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シュナウザー

直球ど真ん中ストレート

 おわかれって望んでなくても来ちゃうものだよね。


 サーカス団のみんなと同じ屋根の下で過ごし、同じカマのメシを食べて、今はすべてのテントを畳んで出立の準備をすすめている。


 一番大きかったそれは何枚もの布に分割して、複数にまとめて荷台に乗せていく。それを馬みたいなモンスターに引かせてつぎの町まで運んでいくらしい。ぜんぶまとめると長々とした列になって、ここから見るといちばん向こうのひとがとても小さく見えた。


「あんただけには教えてやるよ。実はね、あたいの名前うそっぱちなんだ」


「うそ? ほんとうの名前じゃないってこと?」


 それぞれが仲良くなった人とさいごのあいさつをしている。とくに人だかりができてるのはサっちゃんで、立派なにの腕で団員さんたちを持ち上げたり投げたり、それで投げられた人が木の上に着地したり飛び降り立ち。なんだってあんなキケンなことするかなぁ。


 シルクハットにめちゃ迫られてるオジサンに目を向けつつ、わたしはカニシュとふたりだけの空間を共有してるのですが、その時に言われたのがさきほどの言葉です。


「じゃあほんとうの名前はなに?」


「こんど会ったときに教えてやるよ。会えたらね」


「ゼッタイだよ!」


「ん? なんだいそのゆびは」


「ゆびきり。ウソついたらハリセンボン飲ませるからねー」


「はは、おーけー。でもあたいだけペナルティありじゃ不公平だね。よし、じゃあ再会までにそのブローチをどっかにやってたらいっしょに舞台に立ってもらおうか」


 そう言って、おねーさんはわたしの小指に小指を重ねた。


 サーカス団はヒガシミョー方面。わたしたちは首都に向かう。彼らの背中を見送ったあと、オジサンはこちらに意味深な笑みを浮かべるのだった。


「あの異世界人と仲良くなれたんだな?」


「うん。なんどもゆーけどすっごくいい人だったよ」


「うっそだぁ、なんかいけすかねーオンナだったぜ」


 個人的高評価にぶーぶーいうヤツがひとり。


「そんなことないよ! だってオトモダチだもん」


「個人の感想は人それぞれとして、目的地まであと少しだ。今日はずっと歩き通していくぞ」


「おー!」


 オジサンの言葉どおり、つぎの町まではずっと歩きつづけて、いっかい野宿をしただけでたどり着くことができた。だんだん慣れてきたのか、グウェンちゃんは疲れた様子を見せることなくついてこれたし、なんだったらスプリットくん以上にお料理の準備とかいろいろ手伝ってくれた。


 くりっとした少女にかわいさだけでなく頼もしさまでチラリしてきたところで、いまではすっかりパーティーに馴染んでいる。ってことで、やってまいりました次の町。その名もなんだぁ?


「シュナウザー。とくにコレといった特徴がない町だ」


「オレもあんま記憶に残ってねーな。ふつーすぎて」


 だそうです。


「えーでもなにかあるでしょ? おいしいごはんとか食べ物とかデザートとか。ね? ビーちゃん」


「おまえはいつも食べ物のことばかり考えてるな。とはいえ、首都に近いのだから何かしら繁栄してる部分があるのでしょう?」


「んー……それがとくにないんだがな。強いて言えばそのふつうさ(・・・・)が最大の特徴かもしれん」


 町の入口をくぐり、建造物を見渡しながらオジサンは言った。


「経済も治安も比較的安定してる。この町で暮らすなら衣食住の心配はとくにないだろうし、ヒマをつぶせる市場もある。ああそうだ、この間サーカステントに泊めてもらったこともあるからストック(備蓄)はまだあるんだが、連日歩き通してきて疲れが溜まってるだろう。ここ数日はゆっくり過ごすつもりだが反論はあるかな?」


「めっそーもございますだいさんせいです」


「よし、じゃあ情報収集がてら酒場にでも行くかね!」


 とか言いつつニヤけてるのね。あれゼッタイお酒目当てだよずっといっしょに旅してきたわたしにはわかる。っていうかパーティーメンバーのみなみなさまが察しておられます。


「酒か」


 エルフ仕込みのおねーさんが冷たい眼差しを向けました。


「交流コストと呼んでくれ。っていうかおまえたちが呑めないのが悪いんだ私だって呑みトモがほしい」


「それより宿をさがすことを優先すべきでは?」


「いいんだよグウェン。彼の好きにさせてやりな」


「トゥーサさま」


「オトコには呑まなきゃやってらんない事情ってものがあるのさ。なあスプリット?」


「オレに聞くな」


 なあなあになってしまいましたが、とりあえずオジサンが先陣きって歩き出しちゃったのでそれに続く面々。その足の進む方向にはジョッキにあわあわな絵が掘られた看板がぶらさがっておりました。

旅の途中は酒呑めないからね、楽しみなんだよね

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