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ぜったいにゆるさない

一線を越えるなよ? フリじゃないぞゼッタイに超えるなよ!?

「ケッサクだぜ。まぁだビクついてやんの」


 命を殺めた。だけどまったくそんな気を感じさせない声色だった。


「よくできだ世界だなぁ。できすぎてて逆に気味ワリィよっと!」


 彼の身体が空中に跳ねる。その一瞬遅れて空気を裂く衝撃が走った。


「司教殿!」


 地に転がる身体に腕をまわして起こす。ビクン、ビクンと弾けるように動く。そのお腹にある傷の深さを確認し、悲壮な表情を見せ、すぐに険しい視線を跳び退いた男に向けた。


 教会に務める修道女も同じ気持ちだった。ことばにならない怒り。けど、猫背の男はそんなふたりを涼しい表情で見返した。


「ンだよ、なんかモンクあんのか?」


「なぜこのような所業をするのですか! アナタはいったい何者なのですか!?」


「なにものぉ? べつに、オレさまはこのゲームを楽しんでるだけだぜ?」


(あのひと――ゲームで人のいのちを弄ぶの?)


 そう思った瞬間、わたしの身体に熱いなにかが迸る。その熱につき動かされるまま、わたしは叫んだ。


「ひどいよ! ゲーム感覚で人を殺すなんて!」


「だからゲームだっつってんだろ!」


 彼は、この世界すべての命を否定した。


「よくできたAIだけど所詮はAIなんだよ。|想定されてないイベント《龍脈の水を飲む》ひとつでこのザマだ。もうちっと面白い反応してくれりゃあなぁ……まあ、アイツはこのゲームをめちゃくちゃにしてやるって息巻いてるが――ッ!」


 突然、男の身体に緊張が走る。そして、ただ暗い石壁しかない天井を見上げた。


「あーわぁったよ喋りすぎだな。じゃあそろそろオワリにすっか」


 途端、彼の気配が変わった。


「ッ! 来るぞスプリット」


「わかってる」


 武器を構えるふたりの前で、スナップと名乗った男は不敵に笑った。


「別の実験だ。PCをロストさせたらどうなるか――そこのガキ、とりあえず実験に付き合ってくれな?」


「へっ! さっきからワケわかんねーことベラベラ喋りやがって。来るなら来やがれってんだ!」


「ほざけ三下――スキル、俊足(スピード)


「スプリット!」


「スキル、俊足(しゅんそく)!」


 ふたりが消えた。


 スプリットくんがふたり見えた。


 あの男はさんにんに見えた。


 何もない空間に金属音が数回鳴り響いた。


「へえ、ザコのクセにやるじゃん」


「この前は不意打ちくらったけど今度はそうはいかねーぞ!」


「レベルアップしてリベンジってか? でもワリーな」


 彼の姿がごにんに増えた。


「これ負けイベなんだよ」


「させん!」


 オジサンが、何人にもなったふたりの間に割り込んでいく。一直線に走って、剣を突き立てて、そのさきにはガードした猫背の男がいる。


「長年のカンってやつか」


「ムダに年はとってないのでね」


「でも負けイベには変わりねーぜ? スキル、突風(ガスト)


「おあッ!!」


 閉鎖された部屋に突風が吹き荒れた。


 彼が突き出した手。そこから一陣の風が巻き起こってオジサンにぶつかったんだ。そして次に彼がとった行動は――。


「ヒャッハー!」


「チィ!」


 なだれのようにナイフを打ち込む。はじめのひとつはガードしても、次に繰り出してくるそれには反応が遅くなって、彼の身体から少しずつ赤いものが飛び散っていく。


「スプリットくん!」


 切り傷だらけの身体が壁にうち当たる。そして目の前にいる男は、引きつった笑みとまっしろでボサボサな髪の毛をなびかせて宣告する。


「しね」


 呼吸が浅くなる。


 胸の鼓動が高まる。


(――だめ)


 このままじゃスプリットくんが死んじゃう。


(イヤだ)


 そんなのイヤだ!


「スキル、変身(トランスファー)!」


「え、あ、はあ!?」


 身体から光が溢れ出す。それを目の当たりにした男がこちらを凝視して驚いた表情を見せた。でもいいの?


 うごきがとまったよ?


「イ"イ"ッ!!」


 刹那、わたしは彼の腹部に拳を叩き込んでいた。


 かまわない。そのまま押し込んで吹っ飛ばす。いやぶっ飛ばす。


「ぜったいにゆるさない!」


 キミは、わたしの大切なオトモダチ(アニスさん)の大切な人をころした。


 キミは、わたしの大切なオトモダチ(スプリットくん)の命を奪おうとした。


 ゆるさない。


「ぁ、ぅ……て、てめぇ、ソレはなんだ!?」


「あれ、まだ意識あったんだ」


 どうでもいいけど。


 わたしの姿が変化したことに驚いてるみたい。


「わんちゃんのかみさまがくれたんんだ」


 じぶんの手をにぎって、ひらいて、力を確かめる。


 たぶん、手加減しても彼を倒すことはできる。


 でもなんか、今は手加減できる自信がない。っていうかする気ないかも。


「! ――犬がこの世界にいる? それだけじゃなくテメーにその力を?」


「見た目がかわいいのはいいんだけど、こんな力もらったって何につかうんだろう? って今までずーっと考えてた。でも単純なことだったんだね」


 目の前にいる悪いヤツ(スナップ)をぶっ叩く。


 それなら大歓迎だ。


「悪い子にはおしおきが必要だよね」


「ッ!」


 武器とかいらないし、っていうかジャマ。直接殴るのがいちばんキモチイイ。


 手に力を込めて、それをまっすぐに突き出して――。


 彼に着弾する前に、空間に悲鳴が響き渡った。


「きゃあ!」


「アニスさま!」


(ッ!? いまの声は――)


「アニスさん? それにグウェンちゃん!」


 彼女たちの目の前には、赤く綺羅びやかな衣装を身に包んだ触手が立っていた。


「な、なんだこれは!?」


「あぶない!」


 驚きつつ、男ふたりは彼女たちの安全のため走った。


「こっちだ!」


「ダメ、アニスさまが!!」


 オジサンが少女を担ぎ上げる。そしてスプリットくんがスキルを駆使してアニスさんの元へ向かったけど、敬虔な修道女は触手にすがるように駆け寄っていった。


「司教様! いったいどうされたのですか!」


「だめだ! そっちに行くな!!」


 少年の声を聞かず、彼女は蠢くナニカに距離を詰めていく。赤い服を着た、というよりその服に締め付けられたような太いウネウネ。そこから幾本もの触手が伸びていて、いくつかの先端からはナゾの液体が滲み出ている。


 それらが束をつくり、彼女のもとへ伸びた。


(間に合わない!!)


 そう思った瞬間、わたしの足が跳ねた。


「キャッ!」


「アニスさん!」


「離して! 司教様をおたすけしなければ!」


 彼女はそう言うけど、わたしにはアレ(・・)が人間だとは思えない。


「ごめん! でももうムリ」


「グレース!」


「アニスさま! おケガはありませんか!?」


「わたくしは大丈夫です。ですが――」


 目にしたものを信じられない。それでも、彼女はキュッと目を閉じて、開いて、振り向いた。


 司教だったソレ。さっきまで人の身体くらいの大きさでしかなかったのに、今は天井につくまで高く伸びていて、この部屋全体すら包みこんでしまいそうなほどおっきくなっている。


「なんだよ、コレ」


「わからん。だがほっとくわけにはいかんようだな」


 こちらの存在に気付いた触手の一本が先端を向ける。そこにある溝からおびただしい量の液体が溢れ出ていた。

勝利条件:司教の撃破

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