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暴飲暴食

舞台設定:龍脈や力の泉関連を整理

「すげー」


 そんなつぶやきがかれこれ十回は繰り返されてる。


 バーグに戻り、場所は例の酒場へ。夜の帳が下ろされて、星がチカチカはじけるころ()


 ふたつの大きいテーブルを独占した、異世界人とエルフ主体の団体客が店の食材を根こそぎ奪い去っていた。


「まだ食べるんですの? お腹は大丈夫なのですか?」

「なんと、これほどまで空腹だとは」


 主犯は新参異世界人の胃袋。

 というかほぼ単独犯?


「おかわり」

「まだ食うのか」


 サンダーさんが、もはや尊敬の色さえ入り混じった声を発した。


 洞窟探検から帰還し、待機組のあんずちゃん、ブッちゃん、ドロちんにニューカマーをご紹介。ぱっと見てわかるほどやせ細っていたので満場一致でメシ処へ。遠慮がちなハインくんに皆が「気にせず食べて」と言った趣旨の供述をし、目の前に食事が運び込まれた瞬間ハインくんの理性のタガが外れた。


 料理が出された瞬間からぺろり。グレースちゃんでさえそのペースはムリだわ。っていうかオジサンに「めっ」され続けてすっかりペースダウンしちゃったのよね。


 よそのお客さんまでマジマジ見てくるし。ベリーちゃんに至っては呆けた顔でハインくんのことを――ってあれ、なんかちょっと顔赤い?


「本当にこいつが龍脈を(まも)ってたの?」


 疑わしい視線。

 その主はドロちんで、視線の先にはビーちゃんがいる。


「ぜんぜんそんな風には見えないけど。そもそも、なんでマモノが龍脈を狙うのよ」

「わからない……元々、龍脈に乱れがあるとき、その周辺にマモノが出現するのだ」

「そんなの聞いたことないんだけど」

「エルフの間では有名な話だ」


 ドロちんの視線が懐疑から驚きと興味、双方入り混じったものに変貌した。


「へぇ。マモノとは、負の念を集め虚空より()ずる異形だと聞いたけど?」

「それは人間の――この世界の人間の解釈だな」

「違うっていうの?」


 ビーちゃんは少し言葉を整理してから話しはじめた。


「森にはたくさんの龍脈がある。場合によってはニンフからのお告げにより、その流れを調整するお役目を担うワケだが……龍脈に異変があるとき、必ずと言っていいほどマモノが出現するんだ」

「ほう?」


 ふと気づけば、ブッちゃんまでこちらの話に耳を傾けていた。


「割って入るようで悪いが、そこには何らかの関連性があるのだろうか?」

「わからない。マモノが龍脈の力に惹かれるのか、それとも龍脈に乱れがあるからマモノが出現するのか」

「前者はともかく後者はあり得ないわね。だったら何もない道端にマモノが出現する理由がわからないわ」

「ふむ……あるいは、何者かが意図してマモノを生み出していると」

「それこそあり得ないでしょ! だってそんな事をする理由がないもの」

(ふーん)


 それってつまり、理由があればやるヤツいるってことじゃね?


 それから熱い議論がはじまり、龍脈の流れに関する話や大陸の自然との関係性、マモノの存在意義にそもそもマモノってなに? などという探しても答えなさそーな問題まで繰り広げまして、その間わたしといえば意欲的に耳ピン立てからの眠気に襲われヒジをテーブルに固定。やがて「まだ食うのかよ」と引きつった笑顔持参のウェイトレスからおにくの盛り合わせをもらいつつ、それを平らげてなお会話に熱中する頭脳派三人組をぼぉーっと眺めております。


(飽きないのかな?)


 なんか話が各国の情勢にシフトしてるし。


 こちとらサッパリ「はひゃぁ~」って感じなのに、ドロちんってば逆に「これからがおもしろいところよ!」とでも言いたいがごとく瞳孔おっぴろげ。


(頭いーひとってどういう思考回路してんだろ)


 ドロちんもブッちゃんも研究熱心だし。

 学者肌ってこういうのばっかなのかなぁ。


(ちょっと頭の中見てみたいかも)


 物理的に。

 わたしは懐のナイフを握りしめってのはジョーダンです。


「そういうことだが……どうだグレース。そちらから何か意見はあるか?」

「え?」


 それはトートツすぎじゃないビシェルさん?


「バカに話振ってもわからないわよ」

(むむむ!)


 グレースちゃんの反骨心が有頂天に達した!


「わかるもん! マモノが龍脈囲んでエコノミックファイアしてワルツでしょ!」

「ほらね」

「なるほど、わかった」

「ねぇやめて! その憐れむような目ぇやめて!」


 ドロちんは平常運転だけどビーちゃんはやめて!


「それで、グレースたちはいつまで滞在するつもりなんだ?」


 ビーちゃんは憐れみアイのまま瞳に情けない美少女の姿を映し出した。


「うーん、明日いろいろ準備してだから、明後日に出る流れかな」


 足りないものを補充しなきゃだし。マモノの国に突入したことで、これまでの旅路と違うイベントが待ち受けてるかもしれない。バーグで揃えられるものは揃えとかないと、後でアレコレ困ることになっちゃうからね。


「そうか……では、明日まではいっしょにいられるんだな」

「ビーちゃんはどうするの? いっしょに行けないの?」


 尋ねられ、ビーちゃんはエルフふたりを振り返ってから言った。


「龍脈の様子を監視しなければならないんだ。それに、まだまだチェックしなければならない龍脈があってな。残念だがここでお別れだ」

「そっかー」


 ちぇーつまんないの。せっかく再会できたのにもうお別れか。


(んー、でもまあいっか)


 ビーちゃんが元気だってわかったんだもん。

 あ、でも最後に。


「むぎゅ」


 わたしはビーちゃんのおなかに抱きついた。


「っはは、グレースは甘えんぼうだな」


 言って、ビーちゃんはわたしの頭をなでる。

 なでりなでり、

 なでりなでり、

 やさしい手。

 なんか想いが膨れ上がって、わたしは腕に力を込めぴょんぴょんした。

 あたまのてっぺんにマシュマロの感覚。

 双峰がぷるんぷるん。


「こらっ、グレース」


 引き剥がされた。くそう。


「あのーお楽しみ中もーしわけないんだけどー」


 申しわけなさそーでない。どっちかってとすげーメーワクそーな声色がすぐ傍で聞こえた。


 ウェイトレスさんだ。


「出てってくんない?」


 営業スマイルナッシング。

 心遣いナッシング。

 ギラアギラたて長ピーチアイ。

 かわいいシッポがビタビタと地面を叩きつけております。


「いやぁいいねえおねーさん! その猛禽類みたいな瞳! もっと俺を震わせあぎゃふぉッ!」


 アルコール摂取により出来上がり(・・・・・)になっていたサンダーさん。その姿が一瞬にして消滅。ふと下を見ると、ウェイトレスさんのシッポの下敷きになった悲しきヤブ医者の抜け殻があった。


「食糧尽きかけてんのよ。このままじゃ閉店まで保たないどころか明日何も出せなくなっちゃうの。そしたらどーなると思う? 明日また狩りに行かなきゃいけなくなるの。休みだったのに」


 かろうじて口調はおだやか。

 しかしその心情やいかに?

 こたえは地面にあり。


「用事あったのに……ったくもう」

「行く」


 ベリーちゃんに見つめられつつ黙々ともぐもぐしてたハインくん。嘆き悲しむウェイトレスさんに対し、ふとそんな言葉を発した。


「世話になった。だから狩り、行く」

「え、いいの?」


 ウェイトレスさんが戸惑い顔。さらにあんずちゃんが声をかけた。


「ハインさん。いくらお店にご迷惑をかけたとはいえそこまでしなくてもいいのですわよ? ねえベリーさん?」

「ハインくん、いくの?」

「うん」

「じゃあ、ボクもいく」

「やった!」


 ウェイトレスさんによるガッツポ。戸惑いが歓喜のそれに進化し、シッポをビタンビタン地面い打ち付ける。そのたびに初老のおっちゃんがグエッ、とかやめっ、とかグボォ、みたいな音を腹から出してた。


「明日は予定通り休みね!」

「あのねぇ……ウチらが迷惑かけたのはわかるけど、客に仕事やらせるってどうなの」

「いーじゃない」


 ウェイトレスはふんぞりかえった。


「やると言ったのはそっちよ」

「まったく、魔族はみんなこうなのかしらね」


 言って、ドロちんは今なお地面にのめりこんでいく初老男子を憐れんだ。


 いや助けないの?

 わたしも助けないけど。

『ビーグル』Biegle

 イギリス原産の小型犬。嗅覚が鋭く、獲物を追跡しつつ、大勢で吠えたて追い込む狩猟犬。その優秀さから麻薬探知犬などで活躍活躍する。


小型言うて中型くらいにデカい。短毛のトライカラー(白・茶・黒)で細いシッポは長いとイギリスタイプ。温厚かつ陽キャ。とにかく鳴き声がうるさい。


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