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あんさつしゃ!

正攻法じゃヤれないので変化球というか落下球を使います

 ってことで、えー今からオジサンの喉元をかっ切るためニンニンお忍びするわけですがー。


(……バレてるよね)


 だって目あ合ったもん。


 開始の合図とともに茂みに入り、あっちこっち移動するフリして物音たてまくって結局背後の木によじのぼって見下ろしてみたらですよ? やっぱそこかみたいな目で見られたのです。


 うん、作戦変更。


(プランBに移行する)


 そんなのないけど。


 そもそもプランAがないです。


(やっべーどうするかなー)


「どうした? さっさと隠れろ」


 業を煮やした風味の渋い声。いえいえもうすでに隠れてるつもりでございましたよこっちは。


 あ、でも遠くで「え? まだ隠れてないのか? どこにいるんだ?」って声が聞こえたからたぶんみんなにはバレてないと思う。とはいえ、相手は百戦錬磨らしいチャールズおじさん。武勇伝ばかり聞かされてるけど、わたしに隠密スキルを教えてくれたのはオジサンだし、剣や対弓兵の戦い方も知ってるんだからすごいよね。


(逃げるフリして動かないはバレるからやるな。教わったとーりの結果だよ、もう)


 しかたないなー、じゃあホンキで隠れますか。


 しゅん。


 わたしは気配を消した。


「ほう……物音一つしない。成長したな」


(褒めてくれた! うれしい!)


「ああ、そこか。褒められて集中を欠いたな?」


(がーん!)


「あの……チャールズさまは、さきほどからだれと話しているのでしょう?」


「グレースが近くにいるのだろう。おそらく近くにいるはずだ」


「いるはずって……いるのですか? あたしからは何も見えないのですが」


「それだけ隠れるのがウマいってことさ」


「スプリットの言うとおりだね。グレースがマジになりゃ、アタイらじゃ見ることも感じることもできないってことさ」


(はい、ただいまアナタ方の背後にまわっております)


 みなさんの出す雑音にまぎれて動くのです。にんにん!


(さーてオジサンを観察するぞー)


 いま、わたしはオジサンの正面からやや左手の位置にいる。前方は当たり前として、どちらかというと利き手側に気持ちが寄ってるかな?


 利き手と逆の方向には剣をそのまま振り抜けるけど、右手に武器を持ってたら右側に振るうことはできない。ムリな体勢を強いられる上力が入りにくく、だからこそそちらからの不意打ちには注意しなきゃいけない。


 オジサンに肉薄するには、完全に不意をついた上で最善の動きをしなきゃいけない。基本に忠実な背後からの一撃か、あえて左から責めてみるか。


(うーん、上からも捨てがたいけど反撃に対応できないからなー)


 オジサンはムリやり身体を逸らしたけど、トリさんでもない限り空中で体勢を変化させられないのです。ヤるとすれば枝を揺らさないように降りて、落下時の風を切る音すら消してかないと一巻の終わりでござる。


(ムリです☆)


 よし決めた。


 わたしは自分を消していく。身体も気配もなにもかも。ほんとはわーいと叫びたいけどそこはしっかり"待て"のサインだ。


 まってまって、たえてたえて、最後の瞬間だけおもいっきりわーいって言うんだ。


「なあ、ビシェル」


「なんだスプリット」


「本当に見つかんないのか。こういうの(隠れた獲物を仕留める)得意だろ?」


「まったくわからない。風の音に異常はないし、小動物が驚いくような気配もない。あるいは、エルフであれば何かに気づくかもしれないが」


「怖くなってキャンプに逃げちまったー、とかだったら笑えるな!」


「グレースがそんなことするかい!」


「イデッ!! くっそフザけんなよ! テメーのそれはシャレになんねーんだよ」


「はぁ……少し静かにしてくれないか? グレースの気配を辿れないではないか」


(はい、おかげさまでいー場所取りができました……って)


 良くない。だってここオジサンの頭上だもん。


(なんで木登りしちゃったしわたし!)


 なんていうか、クセ?


 ずっと憧れだったんだよねー木の上に登るの。まえは木登りニガテっていうかできなくてさー。せいぜい木に手をついて、先に登ってっちゃった子をうらやましそーに見つめるくらいしかできなくて。ねーどーやって登るの!? って言うことしかできなかったから。


(って、そんな記憶あったっけ?)


 うーんあまり思い出せない。


(いやいやいまはテスト中。うーんでもなんかなー)


 いーあんさつしゃになれるっていうひと言からはじまって、オジサンからはずーっとコソコソ隠れての戦いを教わってる。それはそれで狩りとかにお役立ちなんだけど、わたしはどっちかっていうとおもいいき動きたいっていうか、こうやって隠れてるとついつい叫びたくなるっていうか。でもおっきな音出すとオジサンにばれちゃうし――いや。


(いっそのことバレてもいーんじゃね?)


 っていうか、バレないようひっそりやろうとするからバレるんじゃね?


(……よし、これでいこう)


 ということで、スプリットくんには犠牲になってもらいましょう。

その喉首掻っ切ってやるよ!

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