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ハイン

あとがきに『犬種紹介』を掲載。

 洞窟の壁に腰掛けていたその人は、立ち上がりこちらを凝視している。


 デカい。


 ベリーちゃんといい勝負? 戦闘態勢にてこちらと対峙してるのでより威圧感マシマシ。武器を持ってないことからして、見た目通りフィジカルで押し通してくるタイプと見てまちがいない。


 その男が、動いた。


「ッ!」


 疾い。

 わたしはナイフを後ろ(・・)に投げた。


「ギャア!」

「そっちお願い!」


 男は返事をせず横に逸れ拳を振るう。わたしは振り返り、漆黒の霧と化していくマモノをすり抜け、拾いなおしたナイフを別のマモノに突き立てた。


 弾かれる。

 つよいタイプだ。


「スキル、変身(トランスファー)!」

「ッ!?」


 となりで驚いたような声がしたけど今はスルーの方向で。スキル行使後続けざまにマモノの胴体を分割。その断末魔をもって、この場は静寂を取り戻した。


「ふぅ……ありがとね!」

「ああ」


 変身解除しナゾのビッグマンに感謝を見上げた。彼は戸惑いつつも頬をポリポリと掻く。


(え?)


 接近したことで彼の姿がよりよく映る。

 ウデが細い。

 まるで何日も食べてないかのよう。

 掻いた頬もゲッソリだ。

 サイズ感に騙されて見落としてた。


(ベリーちゃんと同じパターンじゃね?)


 やや褐色の肌。ライオンのように広範囲に広がる髪は黒、黄、赤褐色などが入り混じり、炭鉱夫のような格好はやせ細った身体によりぶかぶかしてる。


 それはそれとしてなんか食わせねぇと危なくね。


(んもぅ、しかたないなー)


 わたしは在庫(インベントリ)を開き異空間をもぞもぞとまさぐる。意中の感触をつかみ引っ張り出し、掴まれたパンをひとつ彼に差し出した。


「はいこれ」

「ッ――食えるのか」


 疑い? 驚き? いろんな意味の視線をキャッチ。


「いーからどーぞ!」


 わたしを見下ろしていた彼は、少しの逡巡の末それを受け取り、まじまじと見つめ、口元へ運び、もそもそと咀嚼した。


「うまい」


 そっからはマッハよ。

 グレースちゃんのお口にゃさん噛みくらい。

 彼にはひと噛みで消滅。


(おくちもでけー)


「ねえねえ、おにーさんお名前なんていうの? わたしはグレースだよ!」

「おれは……ハイン」


 ベリーちゃんとおなじくらい穏やかでのんびりした口調。眼差しもやさしく、白目にあたる部分がライドブラウンに染まり、とても小さな黒い瞳がわたしの姿を鮮明に映し出していた。


「無事か!」


 その声に背後へ振り返ると、ビーちゃんが得物()を手にこちらへ駆け上がってきていた。


「ビーちゃん。うん平気だよ。ちょっとマモノが出たから退治してただけ」

「そうか……一人でこなすとはさすがだな。以前より強くなったんじゃないか?」

「そんなことないよー。ハインくんも助けてくれたし」

「ハイン?」


 言って、彼に気づきビーちゃんは背筋をピクリとさせた。反射的に矢をつがえようとして、事情を察し手の力を緩める。


「手助けしてくれたのか。私からも感謝の言葉を言わせてくれ」

「いや、いい。いつもやってることだから」


 そんなやりとりをしてるうちにエルフ魔術師とロリエルフ僧侶も到着。例によって見知らぬ巨人に緊張の色を走らせつつ、こちらから事情を説明して事なきを得た。


「そうだ、龍脈を見つけたんだよ」


 言いつつ、わたしは地面の光を指さした。


「本当か?」

「こんな短時間で……ビシェル。おまえの友は龍脈センサーでも搭載しているのか」

「かもな」


 それを認めたビーちゃんとエルフおふたりさま、早速と言わんばかりにゴソゴソと懐をまさぐり何かを取り出した。


(え、なにその機械)


 メカメカしいのですが?

 キミたちエルフさんだよね?

 森と共に生きる的なアレだよね?


(なぜ金属の箱なんて持ち運んでるし。しかもピッピッて緑の線あるし、え、なにこれ心電図検査?)


「ふむ……確かに、かすかではあるが波長が揺らいでいる」


 僧侶ロリエルフが難しい顔。すると、ハインくんが興味深そうに身を乗り出した。


「わかるのか?」

「人間が見てもわからん。それよりキサマは誰だ? なぜこんなところにいる?」


 純粋な興味のハインくんに対し、エルフのほうは穏やかでない視線を向けていた。


「龍脈に何をした? 場合によってはキサマを――」

「ま、まってまってまって! ハインくんそんな人じゃないから」


 むしろいっしょにマモノをやっつけてくれたナカーマですが?

 オトモダチ希望ですよろしくおねがいします。


「何物だ?」


 魔術師と僧侶。エルフ両サイドからの熱い視線。ハインくんはそれを交互に見つけ返し、視線をあちこちに向けてから答えを紡いだ。


「……わからない」

「わからないだと? ふざけているのか?」

「この人異世界人だから! 異世界人ってみんな記憶そーしつだから、ほら、ビーちゃんもそうじゃん!」


 ロリ僧侶がほぼ真上に視線をやりナゾの異世界人を睨みつける。


「それで?」

「気づいたら山の近くにいた。そうしたら、あの黒いヤツにおそわれた」

「マモノのこと?」

「まもの……たぶん、そうだ」


 少し考えてから彼は言った。


「どうぶつたちが襲われて、死んだ。だから止めようとした。マモノがたくさんいて、どうにかしなければと思った」

「なるほど、それでマモノの発生源を探っていたらここに行き当たったということか」

(なるほど)


 サッパリでしたわ。

 さすがビーちゃん察しが良くて助かるぅ!


「マモノはその水の近くから出てきた……水を止めればいいと思ったんだが」

「それは無理だ」


 それまで静観していた魔術師エルフが言い放った。


「龍脈はただの湧き水ではない。純粋なエネルギーが水という形をとっただけのこと。力の奔流そのものを止めることはできない」


 うーん?

 つまりなんだ?


「止めらんないってこと?」

「だからそう言っているだろう」


 魔術師エルフは呆れかえった。んもぅ、そんな顔しなくていーじゃんグレースちゃんいっしょーけんめい考えたよ?


「解析はどうだ」

「終わった。どうやらこの周辺の龍脈すべてに異常をきたしているらしい」

「なるほど……しばらくかかりそうだな。すまないビシェル」

「ああ、それで構わないさ」


 言って、ビーちゃんはダブルエルフから離れこちらに一歩近づいた。


「ということだ。しばし談笑に浸ることにしよう」

「ほんと? やった!」


 わたしはビーちゃんに抱きついた。

 と思ったらスラッとした腕に阻まれた。


「おさわり禁止だ」

「ぐぬぬ」

「しかしグレース。よく龍脈の位置に気付いたな」

「うーんまあ、カン? っていうか実体験かな?」

「実体験?」

「うん」


 わたしはいつぞやの記憶を蘇らせた。

 深い森の奥に隠された龍脈。

 その場所の匂い、気配、雰囲気。

 同じような気配を辿ったらここにいた。

 ま、こっちにはあの猫背ガリ野郎はいないけど。


「ああ」


 ビーちゃんも思い出したらしい。なつかしさと共に嫌悪感を顕にした表情になる。たぶん、わたしがイメージしたそれと同じ顔を思い出してるんだろう。


「まったく。一度龍脈の気配を体験しただけでここまでカンが鋭くなるとは――グレースは天才肌だな」

「えっへん! どうだすごいだろ!」

「そうだな」


 ビーちゃんはクスッと笑った。


「ところでところでハインくん!」


 頭を押さえつけられたのでビーちゃんとの接触は断念。そのかわり軽やかステップにて新キャラへ接近。


「オトモダチになりましょ!」


 シェイクハンド所望。

 ハインくんは首を傾げた。


「ん?」

「握手だよあ・く・しゅ! ほらお手して」

「ああ」


 スッと差し出される手。

 でけー。

 わたしの二倍くらいある。

 でもゴツゴツやせ細ってる。


「帰ったらたくさん食べないとね!」

「いや、おれはここでいい」

「え、なんで?」

「マモノが出る」


 彼は龍脈のほうを見た。


「放っておけばマモノが外に出て、どうぶつたちを殺す。それは、ダメだ」

「……やさしいんだね」


 身体はおっきーけど根はやさしいんだ。

 まるでベリーちゃんみたいだな――あれ。


「サンダーさんとベリーちゃんは?」

「おーい」


 思った瞬間声がする。ふと見ると、ベリーちゃんに肩車したサンダーさんの顔だけひょっこり。それからベリーちゃんがよいしょとよじ登ってこちらへ到着した。


「遅かったじゃん。どしたの?」

「かれが」


 ベリーちゃんが肩車中のおっちゃんを一瞥した。


「もーあるけなーいって言うから」

「ばか、それは言うなって言ったろうが」

「やっぱ足手まといだったじゃん」

「年配者をうやまえこのガキんちょ」

(むむむ!)


 ウレースちゃんガキじゃないもーん。

 ロリ魔術師と違って立派なおむねあるもーん。


 って言おうとしたんだけどビーちゃんのそれが圧倒的すぎたのでやめた。


「紹介しまーす。あたらしいオトモダチのハインくんです!」

「……ぇ」


 ニューカマーをお披露目した瞬間、ベリーちゃんは彼の身体を上から下、その後驚いたような表情になって駆け寄った。


 荷物は放り投げた。


「イダァ!」

「どうしたの?」


 サンダーさんそっちのけで、ベリーちゃんはハインくんの手を握り、その目をまじまじと見つめる。


「食べてないの? さむい? へーき? 助けが必要? これ食べる?」

(お?)


 ベリーちゃん猛アピール。言うなれば母親がだらしない子どもを起こして朝食食べさせて副脱がせて着せてリュック背負わせて玄関に連れてくみたいな、いわゆるひとつの母性全開みたいな?


「歩ける? ムリならボクが背負うよ」

「い、いや! いい、自分で歩ける」


 自分と同じ目線。たぶん、今まで経験なかったんだろう。その驚きといっしょに、ギラギラした熱視線を向けられたら誰だってびっくりするよね。


「いっしょに行こう。食べよう? ね?」

「い、いや、おれにはやるべき事が」

「ダメ」

(だれだ?)


 ベリーちゃんがぜんぜん違う人になってる。


「行くの」

「……」

(えっ)


 なんでこっち見るのさ。


(そんな助けを求められても)

「いずれにしても、もうここにいる必要はないと思うぞ」


 ハインくんの進退問題に結をつけたのは、そんなビーちゃんの言葉だった。


「龍脈の調整が済めば、もうここにマモノが出ることも無くなるからな」

「それってどういう――」

「よし、帰ろう」


 グイッ。

 巨体が巨体をひっぱった。


「いや、おれは自分の足であるけ、あっ」

「あっ」


 ベリーちゃんに引っ張らっれ、踏ん張って、ハインくんの足がつっかえた。


「え?」


 巨体がふたつ落下。

 着地点にヤブ医者。


「へぶぅ!?」


 カエルの潰れたような声。


「サンダーさーん。いきてるぅ?」

「……な、なんとか」


 巨体ふたつに尻もちされて、サンダーさんはそこから腕だけ伸ばし、親指を突き上げた。

レオンベルガー:Leonberger

 ドイツ原産の超大型犬。1830年代、ドイツの町『レオンベルク長:ハンリッヒ・エッシグ』により、町のシンボルであるライオンを目指し作出された。

 大きいオス個体は肩高80cmに届く。マズル(鼻先)部が黒く、首と胸にたてがみをもつ。水かきもあり泳ぎが得意――のはず。

 作業犬として活躍するほどエネルギッシュだが根はやさしく穏やか。


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