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ケモノの本能はホンキになってから

コーフンするとさ、ついつい甘咬みがホンキ咬みになっちゃうよね

 抜き打ちテストってあるじゃん?


 がっこーのせんせ? よくわかんないけど、そういう人たちがいきなり「テストするぞー」って無理難題をつきつけるヤツ。


 オジサンね、たまにそういうことするタイプ。主にスプリットくんが犠牲者だけどたまーにこっちも被害をこうむる。本日はぜんいんだそうです。


「そんじゃ、まずは生意気な小僧のハナをくじくとするか」


「へっ、中年のヒザが立ってらんなくなっちまうかもしれねーよ?」


「態度は合格だ。ほれ武器をもってこい」


 見晴らしのいい丘の上。風がゆうゆう自適におよぐ世界で、ふたちの人間が武器を構えた。


 練習なのでどっちも模造刀ではありますが、この模造刀がけっこーいたい。だって木だもん、全力でぶったたかれたらふつーに痛いでしょ。


「コースは甘口、中辛激辛とあるがどれがいい?」


「いつでも激辛のくせによく言うぜ!」


 って言ってるあいだにはじまった。まずはスプリットくんが何回か打って、相手が打ち返したそれを避けもう一撃加える。まるでボクシングの練習みたいに一連の動きをこなしていく。


「じゃ、本番行くぜ!」


 いつもの型っぽい打ち合いを終えて、そこから実践モードにはいると熟練の戦士ってこういう動きするんだなーっていう感じになる。


 どんな攻撃も余裕で当たらない。ただ相手の動きを先読みして当たらないコースに身体をよせる。やってることはとんでもないんだけど、あまりに自然でゆっくり動くからすごさがぜんぜん伝わってこない。


「いつ見てもチャールズ殿の動きはすごいな」


 弓の弦を擦って順番をまつビーちゃんに、少女は無垢な瞳を向けた。


「そうなのですか?」


「達人、ということばがこれほど合致する人物はいないだろう」


「それだけじゃない。アタイのタックルを止められるパワーもあるんだぜ? 聞いたら「やり方があるんだよ」なんて言ってたが、アタイにはよくわからないね」


 素早さを活かしてアウトレンジから攻める。それが受け切られるとこんどは一気に接近して剣を振るい、鍔迫り合いになった。


「スキルを使っていいぞ」


「そんなことしたらよゆーで勝っちまうだろ」


「いいからやってみろ」


「ああそうかよ!」


 剣を離し、すかさず大斬りを炸裂させた。もちろん当たらないけど、その攻撃でオジサンは大きくうしろに身体を逸らして、そのスキにジャンプで距離をとり、スプリットくんはスキルを行使する。


「スキル、しゅんsおごお!」


「ちょ」


 スキル言うまえにこーげきするのルール違反でしょ! むかしからのジョーシキじゃん!


「スキルの弱点は発動するときいちいちクチにしなきゃいけないところだ」


 悶絶するスプリットくんに容赦ないことばを突きつける中年。慈悲はなし。


「使うなら、せめて言葉を唱える間安全を確保できる状況にしなければな――これは私が王国軍に所属していたころの話だが、異世界人はスキルに頼りすぎて基礎がなってないことで有名なんだ」


 ヒザをつきお腹を抑える少年に、ヒキョーモノも同じようにヒザを折って、耳元でこうささやくのだ。


「だから私は、異世界人を訓練するときは基礎を徹底的に仕込むと決めていたのだよ」


「ぅお、こ、こんにゃろぉ……」


「にしてもまだまだ味気ないな。おまえは速く動けるぶん、相手の攻撃に対してまずは足を使って対処する。が、方向も速度も一辺倒で、あの憎たらしい若造といっしょで動きが単純なんだよ」


「あー、わるかったな! 動きが単純でよ」


「うむ、さすが若者回復がはやい……さてそっちの訓練は終わり。次はこっちの訓練にも付き合ってもらうぞ」


「はぁ? いったいなんの話だよ」


「ちょっと使ってほしいスキルがあるんだが」


「また腹パンするつもりだろ!?」


 やや立ち上がり気味だったスプリットくんの身体が飛び跳ねた。


「ちがうちがう。あの変身するスキルを使って戦えってことだ」


 それを聞いた少年は困惑したような表情を見せる。


「いや……あれはオッサンでも何もできなくなるぜ?」


 たぶん、あの時のことを思い出してる。身体の深いところが燃え上がるように熱くなって、その熱が自分を飛び越えたときに生まれる光。感じたことのない感覚と見たことのない景色。あのスキル(トランスファー)を使うと身体がとても軽くなって、なんでもできそうな高揚感に包まれるんだ。


 たぶん、彼も同じ気持ちのはずだとおもう。でも、だめだ。


(足らない)


 ぜんぜん足らない。身体をアツくさせるなにか(・・・)が。


 やってやるんだ! って思えるようなきもちだ。


「構わん。むしろ今のままじゃ物足りなさすぎてあくびが出そうだ。おまえがあの姿になって全力で戦ったくらいが私にとってはちょうどいいレベルだよ」


「……言ったな? オッサン」


 後悔すんなよ。彼はそう言い残して距離を開けた。


「っへへ、オッサンの挑発のおかげでちょっとばかしその気になってきたぜ」


「そうか? 私は思ったことを正直に言っただけなのだがな」


 目の色を変えた少年に、中年は構えを見せた。


 戦う人の目になった。


「スキル変身(トランスファー)!」


 そして少年は吠えるようにそのことばを叫んで――さけんで。


 叫んだだけだった。


「……あれ」


 手を見て、なにも変わってないことを知って、なんとも言えない表情をする。


「うーん、むりじゃない?」


「グレース、スキルの発動になにか条件があるのか?」


「条件ってきかれるとわかんないけど、なんていうかゼッタイやっつけてやる! とか負けられないたたかいがあるんだ! とかそういう気持ちになったらいい、のかな?」


「なんだそのビミョーな言い回しは」


 となりで弓を背負った女性が肩をすくめた。


「だってそんな感じなんだもん!」


「つまりこの若造には闘争心が欠けてると、よしきた」


 ってな流れでことばはのんびりだった。


「んじゃちっとばかし地獄を見てもらおう」


 でも動きはぜんぜんのんびりじゃなかった。


「ッ!」


「えっ」


 ここにいるみんなが目をひろげて、じゃなくても口をあんぐりとして、とにかくびっくりした表情でその光景を見た。オジサンが一瞬で距離をつめて、自分の手を見つめたままのスプリットくんに刃を向けたからだ。


 明らかに殺気のこもった一撃だった。


「なんのマネだ!」


「訓練のつもりだと変身できないらしいな。ならここからは本番だ。油断したら死ぬぞ」


 言って、オジサンは胸に一撃、空振りした勢いで蹴りを、さらに身体を回転させもう一撃加える。


 対抗する少年は姿勢を逸らし、距離をとろうとして、けど密着したオジサンの攻勢に必死の形相でガードを固める。


「ほらほら、受けばかりじゃなく反撃してこい」


 それはムリだ。だってそんなスキなんかないもん。


「くぅ! シャレになんねぇ」


「練習のための練習をするな。事あるごとにそう教えてきたじゃないか? だったら今すぐにでも変身できる、いやできてくれ。でないと私自身の稽古にならんのだよ」


(オジサン……すごい)


 スプリットくんの俊敏さはこのパーティーいちばんだ。彼が本気になればオジサンだって追いつけない。


 でも、それはいっしょにかけっこした場合だ。ただステータスが優れてるから優れてるとは限らない。


 素早い動きは剣を突き出すための伏線。相手がどこにどう切り込んでくるかを知ってれば、どんなに素早くたって捕まえられてしまう。


「やはりチャールズ殿は強い。スプリットが次どう動くかを読んだ上で剣を振るから、彼は動くよりガードすることを優先せざるを得なくなる」


「ああ。アタイだったらムリにでも突進すればいいだろうが、華奢なカラダじゃどうすることもできないね」


「その発想自体アナタだけのものでしょ? トゥーサ」


「あ、あの、止めなくて良いのですか?」


 ギャラリー観衆が思い思いの感想を述べているとき、ひとりだけ色の異なる声があった。グウェンちゃんだ。


「うーん、いいんじゃない?」


「グレースさま、それでは彼がケガを」


「ヘーキだよ」


 回復役の僧侶(グウェンちゃん)がいるから、じゃなくて。


「あれたぶん手加減してるもん」


「てかげん!? アレでですか?」


 アレっていうね。うん、確かにアレだ。オジサンの目、マジで急所しか狙ってないもん。


 胴、胸、首、頭頂部。でもそれは、逆に言えば戦うとき気をつけなきゃいけない場所。そこをしっかりガードできていればこの戦いでケガをすることはない。


「オジサンの訓練ってゼツミョーだよね」


 わたしのことばに、ふたりはことばなく頷いた。


「そろそろじゃないか?」


 サっちゃんが楽しげな声で言った。それにつられて見てみると、オジサンの攻撃を読んだスプリットくんが懐にはいり剣を突き出したところだった。


 訓練用の剣だけど胸に刺さればとーぜん痛い。でもオジサンはそれを受け止めて、そうなることを知ってた少年は、受け止められたまま体重を乗せてジャンプした。


「っぶねー」


「私を踏み台にして離脱したか。それで、心はあたたまったかな?」


「先に手を出したのはそっちだかんな……後悔すんなよ?」


 彼の、やや青みがかった瞳に血の色が混じった。

キャラ同士の絡みをもっと書いていきたい

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