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気になるあの子

少女よ大志をいだけ

「ひゃんッ!!」


 沈黙を貫くような霹靂(へきれき)が落ち、視界の明滅に重なり少女の悲鳴が飛び出した。


 僧侶は驚きに身をかがめた、今は甲冑を脱ぎ捨て身軽になった少女を一瞥し、神妙な面持ちで窓の外を確認する。


「大雨になるな」


 ウマたちはすでに納屋にいるけど、あのはっぽんあしのウマだけは、まだ湿気と風が入り乱れるその空間にいて、静かに迫りくる暗雲に翡翠色の目を向けている。


「ああ、あの夜もこのような黒じゃった。ワシらはただ物陰に隠れヤツらが去るのを待っていた。じゃが息子は……バハルは妻の仇を討つため飛び出していった。そしてあっけなく殺され、濁流に呑まれた」


(ティベリアさん)


 先ほどの殺意がまだある。それでも落ち着いてきたのか、異様なほど痙攣していた瞳が焦点を取り戻し、求めるかのようにカップを注視する。それから肩がうごき、腕がうごき、手がひらかれそれを掴む。


 そうしなければいられないんだ。


「村の近くに川があったじゃろう」


(かわ、そういえばあったような)


 ちょっとした小川。身体をめいっぱい伸ばしたブッちゃんふたりぶんくらいの幅で、深さもそんなに。とても濁流って呼べるような規模じゃない気がする。


「あの時は嵐でしたからね……結局、バハルの亡骸はどこにも見つかりませんでした」


 ジェネザレスさんが静かな吐息とともに立ち上がった。そのまま暖炉まで歩いていって、立てかけられていた写し身のひとつに愛おしい眼差しを向ける。


 みんな笑顔だった。


「今でも、ときどき探しに行くんです。もしかしたらあの子がのこしたものがあるんじゃないかって」


「嵐で増水したなら、そのまま流されてもしかたないわね」


「ドロシー、お前というヤツは」


 若干責める口調のブッちゃん。


「可能性の話よ。べつに無いなんて言ってないじゃない」


「申し訳ない。しつけの行き届かぬ餓鬼(がき)が心ないことを」


 ドロちんが抗議の視線を向けたがスルー。こっちも余計な口出さないでおこ。


「いいえ、年寄の長話に付き合ってくれてありがとう。さ、せっかくの料理が冷めてしまうわ」


 おばあちゃんはみんなに食事を勧める。先ほどからおいしそうな匂いに包まれていて、ちょっとでも意識するとお腹がグルルと鳴ってしまいそうだ。


(あっ)


 ぐるるるぅ。


「ふふっ、たんとお食べ」


 そう言って、わたしの前に暖かいスープが入った器を差し出す。ガマンむなしく、おなかがまたぐるると鳴った。






 おなかいっぱいになった!


(あれ?)


 おかしいな、これから食事中のシーンを挟むはずだったのに一瞬でベッドシーンに飛ばされたぞ?


(でもなんでだろう? ほんとに一瞬だった気がする)


 スープはすぐなくなったしおにくはもちろんマッハで。にんじんもじゃがいももおいしかったしサイコーだった!


(ってかんじで終わっちゃった)


 今はシーツの上にちょこんとおすわり。ザーザー降りになって外はもうまっくら。ドロちんが唱えた炎のスキルだけがこの部屋を照らしてる。


 まあ、そのカンテラが壁にいくつもあるから明るいんですけどね。雰囲気はまさに夏休みのキャンプあんどロッジですわよ。


「あの子、最後まで部屋から出てきませんでしたわね」


 鎧に白いワタのようなものをぽんぽんと当てつつ、あんずちゃんは出てったきり姿を表さなくなった少女を気にかけていた。一方、うちの見た目最年少はどこ吹く風だ。


「ほっときなさいよ、反抗期なんでしょ」


「おまえは見た目が反抗期だ」


「なんですって!?」


「まったくたわけたことを。アレが子を亡くした親に対する態度か」


(あーはじまった)


 まったくもう、わたしがいるパーティーはだれかしらケンカっぱやいな。


「気遣ったところで現実が変わるわけじゃない。それともまだ生きてますよーなんて言うつもり?」


「せめて言葉を選べ。今我々はそのバハルとミニア殿の部屋を拝借しているのだ」


 そう。ここはあのふたりにとってかけがえのない人が暮らしていた部屋だ。それを知った時にはわたしはもちろん、あんずちゃんやブッちゃんは申しわけなさそうに断ろうとしたんだけど、ティベリアさんの言葉に根負けして使わせてもらうことになった。


 大きなベッドはわたしとあんずちゃんで。ドロちんはその傍にある小さい子ども用ベッド。ブッちゃんは寝袋を使う。借り物だし、ことの経緯を知っちゃったからには気遣いレベルマックスで使わせてもらいます。えーっとナイフを鞘にしまってあるかな?


(まちがって息子さんの遺品切り裂いちゃいましたぁ~なんてシャレにならないし)


 なんて考えつつ、わたしの頭は昼の出来事を繰り返していた。


 とつぜん後ろから声をかけられ、好奇心のまま質問攻めを受け、ナイフを盗まれ取り返し、村の外にあこがれる少女はキラキラした瞳でこっちを見つめていた。


 実は、この部屋に案内される途中キネレットの部屋の前を通った。そのときあの子はいなかったけど、扉が半開きになってかすかに中を確認できた。そこには荷物をぎゅう詰めにされた、大きなリュックサックがあった。


 まるで、これから冒険に行く準備をするような。


(イヤな予感がするなー)


 外れてほしいなと思いつつ、まだことばの応酬を繰り返すシロとクロをぼんやり眺めていた。

おとなしくしてらんないおとしごろ

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