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心境の変化

たまにゃゆっくりじっくりお話しよう

 風がしょっぱい。

 鼻腔をくすぐるその匂いをキャッチして、最初に浮かんだ感想がそれでした。


「あそこだね!」


 ぴょんぴょん跳ねるルームメイトが、視界に映ったそれを指さして顔をほころばせた。ブーラーさんは地図を広げて現在位置を確認する。たしかブーラーさんとドロシーさんはレブリエーロまでなら行ったことがあって、それより先は未知の領域なんだとか。


 わたくしはフラー近辺から動いたことがありません。異世界に連れてこられて、はじめこそ苦労しましたがすぐに人のいる場所へたどり着き、そこで人々と交流してフラーでお仕事をもらうことができました。そのお仕事も諸般の事情により辞することとなり、今は彼女たちと着の身着のままな旅路を歩んでいます。


 わたくし独りだけだったら挫けていたでしょう。でも、わたくしに手を差し伸べてくれた人がいて、住む場所と友だちもできました。彼女がいなければどうなっていたか――わたくしは、親友とさえ言える少女を視界に捉えました。


「グレース……」


 だれの耳にも入らないような儚い吐息。

 そのルームメイトは今も元気にパーティーの中心にいる。

 でもなぜでしょう?

 今の彼女の目はどこか濁っていて、先程の戦闘でも奇妙な動きをしていた。


 ううん。動き自体は良かった。けどその状況でとるべき最適解ではないというか、個々の連携というか、それらとはまた別の要素が欠けていて、それをうまく表現できない。


(やっぱり、あのダンジョンでの出来事を引きずっているのでしょうか)


 不安が募る。わたくしは押しつぶされぬよう胸に手を当てた。

 金属板がかちゃりと鳴って、その音色がわたくしの心を撫でてくれた時でした。


「あんず?」


 珍しく、ドロシーさんがこちらの様子を伺い話しかけてきました。

 逆を言えば、それほどの様子だったということなのかもしれません。


「アンタ大丈夫?」

「ええ、心配いりませんわ」

「気張りなさいよ。アンタまでおかしくなってどうするの」


(やっぱりドロシーさんも気づいてらっしゃるのですね)


 おそらくブーラーさんも察しているでしょう。

 もし、グレースさんに何かあるなら、わたくしがしっかりしなければ。


 そんなことを考えてるうち、目下の目的地まで到達した。


 わたくしたちが辿ってきた道は舗装されない砂利道でしたが、桟橋に近づくにつれその石粒が細くなっていき、やがてふわふわの砂地へと変貌していった。


「これが内海……」


 わたくしは、今まで見てきた川との差に圧倒されました。

 水辺周辺は砂粒に満ちて、その向こうに見渡す限りの青色が広がっている。

 目を細め凝視しててやっと、うっすら対岸らしき陸地が見えるほどの広さ。

 つい先程まで歩んできた草原の緑と砂の白、そして海の青色が織りなすマーブリング。

 この場所で自由に駆け抜けることができたら――わたくしは、背中に妙な高揚感が募っていくのを感じ、それを誤魔化すため視線を誘導した。


「あそこがそうですの?」

「うむ」


 そこには人と人工物があった。


 大きな桟橋がひとつと、それと比較して小さなものがふたつほど。

 船が集っており、大きなものは二十人程度乗れそうなものもある。

 今から人を乗せる船に渡し船が掛かっており、その入口に人と箱。

 おそらく、そこにいる人が渡航料を受け取り、金額に相違ないことを確認してから箱に入れるのでしょう。


「予算はあれど心もとない。テトヴォに到着したら路銀獲得のため働かねばな」

「それより今日中に出発できるの? もう昼過ぎてるけど」

「この時間であれば間に合うはずだ。ギルドのつてによれば、カードを提示すれば割引になるらしい」

「ならさっさと行くわよ」


 桟橋から船が離れていく。はじめて聴く波の音に胸を高鳴らせつつ、わたくしは次なる旅路への第一歩を歩もうとして、


「すまねぇ、今日の便はぜんぶ出払っちまったんだ」


 足止めを食らいました。


「はぁ!? だってあんなにあるじゃない!」


 ドロシーさんが桟橋に固定された船を指差し叫ぶ。あのままでは水に流されてしまうのでは? と思い観察してみたら、どうやらロープで固定されており、さらに重りが沈められてダブルで対策されているようでした。


「人手不足なんだ。船はあっても操縦者がいない」


 桟橋で金銭を受け取っていた半袖のおじさんは、困ったように肩をすくめた。


「だってまだ昼よ! さっきの船が戻ればもう一度だって」

「勘弁してくれ。操縦者にも生活があるんだ。以前はムリしてやってもらったんだが、働き過ぎて事故や辞めてく子がたくさん出ちまってな……運が悪かったなぁチビッ子。昨日だったらあとふた便あったんだが」

「ウチは子どもじゃない!」

「ドロシーやめてやれ。ワガママを言っても何も始まらん」

「そういうことだ。父ちゃんと」

「テメーふざけろ」


 ドロシーさんの呪文は全力で阻止しました。






「あーもう! マモノの襲撃さえなければ間に合ってたのに」


 ドロシーさん、喋るのか食べるのかどっちかにしていただきたいですわ。


「過ぎたことを嘆いても仕方なかろう」

「わかってるわよ、もう」

「あ、ドロちんそれちょーだい」

「盗ってから言うな!」


 わたくしたちは近くのキャンプ地でひと晩過ごすことになりました。


 ここは内海を渡って対岸のテトヴォとをつなぐ場所。であれば、ここは交通の要なので村ができてもおかしくないと思っていたのですが、あるのは広場を中心としたキャンプ地。集落と表現するにはすこし規模が小さいものでした。


「めんどくさいわねぇ。ひとりだったら飛行魔法でひとっ飛びなのに」

「この距離も飛行できるのですか?」

「魔力が続けばね」


 ドロシーさんは木製の器にスプーンを落とし、満ちていた液体を口に運んだ。

 薄暗くなった世界に、焚き火の光が空間を柔らかく映す。

 それがドロシーさんの頬をオレンジ色に照らし、これから訪れる夜の情景を描いていく。


「アンタらは連れてけないわよ。重量オーバー」

「えー、乗せてってほしーなー」

「のしかかんなって、ンもう」


 船が出向してしまい途方に暮れた後、みなさんはそれぞれスイッチを切り替え個々に動いていました。

 ドロシーさんは読書。

 ブーラーさんは身体の鍛錬と奉仕活動。

 わたくしは鎧の整備と剣の鍛錬。まだまだ未熟な身ですから、より強くならないといけませんもの。

 グレースはいつものように散歩をして、たまに人助けをしてオトモダチをつくって帰ってくるだろうと思っていたのですが。


「ん? どしたのあんずちゃん?」

「いえ、なんでもありませんわ」

「えー言ってよーわたしとあんずちゃんの仲じゃん?」


 言って、彼女はドロシーさんから離れこちらに抱きついてきた。

 やわらかい腕。それがわたくしの腰を包み込み頬が緩む反面、彼女のことを思うと不安でいっぱいになった。


(グレース、いったいどうしてしまったんですの?)


 剣の鍛錬中、グレースがわたくしの様子を見に来ました。

 奇妙に思いましたが、せっかくですから訓練に付き合ってもらおうと誘って、彼女は首を横に振りました。


 わたしが守ってあげるから。


 彼女はそう言った。

 以前は「いっしょにがんばろ!」と励ましてくれたのに。


「ねーブッちゃーん。たまにはいっしょにおさんぽしよーよ」

「人にはそれぞれの役割がある。お主もそれを邁進すれば良い」

「何言ってるのかわかんなーい」


 ブーラーさんは真正面から彼女を見据えた。わたくしの目から凄腕の暗殺者に見える少女は、腕を屈強な黒人僧侶の首にまわしじゃれついている。


(……どんな言葉なら、わたくしの心が貴方に伝わるでしょうか)


 パチン。

 火にくべられていた木材が弾け、火の粉が宙に舞った。

火の粉「こうすればいいと思うよ」


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