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あこがれ

熱烈なファン(強風

「旅人さん!」


 親を見つけた子犬のごとくぴょんぴょんやってきた。無邪気なかわいさは認めるけど今は遠慮しておきたいなぁ。


 今からメシなのだよ。何よりも代えがたい時間なのだよ。というこころの願いかなわず、みんなふしぎがってこちらに視線を集中させた。


「知り合いか?」


 みんなの疑問を代弁したのはブッちゃんだ。


「うん、昼間にちょっと」


「ほんとに村をぶらぶらしてたの? ヒマ人ね」


 ドロちんのつっこみははんぶん当たりではんぶん不正解だ。村の様子を観察しつつボランティアしつつこっそりお駄賃もらってたし。


「客人に失礼じゃよ」


 活発系女子をたしなめるよう、おじいちゃんが孫にひと言添えた。それに若干バツが悪そうにする孫だが、次の瞬間には反省タイム終了。すぐさまこっちに花のような笑顔を向けてくる。


「みんなここに泊まるのね! やった! じゃあいろいろはお話聞けるの?」


「フッ」


 めげない女の子の態度に、ブッちゃんの口元からそんな笑みが漏れた。それまで見守っていたおばあちゃんがようやく唇を開く。


「この子はキネレット。うちの孫娘です」


「じゅーにさいだよ!」


 少女はげんきに指で自分の年齢を示した。はは、ほんとげんきだなぁ。


「じゃ、いただきまぁ――」


「旅人さんはどこから来たの?」


「うぐぅ」


 キャンセル攻撃をくらった。


「フラーだ」


「首都から!? すごいすごい! ねえねえフラーってどんなとこなの?」


 しかもブッちゃんがご丁寧に答えてくださるのやめて、どんどんお食事の時間が遠のいちゃうじゃん!


「近いんだから実際に行ってみればいいじゃない」


「その杖、あなた魔法使いさんね!? ――そうしたいんだけど、おじいちゃんとおばあちゃんが許してくれないんだ」


 と、抗議の視線。そんな孫に、おじいちゃんとおばあちゃんは困ったような顔をした。


「ご両親はどちらにいらっしゃるのですか? どうせなら」


 みんないっしょに食卓を囲みませんか? あんずちゃんはそんな意図で言ったんだと思う。けど、その途中からティベリアさんの顔色が変わったのを見て言葉を切った。


 そして、ティベリアさんは悲しそうに外を見る。


「五年ほど前に事故があってね」


 窓の外にはだれもいない。けど、そこにだれかの影を感じているようだった。


「ごめんなさい! わたくしそんなつもりじゃ」


 慌てて彼らを交互に見、手をわしゃわしゃする。そんな様子を見て逆に申し訳なさを覚えるふたりと、つとめて平然さを装う孫娘の姿があった。


「いいの昔のことだし。それに、わたしが赤ちゃんのころに死んじゃったからパパとママの顔もよく覚えてないんだ」


「それよりもキネレット、そんなにドロだらけになって。おへやで着替えてきなさい」


「はーい」


 ジェネザレスさんの言葉を素直に受け止める孫娘。けど扉は開け放ったまま。素直なんだかせっかちなんだか。


 彼女の姿が消えたのを確認し、ティベリアさんは少し息を吐く。おばあさんがやさしい笑みを浮かべた。


「あの子には、この村は狭すぎるのかもしれませんね」


「まったくお転婆すぎて心配じゃよ。たまに、勝手に村を出ていくそうじゃないか」


「若いうちはそういうものですよ」


(わかいうちは、かぁ)


 オジサンもそんなこと言ってたな。


(近頃の若いモンはとか、なにを考えてるんだとか、こっちだってわかんないよ)


 オジサンが何を考えていっしょに旅してきたのか。


 さいしょからわたしたちを利用するつもりだったのか。


 異世界人をそういう目(・・・・・)でしか見てなかったのか。


 答えなんて見いだせない。その疑問はキネレットが部屋から戻ってきて、いっしょに「いただきます」してからもどんより残った。


「りょだんってなに?」


 無邪気な少女はひたすら質問攻めをしてきた。


 まずはわたしへ。ぶっちゃんが親切に答えてくれることを学習してからはそっちへ。魔法に関係する質問はドロちんに。なにより熱意を帯びていたのは、あんずちゃんが普段甲冑を身に着けていることを知った時だった。


「わたしも付けたい!」


「とんでもない! これはおふざけ用ではありませんのよ」


 さすがのあんずちゃんもこのリクエストにはノーサインだった。勝手に兜に触れた時なんか、今まで出したことのないような声をあげていた。で、すぐ懐からふきんを出してスリスリしてた。


「こういうのは日々の手入れが肝心ですの! 不用意に触れないでくださいな」


 ワックスかな? 渋々といった顔で引き下がるものの、まだキネレットの好奇心は収まらず、とうとうのっぴきならない問題発言までかましてきた。


「わたしも連れてって!」


(ムリだよ)


 言っても聞かないだろうな~。


「よかろう」


「ブッちゃん!?」


「数年後、そなたが技能を身につけひとり立ちできる力を得た時は、拙者が力になろう」


(あ、そういう)


 まあそうだよね。あんずちゃんは呆れつつ困った顔してるし、ドロちんなんかは「バッカじゃないの?」とでも言いたそうだ。


「そうじゃなくて、今すぐ! いまがいいの」


「わがままを言ってみなさまを困らせるな」


 ティベリアさんがすぐにたしなめた。


「二十年前と比べ平和になったとはいえ、ちかごろは盗賊どもが出没してるそうじゃないか。聞いたぞキネレット。たまに村はずれの森へ行くそうじゃないか」


 孫の行いをちょっぴり責めるような口調。それに気づいたキネレットは、悲し気な声色で眉を寄せた。


「それがどうしたの」


「村の外はキケンじゃ。あまり遠くまで行かないでおくれ」


「べつにいーじゃん!」


(うわーだだっこ)


「キネレット。おじいさんのことをわかってあげて」


「おばあちゃんまでそんなこと言うの?」


「聞いてくれ。バハルとミニヤとの約束なんじゃ。おまえにぜったい苦労させんと。じゃから、あまり危ないところへ行かんでおくれ」


「それって結局パパとママにわたしのこと頼まれたからじゃん」


 孫娘が地団駄を踏む。この流れわたしにはわかるぞ、これはケンカの匂いだ。


「あ、あのぉ、止めたほうがよろしいのでは?」


「ならあんずが止めなさい。ウチは知らないわよ」


 と傍観者が様子を見るなか、ふたりの口ゲンカが止まらない。


「そんなことない。ワシは」


「わたしのこと心配するフリして、それ結局じぶんのためじゃん! おじいちゃんはパパとママのことしか気にしてないんでしょ!?」


「キネレット!」


 おじいさんの怒声が響く。それに驚いたのか、キネレットはしゅんと眉を下げ身体を若干低くする。


「いいもん」


 それでも、彼女の目には力があった。


「わたし勝手にするもん!」


「キネレット!」


 おばあさんの静止を聞かず、彼女は背中を向け部屋を出ていってしまった。

よし、村を出よう

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