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えぬぴーしー

人でなく"もの"として見るようになったら、人はだれにでもこう対応するようになる

「逃がすか!」


 猫背の男はターゲットをこちらに向けた。その背後からオジサンが声を張り上げ剣を振るう。そのすべてを難なく避け、彼はまるめた背中をまっすぐに立てた。


「はぁぁ……もう当たらねーんだよ。攻め方がワンパターンだって親切に教えてくれたクソがいてよぉ? ちょっとは勉強したんだ、ぜ!」


 消える。動きを予測したオジサンはその方向に構える。けど、姿を表したのはまた別角度。


「グゥッ!」


「おじさん!」


「どうだクソジジイ? どっから攻めてくるか予想できるかァ?」


 また消えて、切りつけて、消える。そのたびにオジサンの装備にキズが増えていく。


「やめろこの猫背やろう!」


「ザコはすっこんでろ!」


 スプリットくんの加撃は呆気なく空を切り、逆に拳を叩き込まれて壁までふっとばされた。


「ガハッ!」


「ンだよ猫背ヤローって。こっちにゃスナップって名前がちゃんとあるんだけどォ? ああ、テメーはどうでもいいからザコでいーぜ」


「ぐっ、くそぉ」


「スプリットくん!」


 俊足(スキル)を使わなくったってスプリットくんはとっても速いのに、それでも彼の――スナップと名乗ったあの男に切っ先すら向けられない。


 オジサンはこれまでに培った戦いの勘でなんとか深手を免れてるけどいつ間違いがあるかわからない。わたしが戦いにはいったところでどうなるか、ううん、逆に足手まといになっちゃうかもしれない。


 だめだ、戦力差がありすぎる。


「もうやめてください!」


「アニスさん!」


 隠れていたアニスさんが駆け出し、彼らの間に割って入る。彼女の存在は予想外だったようで、スナップは目をまるくしてジッと凝視している。


「司教様、これはどういうことですか!」


 アニスさんが声を張り上げる。これまでにない怒気と悲しみが込められていた。


「これは民衆からの寄付によって購入できた小麦粉です! それだけでなく、ここには教会の姿勢にそぐわないような宝物(ほうもつ)ばかり。アナタはいったい何を考えているのですか!?」


「おお! アニス、アニスではないか!」


 うわごとを繰り返してた司教さん。彼は目の前に自身がよく知る修道女がいることに気づくと、死んだ魚のような目で射抜き、歩み寄り、両手で肩をもち笑顔を向けた。


「アニスさま!」


「ダメ! あぶないから!」


 たまらずグウェンちゃんも飛び出すも、わたしは咄嗟のタイミングで彼女の腕をつかんだ。


「はなして! あの人ぜったいおかしいよ!」


「それはわかってる! わかってるけど」


 司教。よくわかんないけど、教会からとくべつに名前がつけられてるんだからいい立場の人なんだってことはわかる。服装だってきらびやかだ。でも、今の彼には役職にふさわしいような雰囲気はまったく感じられなかった。


 唇がひきつり、瞳孔が開いたり閉じたりを繰り返し、口からはことばにならぬ声が常に漏れている。


 それはどんな笑顔だろう? 人はどういう時にこんな笑顔になるのだろう?


 わからない。そもそもコレは笑顔なの?


「神が見える! ああいま虹の端に燻製された神の羊が見えるぞ!」


「司教様……」


(ダメだ、アレ完全にイッてる)


 発狂したままにアニスさんの肩を揺すっている。手で、というより身体全体をガクガクさせて、それがそのままアニスさんに伝染してるようなかんじだ。


「司教様お気を確かに!」


 その手を振り払い、彼女は悲痛な表情を見せた。


「以前のあなたはこのような事をする人ではありませんでした。どうか神のご意思をもういちど受け止めてください」


「アニスよ、何を言っているのだ?」


 ギラついた服に身を包んだ彼が、ギラついた目を向けて破顔した。


「伝説のひのきのぼう、王冠にふさわしい雲の形は清く正しいナベのフタ、なんということだなんということだここにはすべてあるではないか!」


「しきょう、さま? いったいなにをおっしゃって……」


 絶句する少女。その様子を見ていた猫背の男は気だるそうに肩を落とした。


「カンドーの再会? ありがたい説教? いや知らねーけどそれ(司教)ならもう手遅れだとおもうぜ?」


「手遅れだと? いったいどういうことだ」


「なんだジジイ生きてたのか……ことばどーりの意味だよ。あーだりぃ」


 獲物を懐にしまいこみ、彼は地面に散らばった――司教が飲み干した液体が入っていたビンのカケラをひとつ取り上げ、それを弄びながらことばを続けた。。


「あいつに龍脈の水を飲ませた」


「バカな! そんなことをすれば彼の命は」


「それがよ、生きてるパターンもあるんだなぁコレが」


 あごでその例(司教)を示す。


「まあ実験ってやつだ。この世界の人間に通常であれば(・・・・・・)ありえない(・・・・・)イベント(・・・・)を体験させてどうなるか。まあオレさまにとっちゃエヌピーシーがどうなろうが構わねえし興味もねーが」


(えぬぴーしー?)


 それって。


「つーかこいつもうダメっぽいな」


「ああ!」


 アニスさんの嬌声が響いた。気づけば目の前に猫背の男が立っていて、痩せたようにゴツゴツした手で彼のアゴを強引にわし掴み、首筋や身体の各箇所をなにか確認する素振りを見せる。


「ちょっと前からよぉこいつに龍脈の水を飲ませ続けてたんだが……かんっぜんにマワッてるみてーだし……まあこのモルモット(実験材料)は廃棄だな」


 ゴミを見るような目。そして彼はゴミを処分した。


「司教様!!」


 スナップの手に握られたナイフが、赤い服を鮮血に染め上げていく。


 腹部を深々と突き立てている。それなのに、その身体の主は悲鳴も激痛に歪む表情も見せない。


 ただ恍惚とした笑顔のまま、痙攣する身体をそのままに横たえた。


「司教様! 司教様! ――なんてことを!」


 回復魔法を使うまでもない。だって、見ただけで彼が手遅れであることがわかっているのだから。

昔の実験は倫理規定が定められてなかったからね、イロイロできたんですよ

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