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ワンだふるワンだーらんど ~異世界でトモダチ100人めざします~  作者: 犬物語
2:旅立ちは希望たっぷりのがいいよね
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旅立ち

新章開幕は旅立ち感が大事だと聞いて

 朝はとくいなのです。ってことでニワトリさんよりお早いごあいさついっくよー!


「おっはよーございまーあ!!」


「……うるせー」


「おはよう。こんな時間から元気だな」


 半ば呆れたっぽいつぶやき。なんかね、今日はいつもより早く起きたんだ。


 だってみんなといっしょだったんだもん。オトモダチといっしょにお泊りっていいよね!


「こちとらまだ眠いっつの」


「今日は早く出発するんでしょ?」


「まだ横から太陽射してるじゃねーか。もうちょっと寝かせろ」


「スプリットの言うとおりだ、この時間はまだ早い。このあたりは日が長いらしく、今はまだ寝てる人も多いだろう。時計があれば便利なのだがな」


「っつーか近所メーワクだ」


「えーほんとにぃ? ――じゃあいいや、おやすみ」


「切り替えはえーな」


「いや、そうでもないぞ」


 声のしたほうを見ると、オジサンがはしごのほうから顔を出していた。


「ふぇ?」


「商人たちと交渉していい装備を格安で取引してくれるようになったのでな……が、他の商売敵に見られるとマズい者もいるようだから早めに済ませたいらしい」


「本当ですか? それは助かる」


「オレはいらねー。こっちのが使い馴れてるぜ」


 おチョーシ者の男子が鈍色に光る剣を見せびらかす。けどオジサンはさらっと言ってのけた。


「そんなナマクラじゃ使えん」


「はぁ!? おっちゃんから預かった剣だぞ!」


「正直言うとそれは安物だ。訓練用としては差し支えないがそのほか相手ではキツすぎる。異世界人であるお前たちなら、それでもマモノに立ち向かえるだろうが、今後はそれ以外の相手をする可能性もあるかならな」


「チャールズ殿、それは……」


「いい武器を揃えておくに越したことはない、ということだ」


 ビーちゃんの問いに視線だけ返すと、オジサンはそそくさとはしごを降りてしまった。






「どう? いい感じ?」


「似合ってるぞグレース」


「……ぷっ」


 ビーちゃんから称賛の声を受ける一方、スプリットくんはこらえきれないといった風に吹き出した。


「むむむ? なにか文句あるの?」


「いやだって、オッサンの"お前にピッタリな衣装を用意してやる"を信じた結果がソレかよ」


 人を指差すのシツレーだって教わらなかったのかな?


 指摘され、わたしは自らの衣装を再確認する。夜に溶け込む黒、茂みに馴染むこげついた茶、頑丈なフードもしっかりついたファッショナブルな衣装でございます。


「いーじゃんカッコイイじゃん!」


「あはは! そんな騒がしい暗殺者いるわけねーわ」


「なにおー!」


 そんなこと言ってると死角から飛びかかっちゃうんだかんね!


「ってゆーかスプリットくんのもヘンじゃん!」


「はあ!? どこがだよ」


「なんか石油の匂いする」


「んなワケあるか!」


「ふふっ、グレースの言いたいことはわかる。スプリットのそれはどこか中東のような気品が漂うな」


「わりと動きやすいんだぜ」


「ビーちゃんはそのままなの?」


「ああ、エルフの間に伝わる素材で作られているらしくてな。布どころか並の鎧すら通さぬらしい」


「貴族の社交ダンスじゃないんだから、お披露目会はそのくらいにしとけ。それよりどうだスプリット。あたらしい武器の感触は」


「コレか?」


 問われたスプリットくんは、背負っていた等身大くらいの剣を軽く素振りした。


「まあ、わるくねーな」


「そうか。今のうち慣れておくといい。どんな名刀でも使い手がへっぽこでは元も子もないからな」


 なにか言いた気なスプリットくんを尻目に、オジサンはまぶしそうに手で光を遮る。


「日が昇ってきた。そろそろみなも起きるころだろう。グレース、この袋に食料を詰め込んでおけ。こっちには寝袋、これは武具装備の手入れ用品。明日からは毎日野宿になるぞ」


「えー」


「そう言うな。ここから最寄りの町まで三日はかかる。だからこそここに集落が出来上がったんだ」


「オレもここに来るまでは馬車で寝泊まりしてたな……ってか商人たちと同行できねーの?」


「そんな余裕はないとさ」


「ちぇ、しゃーねーなぁ」


「ねえねえビーちゃんはへーきなの?」


「わたしはエルフたちとの生活で慣れてるから……彼らはたまに野原で睡眠をとっていた」


「それあちこち痛くならね? ってか虫どうすんだよ」


「慣れれば気持ちいものだぞ? それに、虫を遠ざける植物をすりつぶして塗っておけばその心配もなくなる」


「なるほど、大自然の知恵というヤツだな。さて、エルフたちのありがたい知恵を拝借したところで、そろそろ出発するとしよう」


 そう言って、オジサンは皮袋に自分用の食料を投げ込んだ。






「そうか、王都へ向かうのだな」


「そうなるな」


「いよいよ逃げられなくなったか」


「やめてくれ、今から気が重いんだよ」


 心底イヤそうな顔である。


「覚悟しておけよチャールズ。王都に戻ったら王さま貴族さまだけじゃなく国民全員からわっしょいされるだろう。なにせヒーローだからな」


「20年もまえのことだ。それに私ひとりだけの功績ではない。数多くの犠牲があってはじめて成し遂げられた」


「その謙虚さも好感度アップだなうらやましい」


「なら変わってくれるか? ユージーン」


「はは、私は地方行脚の商人のが性に合ってるようだ」


「……朝方あんだけ急かしたクセにいざ出発ってタイミングで延々と話しやがって」


 集落を出ていこうとしたわたしたちを呼び止める声がして、すぐ済ませると行ったっきりすでに五分経過オジサンである。


「オッサンはやくしろよー!」


「ああ、すまん!」


「ははは、お互いタイヘンだな」


「子守は楽じゃない。だが昨日の今日で成長してくガキどもを見るとうらやましさを覚えんでもない」


「あの異世界人たちを頼んだ。しっかりモノにしてやってくれよ?」


「……それは国のためか?」


「バカ言え。こちとら大貴族にキバ剥いて閑職に追いやられた身分だぞ? ――あの子たちには自分の身を自分で守れるようにしてやってくれ」


「元からそのつもりだ。達者でな」


「あ、こっちくる」


 最後のあいさつを済ませたオジサンが足早に歩み寄ってきた。


「おせーよオッサン」


「待たせたな」


 みんなが揃った。オジサン、スプリットくん、ビーちゃん、そしてわたし。


 異世界にやってきて、オジサンとオトモダチになって、そしてここではスプリットくんとビーちゃんとオトモダチになった。


(これからもっともっとオトモダチの輪をつくるんだ。それで、みんなといっしょに――)


「よーし、じゃあいくぞー! おー!」


 わたしたちの旅は、まだ始まったばかりだ!

打ち切りではありません


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