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少女をさがして

三千里ほどじゃないけどたぶん三千歩くらい

 こう見えて社交スキル完備なわたし。笑顔と愛嬌をふりまいて情報収集にあたりました。


「ねーねーおじーさん。牧場のおんなの子見かけなかった?」


「かわいらしいお嬢さん。あなたと同じくらいかわいい少女いませんか?」


「おばーちゃん。洗濯物手伝ったげるからかわいいおんなの子紹介してくれない?」


 ん、なんか最後らへんおかしかったけど、村の隅から隅までめぐって成果なしという結論にたどり着いた。


(そんなのおかしい。母屋やキネレットちゃんのおへやにもいなかったのに)


「あぁ、キミは旅の人か」


 村のまんなかにある井戸に腰掛けていると、こちらへゆっくり歩み寄ってくる男性の姿があった。


 若くないけど年寄りでもない。身なりはふつうだけどお金もちの雰囲気。あ、思い出した。


「おみせのおじちゃん?」


「おじちゃんか。っはは、まあそんくらいの年だな」


 おじちゃんは苦笑いとともに立ち止まる。距離にして数歩、武器を取り出し身構えるには近いかなっていかんいかん。彼はそういう類の人じゃないから。


「聞いたよ、あの牧場のじいさんにお世話んなってるって?」


 わたしが肯定の意思を示すと、彼は腰に両手を当て困ったような顔をした。


「あそこの子には苦労させられるね」


「どうして?」


「うちの商品をベタベタさわるんだよ。やめろって言っても聞かないし、しかも剣や弓なんかをほしがるんだ」


 おかしなもんだろ? 彼はそうつづけた。


「まだちいさな子どもだぞ? しかも女の子だ」


「わたしもおんなの子だよ?」


 彼は笑った。


()じゃないだろ」


 あめの匂いが強くなっていく。冷たい風が家々のスキマを通り抜け、屋根付きの井戸がピューピュと音をたてた。


「ひと雨きそうだな……あの子だいじょうぶか?」


「え? キネレットちゃんのこと?」


「あ、ああ」


「あの子がどこにいるか知ってるの!?」


 わたしは一瞬で彼の懐に入り腕を――とろうとしてキャンセルし、そのまま彼に詰め寄った。心なしか、彼の頬に赤みがさしたような気がした。


「おしえて! キネレットちゃん今どこ?」


「ちょ、ちょっとまってわかった! 話すからちょっと」


 手で距離を開けるよううながしてくる。しぶしぶながらそれを受け入れ、わたしは数歩下がり井戸の前に立つ。彼は荒くなった息を落ち着かせてから語りはじめた。


「ちょっと前に薬草を買いに来てね、この後村はずれの森にいくとかなんとか。さすがに心配だったから止めたけど聞かなくて、だから、今からティベリアさんへ伺おうとしてたんだけど」


(村はずれの森、あそこだ!)


「え、ちょっと!」


 キネレットちゃんの部屋にあったバックパックの意味がわかった。だとすると今頃はもう森に足を踏み入れてるかもしれない。あそこは大型の獣は出ないと思うけど、それでもおんなの子ひとりで行っていい場所じゃない。


「おじちゃんさんきゅ!!」


 わたしは駆け出した。彼は一瞬で背中を小さくしていく少女の姿を見送っている。それが完全に消えてなくなったころ、ゆっくりと彼の唇が動いた。


「なんだ。かわいい女の子に詰め寄られたのは久しぶりだな……こっちこそありがとう」


 そんなつぶやきが井戸の奥にこだました。






「行ってしまいましたわね」


 あっという間に消えてしまったルームメイトの姿を見送る。今は甲冑ではなくその下に着用する布地姿で、彼女は今しがた降りたばかりの愛馬に手を当てていた。


 さらさらとした感触。そして頬を撫でていく風。金属鎧に覆われた状態では感じることのできないやわらかさだ。


「アテもないのに、まさか村じゅうシラミ潰しにあたるつもりかしら?」


「グレースならやりかねん。まあ、いずれ迷子を連れて帰ってくるだろう」


 みなも行くか? そう行って、ブーラーがここにいる全員に向け視線を送った。全員で探索すればそれだけ発見の確率が上昇する。けどここに帰ってきた少女を迎える人も必要だ。


「行ってらっしゃい」


「ドロシー、貴様少しは他者の心配をしてみてはどうだ」


「イヤよまごめんどくさい。アンタとあんずで行けばいいじゃない」


「ワシらはどうすれば」


 ふらりとどこかへ行ってしまった孫娘を心配し、ティベリアさんが不安そうな声を出す。好奇心が高じて他人が大切にしてる甲冑を勝手に弄る不届き者ではあるけど、心配する家族がいる以上、はやく連れ戻して説教のひとつでも差し上げてやらねば。


「ティベリア殿はここで待っていてください。あんずよ、我々でグレースを追い加勢するぞ」


「もちろんですわ……あら」


 ガタイの良い黒人牧師に促され村のほうへ視線を向ける際、ふと牧場に佇む純白の馬が目に入った。


 八本の足。立派なたてがみにエメラルドグリーンの瞳。ティベリアさんがスレイプニールと名付けたその名馬は、自由に草を食べる他のそれらと異なり、ただ威厳ある姿で一方を凝視していた。


 森だ。


 開けた牧場のさらに向こう側。村はずれに緑が立ち並ぶ領域が広がっている。遠くにある山々ほどでないにしろ、人が立ち寄るには深い。あるいは、事情があって村に立ち寄れぬ輩が身を隠すにはほどよい拠点になるかもしれない。無論、キケンを承知の上で潜むのであればの話だ。


 そんな場所に少女がひとり足を踏み入れようものなら――。


(まさか)


 そう思い、昨日の記憶がよみがえる。ティベリアさんは何と言っていたか?


(……まさか)


 イヤな予感が脳裏をよぎる。思考にまとわりつくそれを加速させるかのように、八本足の馬はその方面をじっと見つめていた。


 ふと、それらのうちの一本が動いた。それに呼応してまた一本、次の一本と連動し、通常の馬が動くスピードの倍の速さでこちらに近づいてくる。


「え?」


 並足、早足、駆け足――襲歩。


 近づいてくる。すげぇ速度で。


(ちょっとまって! その走り方は、はっぽんあしでも可能ですの!?)


 っと思ってるうちにもはや眼前である。


 スレイプニールの美しい瞳に射抜かれたと思えば、次の瞬間にはその頭部が下がる。下腹部に打ち付けられる。打撃ではなく、まず添えるように触れてから勢いをつけ振り上げ、甲冑の重さがない身体はいとも簡単に空へと舞い上がった。


「いきなりなんですのぉおお!!」


 天と地が真逆になって、落下の衝撃に身を固くし、しかし、それは股の下にやわらかい感触を味わうだけだった。


「え?」


 気づけば、身体はスレイプニールの身体にまたがっていた。


 八本足の馬は鐙も鞍も装着してない。だから、騎乗時の衝撃がダイレクトに股の間へ伝わる。ゴッ、ゲシッ、ドンッ。


「え、あ、いや、あ、あまり揺らさないでくださいまし、あンッ!」


「あんず!」


 声に気づき振り向けば、その主ははるか後方で驚きに手を伸ばしていた。


 バランスが崩れ、身体が振り落とされそうになって必死にたてがみへ握力をかける。馬の口元から抗議の声が上がったように聞こえたが、こちらとて命が大事なのだからどうしようもない。


「ちょっと、とまって、止まってください!」


 懇願虚しく、純白に翡翠の瞳を携えた馬は一直線に森へと駆けていくのだった。

乗馬体験してみたいなぁ(なお重量制限

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