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つくるひととかいぞうするひと

盗みや暴力は悪いことだけどさー、そうさせちゃう側にも問題ありまくりじゃない?

「んもう、結局なーんにもお話できなかったじゃん」


 ひとりの美少女くノ一ニンジャが、夜闇に紛れて走っていた。


 独断に潜入任務を敢行した結果、捕獲対象と接見したものの成果は得られず、逆に囚われの美青年、いやマッチョマン? から拒否られる事態に。彼は彼なりの計画があるようです。


(ぜってー成功しないし)


 ティトさんは「イッパツおみまい」なんて息巻いてたけど、そうなる前に串刺しになるのがオチだよ。もしくは細切れ、あるいは蜂の巣。


(ぶっきらぼうで口も悪かったなー。まるでスプリットくんをそのままムキムキにした感じ――ぶふぅッ)


 想像しちゃった。スプリットくんに筋肉は似合わねーわ。少年は少年で引き締まった体格だけどモッコリはない。


 懐かしき少年のことは置いといて、今は向こう見ずな正義マンの処遇を考えよう。


(ティトさん、だっけ。たしか、メイスの演説中に子どもが石を投げちゃって、それを庇ったことで罪に問われた……どこが悪いの? それ)


 むしろ正義じゃね?

 悪い政治家相手なら石投げまくってよくね?

 いっそナイフでもげふんげふん。


「このままだとティっくんが危ない。みんなと相談しよう」


 わたしは軽やかに屋根を伝う。

 音もなく窓を開く。


 熟睡中のロリ魔術師が視界に入る。

 別のベッドには、今は青いローブを外し毛布の下に巨体を隠す僧侶。

 そして我がソウルメイトは――あっ。


「帰ってきましたのね」


 彼女は肌着姿でベッドに腰掛けていた。周囲を気遣った囁くような声色。


「起きてたの?」

「ちょっと。ふと見たら、グレースのベッドが空になってたので」


 やさしい音と表情。月明かりに映える彼女の顔は、いつもより母性に満ち溢れていた。


「ままー」

「いきなりなんですの?」


 いつもの顔になった。


「どこに行ってたの?」

「ティトさんを助けに。でもフラれちゃった」

「ティト――囚われた異世界人のことですか?」

「知ってるの?」


 あんずちゃんはただ頷き、わたしに横顔を向けた。


「防具屋の店主から聞きました。悪い政治家がこの町をメチャクチャにしだしたころ、それに対抗するようにとある義賊が現れたと」

「ぎぞく……盗賊さんのこと?」

「ええ。権力者から金銭や物品を盗み、それを今日を生きることさえままならぬ者たちに与える。盗みは罪ですが、わたくしは彼が悪人だとは思えません。グレースもそう思うでしょ?」

「そうだね。わたしもたまにやるし」

「ん?」

「あ、いやなんでもない」


 仕事人は沈黙こそ金なのだ。


「ティトさんの他にも、議会に反抗して税の支払いを断ったり教会に嘆願する方がいるそうです。暴動まで発展したこともあるそうですが」

「みんな必死だよねー」


 そりゃそうだ。わたしは布袋をチャリチャリ鳴らす。フラーで一週間働いて手に入る額が、ここでは十日働いても届かない。仕事によって稼ぎやすいものもあるんだけど、それらは結局なんらかの名目で巻き上げられる。そりゃ暴力的に訴えたくなるよ。


「盗みや暴力は悪いことだけどさー、そうさせちゃう側にも問題ありまくりじゃない?」

「あまり人に言っちゃダメですわよ」


 あんずちゃんは苦笑していた。


「それで、フラれたとは?」

「わざと捕まってるんだって。そんでイッパツかましたるって」

「言ってる意味がわかりませんのですけど?」


 そんな疑うような視線を送られても。


「わたしだってわかんないよ。でもこのままじゃ確実に殺されちゃう。何とかして助けないと」

「大丈夫ですの? 確か、処刑日はすぐそこまで迫っているのではなかったかしら」

「そうなんだよなー」


 お忍び衣装をとっかえひっかえ、わたしは熟睡モードに大変身。大親友の前なら素肌を晒すくらいお安い御用なのだ。


「グレース、もうちょっとデリカシーというものを」

「いーじゃん、ブッちゃんも寝てるし」

「そういう問題じゃぁ、まったく」


 ぶつくさ言いつつあんずちゃんも目をこする。それ、あまり目によくないんだよー。


「考えても詮無いことですわね。とにかく、今は機を待ちましょう」


 肌着のまま毛布に埋もれるあんずちゃん。テトヴォは暖かい町だからこれでも寒さを凌ぐことができる。ブッちゃんが宿の掃除をしてくれたおかげか、初日よりだいぶ休めるようになった気がする。


(それでも、まだ疲れが残ってる気がするけどね)


「おやすみなさい、グレース」

「おやすみー」


 宵に乗じて、ふたりの少女がささやかなことばを交わした。

 やがてその音も鳴りを潜め、沈黙が訪れるその瞬間まで、

 傍らのベッドで横になっていた小さな少女の目は、開かれていた。






「今回の騒動、本当にアンタが用意したイベント?」


 白が独占する空間。

 独りで立っていた。

 見渡す。

 この世界に干渉した異物を探すため。


 ここは自分の世界だ。すべて自分の思う通りに操れる。五感すらも例外でなく、この世界は常識に囚われてはいけない。


 視覚だけでなく聴覚、嗅覚、第六感も総動員してそいつを探す。


「ドロシー……キミ、凄すぎない?」

「気づくのが遅いわ」


 その犬は目の前に立っていた。

 いや、目の前に出現させ、立たせた。


「ここはウチの夢よ。出来ないことなんてないわ」

「直感的にそう思ってもここまでうまく操れないよ……もしかしたら、キミはボク以上の天才かもね」

「当たり前でしょ」


 挨拶代わりに火の玉をぶつける。

 それは黒い犬をすり抜けた。


「それで、この展開はアンタの仕業?」

「どういうことだい?」

「イベントにしちゃ今までと極端すぎるのよ。この町だけ給料低いわマッピングおかしいわ宿と武器屋も少ないわ。グレースたちの話も気になるし」

「仲間の会話を盗み聞きしてたのかい?」

「世界中を監視してるアンタに文句言われる筋合いはないわ」

「でも、キミは稼ぎ方を知ってるじゃないか」


 そこまで言って、犬は困ったように耳を動かした。


「あまりやりすぎないでね? ボクはこの世界の年齢層を大人向けにするつもりないし」

「グロもエロも見せるトコ見せなきゃセーフでしょ」

「それはわかるけど……キミのそれはちょっぴり危ないから」


 納得いかないならバンすればいいじゃない。

 犬は困ったようにしっぽを揺らした。


「んー、正直に言うと、ちょっと問題があってね」

(でしょうね)

「勝手にデータを弄る子がいるんだ」

(いい気味ね)

「いろいろ対応してるんだけど、やめてくれる気配がなくてね……だから修正パッチを当てたんだ」

「ほんとに修正できてるの?」

「たぶんね。ただひとつ問題があって」


 犬が消えた。

 現れた。

 さっきよりツヤがある。

 毛の一本いっぽんまで細かく描写されている。

 さっきと比べて、まるでひと世代進化したゲーム機みたいね。


「異世界人がひとり、パッチを当てる前に巻き込まれちゃったんだ」

「見た目なんてどーでもいいでしょ」

「こだわらせてよ」


 その場にペタンと座る。


「彼の処刑イベントは実際に行われる。彼に向けられる武器は実際に彼の体力を奪い、殺す。おそらく本当の意味でも」

「それって……」


 ウチは知ってる。この世界の真実を。

 ウチは知ってる。自分自身の正体を。


 こいつのことばが真実なら、本当の意味ということばを正しく解釈するなら、処刑イベントが執行さればその人の命は確実に消える。

 この世界を越えた世界で。


「それほどの横暴をなぜ許したの!」

「許さなかったさ。けど、相手のほうが上手(うわて)だった」

「あきれた! プログラマーがモッド制作者に負けてんじゃないわよ!」

「ごもっとも。それを修正するためのシナリオさ。だからお願いだ」


 犬の色が薄くなる。

 向こう側が透けて見える。


「待ちなさい!」

「ムダだよ。ここはキミの夢だからボクの見た目を自由自在に操れる。けどアクセス権まで操ることはできない」


 犬の姿が消滅し、声だけが白い空間に響き渡った。


「依頼を受けてほしい。そして彼を救い出してあげてくれ」

「……また好き勝手に言って、ちゃんと報酬用意してくれてるんでしょうね!」


 ウチはめちゃくちゃに魔法をぶちまけて、そして自らこの世界をシャットアウトした。

グレース「で、なんで起きてたの?」

あんず「ちょっと、ですわ」

グレース「えー教えてよ。もしかして大親友の到着を待ってた感じ? やだーもう照れちゃう!」

あんず「そういうワケじゃあ……」

グレース「え、じゃあなんで?」

あんず「その……おはなを、つみに」

グレース「なにそれ? ちゃんと教えてよねえねえお願いだから――」

あんず「便所ですわこれで満足できまして? ええ?」

グレース「なんかごめん」


さぁーてドロちんはナニしてるんスかねぇ。


★★★★★で評価するとグレースちゃんが何でもしてくれるってさ

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