ふ、ふん! たかがひとり現れたくらいでこの人数をどうこうできるはずないだろう!」


「……だそうだが?」


 スーツ姿のイケメンが依頼主に振りかえる。


「依頼料ぶんの働きを期待してるよ」


「わかった」


「スパイク」


「いいんだチャールズ。彼ひとりいればこの程度造作もない」


「ハッタリだ! やってしまえ!」


 それが合図になった。


 拳を振り上げるヤツ、隠し持ってた武器をブン回すヤツ、背後に回り込むヤツとまあそれぞれ考えてる。こういう時は距離とってひとりずつ相手したほうがいいんだけど、颯爽と現れたワイルドイケメンはなに言わぬ顔で佇んでいて――。


(あっ)


 両手を顔付近に、上身をやや屈めてヒットゾーンを狭めフットワークを軽くする。これはまごうことなきボクシングスタイルでは?


「フッ――ッ!」


 まず正面の男にイッパツ。続けて武器持ちくんにはそれを振らせてカウンター。うしろのヤツはほっといて前進ダッシュからのワンツー。


 一瞬で三人撃沈である。


「え?」


「へぇ、やるじゃん」


 両手を後頭部にくっつけとく少年。そしてやっと気づいたかグウェンちゃんよ。


「シュッ」


 ことばをしゃべるってよか腹筋に力を入れた結果の発声。そのままボーっとしてたヤツへハラパン。崩れる姿を見送るまでもなく近くのヤツに一撃必殺のアッパーカット。さいごに回り込んでたセコいのに近づいて顔面パンチ。


 はいいっちょあがり。だいたい倒れるか崩れるかしたところで、残るはヒョロっとした口だけ達者な彼のみが残りました。


「どうだい? ミュージアムの備品に傷ひとつ付けてないだろ?」


 得意げにスパイクが語る。いやおまえなんもしとらんでしょ。


「まだやるか?」


 イケボ! 健康的に日焼けした顔が日差しに照らされ、見るものを恐怖させるような眼光で貫く。黒い瞳、茶色の眼。スポーティな短髪。めっちゃ威圧感バツグンである。そんなお方に凄まれたらそりゃもう答えはひとつでしょ。


「ぁ、ぇ……こ、こんなことしてただで済むと思ってるのカァ!」


(お、すごい耐えた)


 個人的には裸足で逃げ出すに一票だったんだけど。っていうか実は動けない?


「それは依頼主に聞け。自分はただ役割をこなすだけだ」


 余計なことばはいらない。それを態度で示すため、彼は拳をにぎり今にもチビりそうな細身の男に突き出した。


 風で男の髪の毛がブワッてなった。これはもう勝負アリだね。


「ゆ、ゆるされないぞ! ぜったい、ぜったい許されないぞ! 覚えてろよ!」


「あーあーいかにも三下みたいなセリフ残しやがって」


 玄関先で逃げ出す男を見送ったスプリットくんのつぶやき。そのほか、復活した筋肉たちが次々と走り去っていく中、サっちゃんがひとりの男性に「なあ、そのカラダどーやって鍛えたんだ!」と眼ぇ輝かせてたんだけど無視された模様。どんまい。


「久しぶりの再会だというのにゴタついて申し訳なかった」


「いや、むしろいい退屈しのぎになった」


「……あの」


 オジサンが旧友との仲を確かめてる間、ようやっとやってきたグウェンちゃんがこちらに近づくのを拒否ってる。理由はかんたん。近くになんかちょっとコワいオトコの人がいるからだ。


「ああ、怖がらせてしまってすまない。自分のことは気にしないでくれ」


 空間にめっちゃ響くテノールボイス。それでいて主張は控えめに心からの気遣いが込められている。うちのうるさい少年とオッサンに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわぁ。


(グウェンちゃんから顔を逸らしてる……きっと自分の"コワいかお"を見せないようにしてるんだ)


 慣れっこなんだね。


「これでぜんぶか?」


「ああ。だけど契約は今日の日暮れまでだからそれまで頼むよ。彼らが懲りずにまたやってくるかもしれないし……そうだ! チャールズが帰ってきたしキミたちのことも知りたい。今夜はみなで会食といこうじゃないか」


「マジで!?」


 タダメシ食えるの!? やったぜ!


「チャールズ。この通りにあったレストランを覚えてるかい? 店主がビジネスに成功していまは王城前に店を構えてるんだよ。そうと決まれば直行しよう、もちろんこちらの奢りでね」


「ほう、あの職人気質な店主がよくそこまで。誘いとあれば受けぬわけにもいかんな」


「ただめしただめし!」


「グレース落ち着け」


「いいじゃねーかビシェル。大都会のメシはどんなんだろうな? ウマい鶏肉はあるかい?」


「なんでもあるさ。鶏肉牛肉、豚に羊に馬肉だってフラーにないものは無い。さあカール、キミもだよ」


「いえ、自分はただの用心棒で――」


 カールと呼ばれたその人は遠慮気味だ。


「そうさ、依頼人の護衛が仕事だろ? ならキミもついてこなきゃダメだよね?」


 これも契約のうちだよ。スパイクはさいごにそんなことばで彼の心を溶かしていった。


「……それなら」


「よーし決まりだ。本日は店じまいにして街に繰り出そう」


 すでに客がいなくなった空間にて、スパイクは営業終了を宣言した。

ちゃんとモデルがあるんだよ。まあ、あの人は他の子も飼ってたけどね

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