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リスク分散

気軽に軽装で旅してる異世界ムーブ。リアルでやると数日保たないからね、いざというときの資産形成は大事だよね。


命がなくなったら意味ないんだけどね。

 人がたくさんあつまる場所には食べ物もたくさんあつまる。


 フラーに戻るのはしばらく先になりそう。そう思うと、日頃の欲望を開放したくなってくる。すなわち食欲。


「……食うな」


 染み入るようなバリトンボイスである。ブッちゃんて気分によってテノールだったりバスだったりするよね。


 今はその中間。呆れれば呆れるほど声色が低くなる。つまり、今はそこそこ呆れてるでございます。


「ん?」


 わたしは粉をまぜて固めて焼いた生地に生クリームとチョコとそのほかモロモロをトッピングした食べ物を頬張りつつ振り向いた。


「それでよっつめですわよ?」


「たいやき、パフェ、タルト、そしてクレープ。まったく、見てる側が頭痛を起こすわ」


「ん、ふぇっふぁふあーあいまをうぃいうぇんぺんふぉめぅっておもうももっめめ」


「口にものを入れながら喋るなたわけが」


 ブッちゃんに叱られた。


「早く食べきってくださいな。さっきから周囲の視線が痛いですの」


 あんずちゃんに追い打ちくらった。しかたない。わたしは残りをごっくんこした。


「ん、せっかくだから今のうちに全店舗巡っておこうとおもって」


 チラッと横目に女騎士。こっちはリアルタイム燃料補給中なので元気ビンビンです。それに引き換え両隣のおふたりはノーマルテンション。


 気持ちの差よ。これがわたしの足だけを先行させ、気づけばふたりより一歩前をあるいておりました。


 あ、まだお口にクリームついてる。ぺろり。


「次はどこ行こっか?」


「まだですの!?」


 商店が立ち並ぶ通りのど真ん中。これからが人混みの本番だというころに、小さい女騎士は驚愕と共に金属音をたてた。


 まっくろ僧侶は黙って批難の視線をこちらへ向ける。


「もう昼になってしまいますわよ」


「えーでもぉ」


 見えないロープがわたしを引っ張るの! あのお店に!


(問題。あのお店とはどれだ?)


 あそこのショートケーキおいしかったまた食べたい! その向かい側のレストランお持ち帰りのマカロンあるんだよなぁあああ裏通りにある和菓子屋さんのきんつばもまだ食べてないしあーもうどうしたらいいの!


(たくさんあってちぎれちゃいそう!)


「まったく加減を知らないんだから。っていうかお金は大丈夫ですの? さきほどのお店、このあたりじゃ有名な高級スイーツ店ですのよ?」


「そのへんはダイジョーブ。今までロクに使ってこなかったから蓄えはあるんだ」


 逆に、今まで使う場面がなかった。オジサンたちといっしょの時はずーっと旅してたし、食べ物は現地調達だし、使う場面といったら武器のお手入れ用具くらい?


 なので、お金はけっこー貯まってるのです。えっへん。


「ほう。では貯金しているのか」


「うん。ギルドに登録してるのと、あとダッシュさんのすすめで旅団にも口座があるんだ」


 真正面を向き淡々と歩ってた僧侶が、驚きにローブを揺さぶった。


「意外だな。おぬしならメンドウだと言って作らないと思っていたが」


「ふふふ、この時代リスク分散は必須なのですよ。と、ダッシュさんが申しておりました」


 なんか知らないけどそうしたほうがいいんだって。


「リスク分散ってなんですの?」


 そういうのわかってない(わたしもだけどなあんずちゃんが尋ね、なんでも知ってる雰囲気のブッちゃんが雄弁モードに突入した。


「まずは銀行の概念から説明せねばならんか。ギルドは所属する個々に銀行口座を開設する権利を与える。報酬は基本報告と同時に受け取るが、その際口座に振り込んでもらうことも可能だな」


「ええ、そうですわね」


「あんず、おぬしは以前ブルームーンに口座をもっていたな」


「ええ。まあ、今は辞めてしまったのでギルドのほうに口座をもっていますが」


「おぬしがブルームーンを抜けた経緯を考えれば仕方ないが、通常であればリスクを考え口座を残しておき、さらにギルド用の口座を開設したほうが良い」


「それは、なぜですの?」


 ブッちゃんはここからが肝心だとでも言うように目力を加えた。


「一方の口座がなんらかのトラブルで使えなくなったとき、もう一方の口座を利用することができる。急にお金が必要になったり、冒険者同士の取り引きで口座振込を要求されることもあるのだ」


 拙者もはじめは苦労した。ふかーく唸ってる様子からして失敗談ありと見た。フラーまでの旅路、ギルド関係はずっとオジサンが管理してたからよくわからないけど、もしかしたらオジサンも苦労した場面があったかもしれない。


「さらに、銀行機能をもつ組織自体が消滅してしまうかもしれん」


「まさか」


 あんずちゃんが目をまるくした。


「ギルドがなくなるなんてあり得ませんわ」


「無論、国家運営のギルドであればその可能性は低いだろう。それに、ギルド口座なら万が一のことがあっても一定額までは補償される。今までの苦労が水泡に帰してしまうことを考えれば、その金額までを上限として、余剰ぶんは旅団など他銀行に移すのが理想と言えよう」


「はあ、いろいろとめんどうなのですね」


「だが、やらねばならんことだ」


 小難しい授業に若干の眠気を覚えつつ、わたしは自分のサイフに目を向けた。


 金貨がひとつ、んで銀貨がふたつ。次の目的地までのお宿、行商人との取り引きぶん、あと野宿と狩猟の稼ぎを考慮して……うん、あとソフトクリームあんみつバームクーヘンくらいは買えるかな。


「よーし次はどこいこっかな!」


 両隣から極寒の視線を感じた。


「もう付き合ってられん。あんずよ、こやつを引っ掴みさっさとフラーを出よう」


「賛成ですわ。このままでは夜になってしまいますもの」


 ガシッ。


「ふぇ?」


 ズルズル。


「あぁぁまって、まってせめてソフトクリームだけでも!」


「たわけが」


「あとで食べられますわよ」


「あとじゃないもん! しばらく帰れないもん! うわーん!」


 市場にはたくさんの食べ物が並んでいる。そのひとつひとつが魅力に満ちた香りを醸し出し、屋台のおっちゃんが麺を放り投げ熱い音色を演奏し、すれ違う少女は、まさにわたしが追い求めていたソフトクリームを頬張っている。


 めっちゃ幸せそうに。


(わたしも――わたしもぉ!)


「食べられないなんてヤダー!」


 銀の甲冑に身を包んだ少女と青いローブの巨人に引きずられ、ひとりの哀れでかわいそうなおんなの子の叫びが木霊する。


「あーおーぼーだーけんりょくらんようだー!!」


 叫んでも暴れても許してくれないんだけど。っていうかふたりとも両腕ガチホすぎない? アサシンスキル駆使しても抜けないんですが?


 だれか助けてくれる方いませんか?


 そのお口にアイスクリームを突っ込んでくれる方いませんか?


「まってー!!」


 こっちに背を向けソフトクリームを頬張る少女と引き換えに、猛スピードで追いかけるおんなの子の姿があった。


(あれ?)


 聞き覚えのある声。あんずちゃんよりひとまわり小さな体躯。白と黒の衣装。魔法少女然としてるのはとんがり帽子だけで、魔法使いというよりは動きやすさを追求した研究者のような装備。


 それが猛スピードでやってくる。


 滑空して。


 地面スレスレで。


「ん?」


 ガチホふたり組も彼女に気付いたようだ。ふと力を緩めたスキに腕抜けをしつつ、やってきた魔法少女の様子をじっくり観察。


 疲れてるっぽい。物理的な運動じゃなくて精神面。魔法を使うにもいろいろエネルギーが要るらしく、少女は小さい身体をフル活用してここまでやってきたらしい。


「よかった間に合った!」


「ドロちん? どしたの?」


「ウチもついていくわ。問題ないわよね!」


 駆けつけた少女に驚き戸惑うあんずちゃんに対し、うちの僧侶は落ち着き払った様子でアゴに指。


「ああ、どこぞのだれかがムダに時間と金を浪費してたからな。それにしてもどうした。おぬしは付いて来ないのではなかったのか?」


「こっちにも事情があんのよ」


 事情とは、と聞くヒマもなく身長最年少はみんなの間をすり抜けていく。


 行先はもちろん、フラーと外を仕切る門である。


「フラッツ・スワン経由でカニスまで行くんでしょ? 途中までなら知ってるから、ほらさっさと行くわよ」


「急に現れておいてその態度とは」


「まあまあブッちゃん」


 賑やかなのはいいことだよ。


「いこっ!」


(あんずちゃん、ブッちゃん、ドロちん。みんなかけがえのないオトモダチだ)


「んふふ」


「ねんですの、その笑いは」


「だってみんながいて楽しいんだもん」


 目的地はカニス(魔族の国)だけど、とりあえずはおとなりの村ガラリーを目指していこう。


 その間に、もっとみんなと仲良くなれたらいいな。


 みんなのいろいろを知りたいな。


(新しい旅。いったいどんなオトモダチと会えるんだろう)


 このドキドキした気持ち、何回味わってもかわらない高揚感。


「うー、わんわん!」


 きっと楽しい旅になる。楽しい旅にしてみせる。


 そのために、わたしはたくさんのオトモダチと出会うんだから。

設定は書きながら考えるスタイル。後で清書するからへーきへーき

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