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ミュージアムの特別料金

数年経てば自分の持ち家を勝手にリノベーションされることくらいあるよ

「まずは自己紹介させてくれ。チャールズの別邸の管理を任されているスパイクという者だ」


 自らの胸に手を当て、その人は堂々とした態度で名を明かした。


「スパイクよぉ、これはいったいどういうことだ?」


 オジサンが思わず呆れた声になる。そこには旅の仲間に向けられるものと違う色があった。


 変わり果てたらしい別邸の姿を仰ぐ。見たかんじはふつーのたてもの? 木造で三階まであるひろくて大きい別邸だ。問題はその様式である。


(あかい)


 ちょーぜつ赤い。しっかりした赤色だ。


(中華風でいいのかな? とびらも赤けりゃはしらも赤い)


 たとえば中国拳法の映画に出てくるような? ちょっといいお家の玄関先のような雰囲気がある。ここらで上半身裸のだれかさんがアチョーって型の修行してればまさにソレだったんだけどな。


 残念ながらおりません。その代わり、わずかに見えるスキマからは、主にご年配の人たちが室内にたむろしているようです。


 オジサンは赤々しい外観ではなく行き交う人々に対して質問しているようだった。


「それはさっき話したとおりだよ。邸宅の一階部分をキミをテーマにしたミュージアムにリノベーションしたのさ!」


 本人からしたら"キマッてる"風味のダサい動作で軽々しい声をノド奥から出してる。うちの中年が眉間にシワ寄せてうんうん唸っております。


「そんなことしなくても、この邸宅は王から授かったもので大した維持費はかからないと聞いてるのだが」


 オジサンがさらっととんでもないこと言った気がする。


「まあたしかにそうかもね。でも、これほどご立派な屋敷を持て余すなんてもったいないだろう? 歴史に名を残す活躍の褒章としていただいたものなら、その偉業を後世に伝えるため活用するのも手じゃないか? ――ただ維持費を浪費するだけの大木にはしたくないだろう?」


 単語をひとつ言うたびにひとつの動作を挟んでくる。なにこいつめんどくさいんだけど。


「立ち話なんてもったいない。ぜひ腰を据えて長旅の土産話を聞かせてくれよ」


 言い終わる前に手招き、そして自分からさっさとオジサンの別邸の中に入ってく自分勝手ぶりである。こっちのだれひとり口をはさむ隙を与えようとしないの、あの人コミュニケーション能力ないのかな?


 扉の向こうに消えてしまったスパイクを見つめ、キミ呼ばわりされたオジサンは積年の記憶をため息で表現した。


「そういやこんなヤツだった……ようこそ我が家へ」


 地面を引きずるように歩き出した。それにみんなも続いて、赤い扉の向こう側に足を踏み入れる。その内部は色調はある程度薄くなっているものの、やっぱり赤みがかった雰囲気があるいかにも中国な様相――と思いきや。


「うぇ、なにこれ」


 正面にドーンと佇むは決めポーズに精を出す像。モデルはもちろんこの邸宅の主である。となりでこの日なんどめかわからないため息が漏れた。


「どうだい! キミの偉業を知らしめるにはまだ物足りないだろうけど」


「……ああ、ステキだな」


「オジサン、そういうのははっきり言ったほうがいいよ?」


「だっさ!」


 しおしおになった中年に代わり少年が意見書を提出しました。


「うーん子どもにはまだ彼の魅力が伝わらないようだね。しかし安心したまえ、ここにはまだ色とりどりの資料が安置されているのだよ」


「この絵画のことか? ――なんとも言えんな」


 すらっと長身まるでエルフのようなエルフとともに暮らしてたおねーさんが申しております。


「ああそれもそうだが、彼の功績はこちらのリストで示されているよ」


 と手をひろげた先にはながーい紙? みたいなのに文字が並んでる。えーとなになに? じゅうにさい、しかんがっこうにゅうがく……がっこう?


「輝かしい彼の履歴だよ。貴族でもない彼がここまで出生を果たしたのは彼の類まれなる戦士としての力量と、王にすら臆さず噛みつく反骨精神によるものだ」


「若かっただけだ。ったく、こんなものまで展示してるのか」


「まだ足りないくらいだ。そうそう、キミがあの時身につけていた装備もこっちにあるんだよ」


「おい! それは大事なものだから勝手にいじるなとあれほど――」


 オッサンふたりが口ゲンカ。彼がミュージアムと言ったように、ここにはいろんなものが展示されているみたいだ。ってことはオジサンの恥ずかしいあれこれもせきらら大公表? まあどうでもいっか。


「ねえオジサン、この好きな女の子に告白してビンタされて士官学校内で有名になったってほんと?」


「はぁ!?」


 今まで見たことのないようなうろたえっぷりである。


「そんなワケないだろ! あれはあのオンナが勝手に――」


「女性をワルモノにするわけにいかないだろう?」


 大慌てで否定する髭面オジサンに優男オジサンが待ったをかける。


「たしかにここに書いてある話の流れは逆だが、恋する乙女を泣かせたとあってはヒーローの名折れさ」


「えっ! ってことはオジサンおんなの人にビンタしたの!?」


「ちがう! あっちが勝手に言い寄ってきただけだ。そしたら、なんか急に泣かれて、次の瞬間には鬼の形相で――」


(……あー)


 なるほどそういうこと。


「フッ、罪づくりな男だねキミも」


「いい加減にしろ。それより聞きたいことがある」


「なんだ?」


「ヤツらは何者だ?」


 視線を向けず、方向を示さず、オジサンは首ふりだけで窓の外を示唆した。ふと見れば、じっちゃんばっちゃんが中心の空間にふさわしくない大柄でぶすっとした顔の男性がさん、しー……ろくにんいる。


 すでにビーちゃんとスプリットくんはその存在に気づき、サっちゃんもどことなく警戒してる風だ。


(って、ん? もしかして気づいてなかったのわたしだけ?)


 展示品に夢中になってるグウェンちゃんは除く。ってまじで? 興味あるの?


「ああ、彼らもお客さんだよ」


 言いつつそうじゃなさそうな雰囲気。まいったなーって感じで肩を竦める。


「ただまあ、残念なことに彼らはミュージアムの入場料ではなく別の料金を払いたがってるようだけど」


「べつの?」


「土地の権利書を買い取るための料金だよ」


 まるでそのタイミングを待っていたかのように、鋭い目つきのヤローどもが続々とミュージアムの見学に訪れるのでした。

おやさしめの料金設定でおねがいします

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